龍王転生〜転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について〜

歯軋り男

第1話神はいないが幼女はいた


『好きです!付き合ってください!!』



『ごめんなさい……ごめんなさい』



『oh...』


ーーー

ーー


高校生にもなれば彼女の1人や2人や3人くらい自然と出来る。そんな風に考えていた時期が僕にもありました……怒涛の25連敗(全部同じ人)である。落ち目の野球チームだってここまで負けたりはしないだろう。告白されたら大なり小なり相手を意識する説は誰が提唱したのか?間違った定説が広まるとこうなるのだ。俺は被害者。許せん。訴訟も辞さない構えである



「ハァ……」



それはそうと今日は12月23日。世間一般ではクリスマスイブというやばい行事の前日にあたる。

だってそうだろう。ハロウィン然りクリスマス然り。日本人はこの時期になると頭がおかしくなって乱痴気騒ぎする奴が出没しているじゃあないか!だが俺は思う。これはその人が悪いのか?否!断じて否である!



エロ、、、偉い人は言いました。罪を憎んで人を憎まずと



つまりこういうことだ。頭がおかしな人間を生み出すこの悪魔的なイベントが全て悪いのだ。キリストの生誕祭を貶めるサタンの謀略なのではと俺は気づいちゃいましたね。だから一刻も早くクリスマスを規制しろ



Q.そもそも目の前でこれ見よがしに自分の幸せを相手に見せ付けて悦に浸る。これってハラスメントじゃないでしょうか?

A.はい、仰る通り、これは所謂ハピハラ(ハッピーハラスメント)に該当すると思われますので早急に然るべき所に相談することをお勧めいたします



なるほど、つまりこれは嫉妬やない。これだけはハッキリしているわけだ



ごめん。嫉妬です。純度100%の妬みと僻みです。こちとら苦い思いしてるのに糖度1000%の甘い思いしてる彼女持ちが只々羨ましいぃぃぃ!

煽り運転より先に規制すべきものがあるんじゃないだろうか?誰でもいい。リア充規制法を一刻も早く可決してくれ。俺が死ぬぞ これが本当の脈無し!二重の意味でね!なんつってー……



雪が降り、世界が真っ白に彩られていた。なのに俺のお先は真っ暗とはこれいかに。今なら俺のこの服を真っ赤に染められそうだよ。カップル共の血によってな。

サンタ?誰その髭なめてんの?サタンの間違いだから。メリークルシミマス!!!



「ハァー‥‥ハァ~‥‥」



冷え込んでいるせいか、自然と自分の吐息と溜め息を交互に両手に吹きかけながら歩んでしまう。溜め息を吐くと幸福が逃げるというが、幸福=カップル。つまり幸福が逃げるとは、目の前からカップル共が逃げ出す。一種の魔除け的な意味が込められているのではないかと俺は思う。そうと分かれば率先して溜め息をつかなければ。自分の身は自分で守る。やれやれだぜ



それにしても雪に足を取られながらのせいなのか、いつも通りの帰り道なのにやけに時間がかかってしまった。まあ足取りが重いし気が重いのも少しはあるかもしれない。

信号で足を止める。ついでに俺の人生の歩みも止めて欲しい。目の前の信号の色は赤から青へと直ぐに変わった。それと同時に無機質な音が流れる


「寒いなぁ‥‥ホント」



「心が」



気付けば俺の心と財布の懐は寒冷期を通り越して、生き物が死に絶える氷河期に突入していたようだった。

音が耳に入るに伴い、俺は殆ど反射的に足を進める。左右確認しないと危ないだって?馬鹿め。車が来たら音で分かるのだ


それに今の俺の歩みは何人足りとも止める事は出来ん。歩行者こそが強者なのだ。人身事故舐めんなよ、おらぁ!人生クラッシャー第一人者だぞ!



‥‥‥まあ俺の心は既にクラッシュしてるけどね。

と、言ってる側から白いトラックが荒ぶる音と共に横路地から颯爽と現れる。例えるならラブコメでパンを口に加えて現れるヒロインの如くだ。奴らは歩く人身事故製造機!



遅刻遅刻~。早く学校に急がなきゃー!そんな感じで前方不注意で主人公とぶつかってそこからフラグが建ってゆくのだ。なにその素敵事故。俺もぶつかりたいんだけど!むしろ積極的にぶつかっていきたいんだけど!!


しかしこの場合、あのトラックにぶつかっても建つのは死亡フラグだし、出てくるのは美少女ではなくオッサンであろう。夢も希望もついでに彼女もいない



まああちらも急いでいるのだろうし、トラックは止まりそうにないので俺は動きかけた足を止めた。

ふと、気付くと背後に息遣いを感じる。そいつは何かをボソボソと口にしている様だった



「何言って」



────トンッ!

後ろにいたその誰かが俺の背を軽く押した。

瞬間、耳を劈く音が響き渡る。これは多分ブレーキをかけたトラックのタイヤがアスファルトを擦っている音だろう



誰が押したのだろうか。せめて後ろを振り返って顔だけでも確認して……!



だが視界はトラックのライトによって何も見えず白んでしまっている。光源が横から近づいてきたかと思うと、物凄い衝撃が俺の体を駆け巡ったのはそれから直ぐの事だった




「うわぁぁぁあああ!!!」



俺は騒々しい絶叫と共に飛び跳ねる



「あ、起きた」



「‥‥‥ってあれ?」



「生きてる、だと」



「おはよう ×××」



確認の為にペタペタと自分の顔やら体を触る。意識はハッキリしているし、五体満足。つまりこれは一体どういうことでしょうか。幻覚?はたまた幻術?なんて冗談は置いといてこれが世で聞く



「夢オチか!」



「挨拶くらいは返そうよ」



「いやぁ、良かったよ。夢で。うん」



「無視…ふ、ふん!別にいいんだから。別に……グスン」



むしろ、夢じゃなかったらどうしようかと思ったぜ。そうだよな。だって俺の人生これからだもん!

見える。俺のモテモテ栄光の架橋がな



「そうと分かれば明日に備えて寝るか」



「って、ここは何処だよぉぉぉぉ!」



なんで天井がないの!?地面が無いの!?色が白で統一されてんの!?何処ですか!!?拉致監禁!?うちそんなに金持ちじゃねえよ!!?



「はっ!夢か。そうかまた夢なんだな!!」



二段落ちとはやってくれる。にしてもあんなにリアルな夢の後に更にこんな夢を見るとか我ながら驚きのハイクオリティーだぜ。寝てる時くらい休め、俺のニューロンたち



「俺……この夢が覚めたら……あの子に告白するんだ。そしてイチャイチャ、ぐふふふのフ」



つねってもダメだし、普通に痛い



さて、この夢らしきものから覚める為の手段が今のところ俺には一つしか思い浮かばない。しかし何だろう、余り良い予感がしないのだ。例えるなら、見た目が子供で頭脳は大人なキャッチフレーズのあの名探偵のように関わると死が身近になるような感じがする



「どうせ×××の告白なんて失敗するもん。一生独りだもん」



好い加減、露骨に無視をするのも気が引けてきた。あと君にそこまで言われる謂れはない、はず……多分

俺は意を決して、雪の様に白い少女に話しかける



「君は誰だい。アルビノちゃん」



この場合、パアッという表現が正しいのだろう。少女は今まで無視されていたのが応えたのか、物凄い眩しい笑顔を魅せる。百万カラットの価値はあるね



「アルビノじゃないよ!私の名前は×××だよ!!」



俺に抱きつかんばかりの勢いで自己紹介をする少女。だが名前が聞き取れなかった。耳垢が溜まっているのかもしれないな



「ごめん。ワンモアプリン」



「×××」



先ほどよりもゆっくり口ずさむ様に発音したようだが、それでも不可解なほどにノイズが混じって聞き取れない。俺の困惑した表情に雪の様に白い少女も少しだけ残念そうな顔を覗かせる



「名前はもうないみたい」



「……そっか」



「飴ちゃん食べる?」   



「……甘い」



飴を口に含み歳相応の笑いをこぼす少女。どうやら色々と事情を知ってそうだが、本来なら幼女と言っても差し支えないだろう。齢10歳かそこらの幼女の白い眼からキラキラと煌めく硝子の様な涙が浮かんでいるのだ。ワケを聞く前に慰めるのが日本男児というものだろう



「ふわふわして、触れば今にも消えちゃいそうだな」



口に出す必要は無かったがなぜだか自然と言葉が出て来た



「淡雪みたいだ」



俺の何気ない言葉にピクリと反応したのか、こちらを見てアホ毛がバリサン動かしている



「これを名前に…いやいや知らない子供に名付けと

かやばすぎんだろ、俺よ」



幼女は露骨にシュンと顔も髪の毛もうな垂れる。んなカバな!!だが、ええい、ままよ!



「名前が無いと不便だからね。淡雪ちゃん!」



「ッッ~~……うん!」



一瞬だけ名を呼ばれたという行為に対してクシャリと顔を歪ませ、それ以上にとても嬉しそうに笑った。

見ず知らずの子供に名前をあげるとか、ワイルドだろう?ワイルドというか相手はチャイルドなんだが



「ありがとう、×××!」



で、俺の名前も聞き取れないのはどういう事さね。もしや、掛かってるのは規制なの?青少年有害情報規制法が概念化してロリータと関わることすら無理になったとでもいうの?


そんな道理、俺の無理でこじ開ける



「どういたしまして。お礼にこの場所がどこか教えてくれないかな?淡雪ちゃん」



雪の様に白い幼女 淡雪ちゃんは少しだけ、此方の顔を伺い言葉を選んでるのかたどたどしく言葉を紡ぐ



「ここはね。世界の乗り換え地点だよ」



「‥‥‥」



あん?いまなんて?



「乗り換え地点だよ!!」



「ごめん。聞こえなかったわけじゃないんだ」



世界って乗り換えられるの?それは知らなかった。そんな電車や携帯会社みたいに乗り換えられるなら是非乗り換えたい。俺があの子にモテモテの世界に、な!


ダイバージェンスメーター1%のその先へ、飛べよぉぉぉ!!!



「うん。人によってはヴァイナハテンともいったりするけど」



「×××は死んでここに来ているの」



「そっかー死んだのか。あははは」



「うん。確実に死んでる。トラックでグシャリとミンチになってる」



そっかぁ。だよね。あんなREALな夢あるはずもないよね。死んだから此処に来たのかー‥‥‥



「え?」



「うん?」



人肌恋しくなったのか淡雪ちゃんが可愛らしい子犬の様にじゃれてくるが、お、俺の頭はそれどころじゃないのだぜ



え、死んでるの?ギリギリでいつも生きてるとかじゃなくて、まじで死んでるの?

いやいや、困るんだが!?俺(の告白)を待ってる人がいるんだよ!!



「じ、じゃあ、俺は、、、これからどうなるんだ?」



「天国とか。それとも地獄に逝ったりするのか?」



若しくは、黒い球が置かれた部屋に呼ばれてスーツ着て異星人と戦ったりするのか?

はたまた、神様に復讐する事を目的とした戦線とか、麻婆が好きな天使とかがいる死後の世界にいく事になるのか?



そんな馬鹿な事を考えている俺を他所に淡雪ちゃんは難しそうな顔を作っている



「なんて言えば良いのかな。×××はね 特別なの」



「資格を持っている。だからね。次に行く場所を選ぶ必要があるの」



「選ぶってなにをだ?」



要点に欠ける言葉だ。だが、これは重要な事なんだろう。淡雪ちゃんは笑顔のまま告げる



「世界」



そして、俺は世界を引き継げる 。世界とはなんぞや。一は全。全は一。私は世界。世界は私。そうですか、ここが真理なのですね。ちょっと人体錬成して復活してくる



「世界を選ぶとは‥‥なんともまあ、けったいな話だな」



「うん。ごめんね」



淡雪ちゃんがポツリと謝罪を零す



「で、どうする×××」



問いかけに真面目に応じる為に淡雪ちゃんを一度退かす。ふう‥‥今まさに賢者の境地



「俺はどんな世界を選べるんだ?」



まずはどんな世界があるのか下見をしないといけないからな。淡雪ちゃんは小さくふんと声を漏らすと手から幾つかの丸い光が現れる。何かを映し出しているようだ


「1番目の世界は×××が前いた、人により神秘が消滅した世界だね。ただこっちを選んだ場合は肉体が既に死んでるから輪廻転生の輪の中に戻るだけだよ」



「私としてはこの2番目の世界。アルタートゥームと呼ばれている世界に行ってほしいかな。剣と魔法がある古の世界、って言えば伝わる?」



気のせいかもしれないが、どことなく彼女の表情にどこか影が落ちた感じがした。俺でなきゃ見逃しちゃうね



「‥‥淡雪ちゃんは神様とかって認識でいいのかな?」



その言葉に露骨にビックリしたのか、淡雪ちゃんは顔を何度も横に振る



「それは違うよ。それに神様なんていないんじゃないかな」



「いるのは……」



「……?」



「私のことはいいでしょ!」



子供の頃から無神論者か。これだとサンタさんもいないと言いそうだな。まあサンタさんはいないんだけどな



「で、二つだけ?」



「うん。そうだよ」



あっさり断言。なんでさ?数えたら13個もある浮いてるこの光は何だよ!!


「うーん」


幾つか質問があるのだが、聞くべきか聞かざるべきか。いや遠慮なんてしてる場合じゃねえ。俺はゲームの説明書は熟読する派なのだ。あらすじとキャラ紹介の部分だけな

 


「その、アルターうんちゃら選ぶとさ。どうなるんだ」



「×××は龍王として、彼方の世界に顕現出来る資格がある」



「龍王……」



「言ったでしょ。×××は特別だからね。でも龍王の資格はあっても世界を渡る力はない。だから私は彼方と此方の橋渡しって感じかな。言ってることわかる?」



あーなるほど、完全に理解したわ



「たぶん」



俺の理解が乏しそうな顔を見て淡雪ちゃんは若干の不安を覚えた様だった



「俺がアルターなんちゃらに行った後、淡雪ちゃんはどうなるの」 



「此処にずっといるよ」



「……それは淡雪ちゃんが望んだことなの?」



「うん。必要なことだから」



俺はこれ以上聞けなかった。この真っ白な何もない世界で淡雪ちゃんが独りでいなければならないのは何故なのか、なんて



「そうか」



何て声をかければいいのか、分からない。果たして俺は淡雪ちゃんにどんな言葉をかければいいのだろうか。とりあえず気の利いた事でも


「あ、あの「ねえ、×××」



俺の言葉を遮った淡雪ちゃんは粛然とした様子で独白する  



「生きる事ってままならないよね。×××も。私も」



その言葉にどんな意味が込められているのかは分からない。きっと俺が思っている以上の思いが詰まっているのだろう



「‥‥‥そうだな」



僅かに言葉に詰まってしまったが、淡雪ちゃんはニコリと微笑む



「きっと、この力があれば×××なら────頑張ってね」



引き受けると言ったつもりはないのだが、断れる雰囲気じゃない‥‥‥か。そして、アーカーシャ。それが俺の次の世界での名前のようだ



「俺が淡雪ちゃんに出来ること、何かない?」



「優しいんだね‥‥‥でも、きっと×××は私の事を怨むと思うよ。だからどうか私のことを赦さないで下さい」


‥‥‥怨む。その言葉のワケを聞くより早く淡雪ちゃんは、俺の首もとを無理やり引っ張り頬にキスをする。

途端に俺の身体が発光し、消え始める



「ばいばい、さよなら 」



「ちょ、待ーー」



淡雪ちゃんの言葉はそれっきりだった。俺がこの白い世界からログアウトしたのだと理解するのに、そう時間はかからなかった






あとがき

~別の選択肢を選んでいたら~


アーカーシャ「俺普通がいいし輪廻転生で良いわ」


淡雪「!?ま、待って、よく考えて」


アーカーシャ「いや。異世界なんて考えれば考えるほど怖い。異世界転生なんて有り得ない」


淡雪「よく考えて、魔法が使える世界だよ?こういうの好きでしょう?」


アーカーシャ「いや魔法があるにしても中世レベルの世界は娯楽も乏しいし不便そう。そこを踏まえるとな、異世界はないわ」


淡雪「」


アーカーシャ「無しよりの無しだわ」


────完────

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