大道具の小林くん

牧村 美波

第1話

 物心ついた時には、母と年の離れた姉が女性だけの劇団にどハマりしていて、一緒に劇場に行ったりDVDを観たりしながら、その影響を僕もしっかり受けていた。


 子どもの頃からずっとずっと夢だった。

 




 でも実際は高校生になって、念願の演劇部に入部してもセリフのある役さえ簡単には巡ってはこなかった。


「小林くんがいて助かるー。」

「大道具といえば小林くんだね。」

 そう言われ続けて気がつけば3年生だ。


 何者にもなれず、ただ手先が器用でマッチョな高校生になってしまっている。

 



 …だから、ちょっと我慢できなかった。


 放課後の誰もいない部室で僕は、姿見に自分を映して、今度のお芝居でやる『美女と野獣』のドレスを着てみた。


 このドレスは〝お姫さまと言えば姫川〟と言われる同級生の仮衣装だ。

 

 「いいなぁ、ヒロイン。僕もやりたい。」


 そう呟いたタイミングで部室に入ってきたのは、まさにその人だった。


 最悪だ!ヘンタイだと思われる!

 僕はパニックになって部室の外へ走り出そうとしたが、待って待って!と手首をつかまれた。


「今さ、自分のことヘンタイか何かだと思ってない?それだと俺はどうなるわけ?」


 がジッと俺を見つめてくる。



「こんな女装みたいなの笑えるでしょ。マッチョなベルとかコントじゃん。」


「だから俺の立場よ。似合うよ。いいじゃん。他の女子より体格いいかもしれないけど、舞台映えすると思う。セリフも頭に入ってるんだし、やれば?」


「男子扱いされるのに?それにセリフ?」

「こっそり練習してるのをこっそり見てた。」

「!!」

「俺が推薦する。どんな役にもなれるから面白いのが舞台じゃん。」

「姫川くん。」

「それにそろそろ男役でチヤホヤされたい。」

「本音はそっちか。」

「俺のベルになってよ。小林さん。」


 野獣と野獣って言われないか心配だった舞台は結果的には好評に終わった。


 野獣が美女っぽいのはシャクだけどね。

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