Y隣堂殺人事件 ブッコロー最後の事件
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問題編
Y隣堂、それはミミズクが主役の不思議な書店である。そんなY隣堂のメンバーがサマーキャンプをしに郁さんの持つ森のペンションに行くことになった。理由は人里離れた大自然のある場所で過ごしたい。とかそんな理由である。そこで事件が起きワタクシが解決した。
と、読者諸兄姉においては突然郁さんと言われても困るであろう。ですので、ワタクシ大平が事件に関係するミミズクおよび人に対して紹介しましょう!
偏見に満ちた当事者リスト
大平マサヨ……物語を案内する主役。ワタクシのこと
ブッコロー……名前の由来に真の本
黒子の人……ブッコローとよく一緒にいる人。しゃべらない
郁さん……裏で牛耳っている。ペンションの持ち主
岡崎H……文房具王になり損ねた
佐藤T……職場を私物化しがち
間仁田R……マニタ
長谷部M……味噌汁を鰹節削りから始める
瀧口T……バレーボール好き
とまあ、関係者はこんな感じだ。私たちはブッコローが運転するオープンカーRサスに乗って、郁さんのペンションへ向かった。メンバーはワタクシとブッコローそして後部座席の岡崎さんと佐藤、間仁田だ。郁さんはお抱え運転手である黒子の人と一緒にペンションへ。今回は長谷部さんも先発隊に加えて美味しいものを食べることにしたようだ。瀧口くんはどうしてもその日発売のバレー漫画を購入したいからという理由で遅れての参加である。
「いぇい!イニディってきたぜ!」
と某漫画に影響されたブッコローが山道を高速で運転していた。車酔いが避けられないドライブであったが、残念ながら車の運転が可能なのはブッコローだけだった。車の中では『もっと激しい夜に抱かれったーい!』とK社のデジタル推進局の方が分からないであろう歌を熱唱していた。
長く苦しいドライブを終え私たちは郁さんのペンションに着いた。山奥というか森の中である。きっと夜になると電気を消せば普通の人ならば何も見えないだろう。すでにお酒を飲んで出来上がっている郁さんがいた。
* * *
「とりあえず、部屋を決めて荷物を置きましょうか」
長谷部さんから言われて、私たちはまずは部屋を決めることにした。
郁さんはちょっと変わっていると評していたが、ちょっとではない気がする。中は、入ってすぐ右手にトイレがあり、まっすぐ行くとドアがある。ドアを開けるとリビングがあり、左手にはキッチンがある。右手には右から順に101、102号室とプレートに非常に見にくく書かれており、部屋がある。そして、部屋の中央の上に穴があり、そこらはしごが下ろされている。また、リビングをまっすぐ行くとドアがありそのドアを開けようとすると……
「そこは郁さん部屋です!なんでもカーテン開けると朝の日差しがよくてお気に入りなんですね」
長谷部さんが説明する。夜行性であるY隣堂メンバーみんなあんまり良さが分からないようだ。続けて長谷部さんが説明する。
「2階には6部屋あるし、まずは1階の1部屋を決めましょう。というのも101が私なんで」
「では、僕が102に」
間仁田が言った。秘密の片想い。実は皆んな知っているけど。
「それは……。マサヨ姉がお隣だと嬉しいです」
「もーちろんOKよ!」
間仁田ごめん。話を聞きながら自分の部屋に荷物を置いた。
「2階まで行くのも面倒くさいし、とりあえず2階の説明をするね。はしごを上りきった先にはドアがあるから気をつけるように。ドアを開けたら正面と左右にまたドアがあるの。不思議だけど。正面のドアの先はデスクトップのパソコンと印刷機がある部屋に直結してる。インターネットにはつながっているから自由に使って良いそうで。左右の扉の奥にはそれぞれ廊下があり3部屋ずつあるの。どの部屋も構造はほとんど同じだし、廊下は狭いから気をつけた方が良いよ。ちなみに右手のドアの奥には奥から順に1列に201から203号室が並んでるの。その続きが今度は手前から順に左手のドアの奥にあるから。あと、構造がほとんど同じというのは、左右の扉を開けて一番手前側の部屋だけ窓がついている。少し不思議だけど1階も窓があるのは郁さんの部屋だけね。他の部屋には窓がない。郁さんが新しいご飯欲しがっているので料理します。あああ。あと黒子の人が201号室だから。では」
ブッコローが提案した。
「間仁田が202にして、瀧口は203、残りは僕、ザキ、佐藤でどうかしら」
「僕は窓のない部屋なら」
ブッコローはしれっと自分の近くを女性にした。ブッコローがザキさんのこと大好きなのは知っている。異種族の恋って素敵じゃない。二羽(片方は人だけど)の恋を応援したいのはみんな一緒ね。二人(片方はミミズクだけど)が隣になりますように。ちなみにザキさんの恋心もダダ漏れ。
間仁田を慰めようとはしごを上って穴を越えるとその先に本当にドアがあったから驚いた。ドアを開けて、右側のドアを開けると廊下があるが、確かに狭い。しかもちょっと暗い。電気が消えたらやばいかも。部屋番号が書かれたプレートは1階よりも見にくい。
間仁田にくっつき部屋に入ってみると、そこそこの広さだった。そして、天井が結構高い。正面右手にはふかふかなベッドがある。正面左手側には電気のスイッチがある。ビジネスホテルと音楽室の組み合わせ的な感じかしら。知らないけど。
反対側の様子が気になりドアを開けた。間仁田は下へ降りてったようだ。
「「むー」」
変なうなり声の合唱が聞こえる。ブッコローと岡崎さんのようだ。どうせ、くだらないことでもあったのだろう。
「これはこれはマサヨ姉。謎があるんだ」
ブッコローが声をかけてくる。
「一体何がおかしいの?」
「よく見てよ。どう見てもおかしいでしょ」
ははぁ、なるほど。こいつら教養がないなぁ。そんなことも分からなかったのか。
「なるほど、それはつまり……」
「日本の風習です。ブッコローも岡崎さんも知らなかったのですね。まずですね、日本では縁起を担ぐってのは非常に重要なことなんです。だから……」
佐藤が、ぐだぐだと説明を始めた。せっかくの私の活躍の場を……まあ、いいか。 廊下に4人(羽?)は狭いことこの上ない。佐藤の説明が終わったころを見計らって私は言った。
「ちなみに窓のある部屋はどんな感じ?流石に瀧口くんが入る部屋を見るのはよくない気がして」
手前の部屋をのぞいたら正面に窓がある以上の違いはないようだ。
「みんなもご飯食べましょう!」
郁さん直々の呼び出しだ。ドンの言う通りにしましょう。
* * *
長谷部さんの料理は本当に美味しかった。さすが味噌汁を鰹節削りから始めるだけある。よくわから、、、非常に高尚な料理をたくさん作ってくれた。かの有名な仏国の名作で描かれたJ氏が感動したというお腹に優しいスープもあった。これぞ自然と過ごす一日。食べて飲んでしかいないけど。
ずっと食べていたが夜の部も始まった。真っ赤になったブッコローが
「俺の部屋は205号室!いつでも夜這いはオッケー!」
と叫んでいた。異種族間で夜這いして何ができるのだろうか・・・。
「しかし瀧口のやつおせーなー。鬼電してやろう」
「や、やめた方がいいですよ」
間仁田がブッコローを止めようとする。
「なんだ。間仁田!口答えするのか、ちょっとその場で飛んでみろ!飛びながら飲んでみろ」
なんだかんだで気弱な間仁田が飛び、跳ねながらビールを飲んだ。ブッコローは大喜び。
「よし間仁田!今度は俺を抱えて飛び回るがいい」
頑張る間仁田、しかしよる年波には勝てないのか、顔を真っ赤に必死にやってもブッコローを抱えて動けない。頑張れ間仁田!
とそんな時
「ピンポーン」
入口の呼び鈴が鳴る。
「おい、瀧口てめーおせーぞ。焼き鳥にしたろうか!」
ブッコローが言うと全然笑えないジョークだ。
「ごめんごめん。新刊が見つからなくて遅くなって。マイナーな出版社はダメですね。やばいと思って飛んできましたよ」
瀧口くん、、、素敵!
「じゃあテキーラか!おい!いくぜ」
「R.B.ブッコロー殿。少しは落ち着こうね」
郁さんがブッコローをなだめる。
「はぃ」
「お酒の前にまずは荷物を置いた方がいいよね。瀧口くんの部屋は203だから、、、連れていくね」
「ああ。ありがとう」
* * *
「ドアが多くて不思議な家だよね。瀧口くんの部屋はここ」
「案内ありがとうございます。こういう時のマサヨ姉さんって本当に優しくて素敵です」
瀧口くんがドアを閉める。なんて甘美な言葉をこちらこそありがとうございます。部屋の前で待つ。少し待つ。
「あれ、マサヨ姉さん待っててくれたんですか?中から先降りててって結構大きな声で言ったのですが……」
「全然聞こえなかった。この家の防音はすごいのかも」
* * *
「俺はエイトマンだ!いぇい!」
下に降りたら、ブッコローがよくわからないことを言って飲んでいた。午後8時だから。。。かしら?
「よっしゃ瀧口!俺を抱えて飛んでみろ!間仁田との違いを見せつけろ!」
瀧口くんはゆっくりだが、ブッコローを抱えて移動した。間仁田が落ち込む。さすが瀧口くんかっこいい。って違った違った。気になっていたことがあった。
「郁さん!ここの家ってドアを閉めると防音がすごいの?」
「そうそう。もともと音楽家のための家だったからドアを閉めればどこでも外には音が聞こえなくなるのぉ」
「すごいですね。口から頭蓋骨が出ても聞こえないくらいですかね。プライベートでも使いたいです」
「佐藤くん、そうやってなんでも私物化しようとするのはいけないですよ」
岡崎さんがお叱りをする。
「それからこのリビングはちょっと面白くて2階の廊下の電気がついているかどうかが光ですぐ分かるの。あとみんなの部屋だと窓があっても夜は電気を消すと人だと何も見えなくなるね。夜目が効くミミズクならともかく」
つくづく不思議なペンションだ。
そうそう、みんなが結構できあがってきたときに佐藤が面白いことを言っていたっけ。
「僕の部屋のドアって鍵のかけ方がうちのトイレと一緒なんですぅ。要するに簡単に外からいじれれますね。10円玉とかを外の凹みに入れて回せばいいのですぅ」
「ああ、あれはこのペンションの前の使用者がよく鍵をなくす人だったからすべての部屋のドアをその方式に変えたからよ。趣がある。よね。」
さすが郁さんだ。詳しい。
* * *
10時くらいにまず瀧口くんがそそくさと部屋に帰っていった。飛んできたって言ってたし疲れていたんでしょう。少しして郁さんも部屋に向かった。12時くらいに今度はブッコローが部屋に帰るって言ったな。
「僕はもう行かねばならない。悲しいかもしれないが、今はじっと耐えるんだ。よいな? 僕はシンデレラなのだ」
「なりませぬ、王子。私もついて行きます」
例によってよく分からないテンションだ……。佐藤もそれに合わせてちゃっかりついて行ったな。
「明かりなどいらん。明かりなど」
と言いながらブッコローが電気を消していった。すぐ戻したけど。その後、リビングの光が変わったのでたぶん2階も全て消したんだろう。それから、30分くらいたってから、長谷部さんが自分の部屋に帰った。それを見届けた間仁田もリビングからいなくなった。わかりやすい男だ。そのちょっと後に、黒子の人も部屋に帰ったようだ。な。岡崎さんと2人っきりになってしまった。なんか岡崎さんの目がトロンとしていたな。
「実際のところ、ブッコローとはどうなの?」
一歩踏み出して聞いてみた。
「分かんないです。彼、あんなだし。そもそも種族が違うし……。いいよねマサヨ姉さんと瀧口くん、長谷部さんと間仁田も種族が違わないし」
「まあY隣堂で口頭でコミュニケーションとれる中で特別なのはブッコローくらいだし、ザキちゃんと同じ状況で気持ちが分かるのは正直難しいね。ゴメンね。答えづらいこと聞いちゃって……。もう夜も遅いし軽く掃除して部屋に帰ろっか」
片付けをしたが、岡崎さんが少しフラフラしてたので、一緒にはしごを上り、左手のドアを開け、廊下に行く。
「あれー? 鍵がかかっている」
なにやら、岡崎さんがおかしいことを言っている。不安になり、近くに行くと部屋の鍵がかかっていた。飲み会でさっき佐藤の言っていたことを思い出し、財布から10円玉を取り出し鍵を開けた。とりあえずベッドまで岡崎さんを連れて行くべきかな。そう思い、電気をつけた。
「「!!」」
私たちは悲鳴をあげた。実際に声は出ていなかったかもだけど。中を見て衝撃を受けた。ブッコローがシーツで首をつっている。ブッコローの下には、紙があった。なんだろうと思って見ると、
『すべて私が悪いのです。みんなに迷惑をかけないよう自分の部屋でかたをつけました。皆様、特に郁さんには別荘でも普段の業務でもたくさんのご迷惑をおかけしてごめんなさい。 R.B.ブッコロー』
と、印刷されてあった。昔趣味でかじった医学・生物の本の知識に照らし合わせると、ブッコローの様子からいって死後1時間くらいだろう。いや、でもおかしいことがあるぞ。どういうことだ?
「ブッコロー……。思い詰めているならば……」
岡崎さんが泣いている。いや待てよ、そういうことか。
「岡崎ちゃん、ブッコローは自殺なんかじゃない。殺されたんだ。犯人が分かった気がする。出来れば自首してほしいし、みんなを集めて下で話をしよう!」
——マサヨ姉からの挑戦状——
これまでの記述で誰がブッコローを殺害したのかを特定する手がかりがそろいました。
・どうやって、ワタクシ大平はブッコローが自殺ではないと判断したのか。そもそもなぜそのような疑惑を抱いたのか。
・では誰がブッコローを殺害したのか。
この2つの問いに答えて下さい。なお、この事件は単独犯でロープ、ワイヤー、滑車等機械的な物を犯行には用いていないとします。
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