夕礼逝拝

一葉迷亭

第1話

 太陽が真上に登る8月13日。この日は俺の誕生日だが、実家に帰ったて寂しくなるだけだ。兄弟もいなかった欲しいと言って喧嘩したことも父とはあった。喧嘩したままさようならだ。祝うような人間なんてこの世のどこにもいない。悲しくない、それだけだ。

 油蟬の小便が鼻に掛かり無性な気分になって木を蹴ったらどこかに行った。声が聞こえた気がして周りをみやりほっと息をつく、静かに油蟬のなく音だけが響く裏でを歩く。

 朝、テレビを着けて忘れていた事だが誕生日だったのを思い出す。ただ、なんとなくケーキを買おうと思った。コンビニでケーキを買い帰宅。陽が下り誕生日何て、いつぶりに祝おうとしたんだろうか?いつもより空が広く、俺はそこに落っこちると思った。俺独りだなって、夕日を見て思った。

 ケーキを食べる。子供のときに食べたケーキはむさぼりたくなる程美味しかった。そしたら、母は俺を食べ方が汚いって怒ったそして俺も怒って、食べるとそこそこ美味しい。

 インンターホンが鳴り、宅急便かな、何か頼んだっけ?訝しんでも来ているのだから、チェーンが横に張る。覗かせるのは女だった。それは、母だった。

「母さん、どうして」

 母は夏の蝉より五月蠅い笑顔で、よく笑う人だったとふと思い出した。

「来たのよ、お父さんもいるわ。ねえ、あなた」

 ちらっと親父の服が見えた。それを見て急いで扉を押した。チェーンが引っ掛かって開かない。

「待って、今開けるから」

「開けなくていい!」

 僕は父の声で固まり、言葉が出なかった。当然だ、最後あんな酷い事を言ったんだ。死ねよ、クズども!そういった。母の声は少しばかり悲しそうに、

「圭チャンにね、ずっと渡したいものがあったんだ。これをね渡しに来たんの。さ、あなた」

 父の、か細い声が聞こえて、弱っていると感じた。「俺は、」「渡すんでしょう「だが、」

「後悔、したくないでしょう?」 

「……ああ。」

 母が引っ込み父がはえてきた。父は明らかに青く、どうしようもなかった。差し出された手には物が握られていた。

「誕生日おめでとう。」

 僕は、それを一瞬だけとまり強く握り返した。冷たくなってる手だ。僕が受け取り父と目を合わせる、少し父の目が悲しく歪んで、耳に言葉がぶら下がり父の声。

「嘘ついて、悪かった」

「いいよ。そんな事。」

「本当は、おまえのことを愛してた。」

「知ってるよ」

「約束をやっと守れたな」

「ずっと、嘘ばっかだったもんな、お父さん。ありがとう。本当は、死ねよだなんて嘘なんだからな、ごめんな、そして、ありがとう。」

 暫し無言になり、俺は言葉を継ぎたかった。言葉は溢れるのに喉から上がって来ない。代わりにたった、ひとつ。

「おかえり」

「ただいま」

 照れ臭そうに、目線をそれでもそらさずに、「どうして、これたの?」父の声に母は、被せて父は、一緒に、言った。

「お盆だから。」

 扉を閉め渡された物を額に当てる、ひんやりしていた。誕生日プレゼントは湿っぽく黴びた土だった。何を渡そうとあのとき父がしていたか俺は、知らない。ただ、夜が更けるまで、そこでそうしていた。

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夕礼逝拝 一葉迷亭 @Itiyoumeiteini

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