隣のS級美少女が話しているネットで片思いしてる人、完全に俺のことなんですが

でずな

第1話 隣の席のS級美少女

 突然だが、君たちにはネットで仲が良いネッ友がいるだろうか?

 

 俺はいる。いや、いるはずだった。

 毎日のように夜遅くまでチャットをし、ゲームをしてリア友より遊んでいた。  

 

 そう、隣の席のS級美少女があんなことを言ってなかったらまだ男友達のように仲が良いネッ友だったはず……。


 

  ▼▲▼▲



 俺、朝比奈あさひな翔太しょうたはいつも寝不足で朝が弱い。

 その理由は夜遅くまでネッ友のと遊んでいるからだ。

 入学初日の授業から授業中寝たりしてるけど、俺みたいな陰キャは誰からも心配されない。


 と、思っていたが、放課後。


「そういや翔太、授業中寝てるけど大丈夫か?」


 後ろの席にいる俺の学校唯一と言ってもいい友人、上山うえやま雷也らいやが心配の言葉をかけてきた。


 こいつは中学からの知り合い。同じ人間なのかというほどイケメンで、俺以外といるときはいつも女の子が隣にいる。

 俺にもそのイケメンDNAを分けてほしいところだ。

 

「大丈夫大丈夫。後でノート見せてくれぇい」


「他人任せだな……。まぁ、いつ見ても寝てるしそろそろ言ってくる頃合いだと思ってたよ」


「流石友。ついでに可愛い女の子でも紹介してくれ!」


「それとこれとは別だろ? ってか、翔太は普通にしてたらモテると思うんだけど」


 呆れた顔で、遠回しに変人扱いしてくる雷也。

 確かに最近寝てばかりで女の子からモテる要素が一つもないから、言い返せない。 


 流石友。よく俺のことを分析してるじゃないか。


「そんなことよりさ。俺、翔太に聞きたいことあるんだよね」


 そんなことより……?


 女の子の前じゃ何一つ欠点のないイケメンなのに、俺の前じゃいつもこうだ。


 問い詰めたいが何やら神妙な顔をして、周りに聞こえないよう口を両手で囲ってる。仕方ない。話に乗ってあげよう。


「なに?」


「そんなとぼけるようなこと言うなよっ。お前の隣の席にいる桜井さくらいゆめちゃんと、最近どうなんだ?」


「なんだそのトンチンカンな質問は」


 桜井夢。雲ひとつない夕焼けのような淡いオレンジ色の長髪が特徴の、クラス、いや学校の中で一番の美少女だ。

 男子の中で独断と偏見で選ばれた、女子美少女ランキングでは唯一『S級』にランクインしている。

 

 隣の席になって1ヶ月程経ち、そろそろ5月なのだが……。一言も言葉を交わしていない。


 雷也はそんな人と俺に関係性があるとでも思ってるのか?

 

「ふっ。とぼけるなっての。お前たちの後ろ姿を見てると、俺の恋愛センサーがビンビン反応してるのよ」


「なんだそのトンチンカンな恋愛センサーは。俺、桜井さんとまじで何もないからな。一度でも後ろの席から俺たちが喋ってるの見たことあるか?」


「……とか言いながら放課後会ってたりして」


「会ってたらお前に隠す必要ないでしょ」


「ぐっ。しょ、翔太! お前友情を盾にして逃げるつもりか!」


 雷也は芝居がかった声を出し、俺の本心を暴こうとしてきた。

 暴くもなにも、桜井さんとなにもないのでどうしたものか。雷也が少し声を張ったせいで、周囲の視線が俺たちに向かってて居心地が悪い。


「――不愉快です」


 俺たちの間を、冷凍庫から出てくる冷気のように冷たい言葉が通り過ぎた。


 雷也と同時に声がした方に顔を向ける。


 いたのは桜井夢。一体どこからどこまで聞いていたのだろうか? S級美少女と言われている美少女が、目を細めてふつふつと怒りを煮えたぎらせているように見える。


 雷也の方から微かに乾いた笑いが聞こえてくる。が、女性経験に乏しい俺は背筋が凍り、笑うことなどできなかった。


「……ただの美少女だって思ってたけど、桜井夢ちゃんって気迫あるなぁ〜」


 たった数秒のことだったが、俺には人生で一番長く感じた時間だった。

 雷也の感想が耳に入り、体全体から力が抜けていく。


「これでなにかあると思うか?」


「間違ってた。すまん」


 隣の席だからといって、あんな怖い女性と仲良くなるわけない。


 俺はそんなことを思いながら荷物をまとめ、雷也と共に教室を出て行った。


 家に帰ったらドリームにこのこと愚痴ろ。

 

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