仲間の証
「パーティ結成おめでとうございます。それでは新規にパーティ登録をなさいますか?」
「あー、それは……」
「パーティ登録! したい! したいのじゃ!」
俺達の様子を静かに見守っていたノエラさんの問いかけに、俺は何とも言えない表情になる。だがそんな俺のことなどお構いなしで、ローズが身を乗り出してやる気を見せた。
「誰かと正式にパーティ登録をするのは、憧れだったのじゃ……のうクルトにゴレミよ、妾とパーティ登録してはくれぬか?」
「うーん。俺はいいんだが……」
上目遣いで懇願してくるローズに、しかし俺は困った顔つきのまま横のゴレミに視線を向ける。
「マスターは優しいデスね。でもゴレミの事は気にしなくても大丈夫デス!」
「いいのか? でもお前だけのけ者になっちまうぜ?」
「それは仕方ないデス」
「? 待つのじゃ。ゴレミがのけ者とは、どういうことじゃ?」
「いや、ゴレミは
「なっ!?」
俺の言葉に、ローズが驚きで大きく目を見開く。だが次の瞬間、その場で思い切り背伸びをしながら掴みかかる勢いで俺に文句を言ってくる。
「どういうことじゃ! お主達は幼なじみなのであろう!? なのに何故そのようにゴレミを扱っておるのじゃ!」
「どうって言われても……ちゃんと説明したろ? ゴレミは寝たきりで起き上がれない。それどころか特別に用意した部屋から出ると、病気が悪化して死んじまうんだよ。
でも、探索者の登録って、本人がここに来ないとできねーだろ? だからゴレミは俺の所有物……装備品って扱いにするしかなかったんだ」
「ああ、その件ですが……」
と、俺が忸怩たる思いを語っていると、不意に横からノエラさんが声をかけてきた。何事かとそちらに顔を向けると、ノエラさんがメガネをキラリと光らせ、口元をわずかに吊り上げて言葉を続ける。
「ゴレミさんがご希望でしたら、
「えっ!? そりゃどういう……?」
「このオーバード帝国では、他の国と違って魔力紋による個人認証が可能です。たとえ遠隔操作であろうとも、
「……………………」
「さ、ゴレミさん。こちらへどうぞ。こんなこともあろうかと、登録用の魔導具を用意しておきました」
呆気にとられている俺をそのままに、ノエラさんがゴレミを呼ぶ。小声で「ふふふ、こんなこともあろうかと……こんなこともあろうかと……」と呟いているのが若干怖いが、ゴレミはそれを気にせず近づいていく。
「こちらに手を乗せてください」
「はいデス……」
言われるままに、ゴレミがおずおずと丸くて透明な魔導具の上に手を乗せる。すると透明だった球体に色がつき、それを見たノエラさんが何かを書き写して……
「はい、登録は完了しました。ではこちらが
「え、そんなすぐにできるんですか? 俺の時はそこそこ待った気がするんですけど」
「そこは賢い私が事前準備をしておいたからですね。こんなこともあろうかと思っていたのです……ふふふ、こんなこともあろうかと、です!」
「は、はぁ……えっと、よかったなゴレミ……ゴレミ?」
「
「ああ、よかったな」
「おめでとうなのじゃ、ゴレミ」
「うわーい、
俺とローズが笑顔で祝福すると、手にした
(おい、ゴレミ! お前のスキルのところはどうなってる?)
(あ、そうデス!)
俺が小声でゴレミに話しかけると、ゴレミが慌てて
(ん? 何だこりゃ?)
(ゴレミの場合、スキルじゃなくて装備品が表示されてると思うデス)
(あー、そういうことか)
確かにあの時俺の指が滑った先で、こんなのを選んだ記憶がある。汚れたり破れたりしてもゴレミに魔力を補給すると直るからゴレミの一部って扱いなんだろうとは思っていたが、どうやらその通りだったらしい。
「……のう、そろそろいいか? お主達に色々事情があるのは当然だと思うが、それでもずっとのけ者は、ちょっと寂しいのじゃ」
「あっと、悪い悪い! そんなつもりはねーんだ。ただまあ、俺達は俺達なりの事情ってのがあってさ」
ローズに声をかけられて、俺は慌てて謝罪する。するとローズはすぐに苦笑しながらも小さく頷いてくれた。
「ははは、構わぬのじゃ。妾とて話せぬことなど沢山あるからの。むしろ今日会ったばかりの相手に全ての事情を打ち明けるなど、狂気の沙汰なのじゃ」
「ま、そりゃそうだ。で、えーっと……そう、パーティだ。ゴレミの
「やったのじゃ! 妾の初パーティなのじゃ!」
「ゴレミの初めてが、また一つマスターに奪われたのデス!」
「はいはい、そうですね……で、パーティの登録って、具体的にはどうすりゃいいんだ?」
言いながらノエラさんの方に顔を向けると、妙にツヤツヤした顔をしているノエラさんがメガネをくいっとやってから説明してくれる。
「パーティの登録に必要なのは、リーダーの決定とパーティ名ですね。それを決めていただいたら、後は全員の
「なるほど。んじゃまずはリーダーだけど……」
「それは勿論、マスターなのデス!」
「そうじゃな。妾は入れてもらう立場じゃし、クルト以外にリーダーはあり得ぬのじゃ!」
「あ、そう? なら俺がリーダーってことで」
普通のパーティならそこそこ揉めたり話し合ったりしそうなもんだが、リーダーはあっさりと俺に決定した。ま、所詮は三人だけだし、リーダーと言っても別に偉そうに振る舞うつもりとかもねーしな。
「じゃ、次だ。パーティ名だけど、どうする?」
「そうじゃな……『ローズと愉快な
「何で俺をリーダーに押したくせに、秒で自分の名前を主張するんだよ……却下だ却下! ゴレミは?」
ナチュラルに願望を押しつけてくるローズをスルーし、俺はゴレミの方を見る。するとゴレミは待ってましたとばかりに顔を輝かせ、その意見を口にした。
「よくぞ聞いてくれたデス! ゴレミは『
「はい却下ぁ!」
「ええっ!? 何故デスか!? 説明を要求するデス!」
ブーブーと口を尖らせるゴレミの要求を、俺は完全に無視する。こんな説明するだけですら危ないネーミングなど考慮にすら値しない。
「ならクルトはどんな名前を考えたのじゃ? そこまで言うのじゃから、さぞかし崇高な名前なのじゃろうな?」
「そうデス! マスターのしょっぱいネーミングセンスで、一体どんな名前が飛び出してくるのか楽しみデス!」
「ぐっ、お前ら好き放題言いやがって……てか、俺は無難に『クルトパーティ』でいいと思うんだが」
本当は「ブレイブ」とか「ジャスティス」とか格好いい響きを入れたいところだが、そんなことをしたらこの二人に何を言われるかわかんねーし、何よりそういう感じの名前を俺達みたいな駆け出しが名乗ると、調子に乗ってる感が半端ない。
そう、俺はちゃんと自重できる男なのだ。ゴレミのエターナルの部分だけはちょっといいかなと思ったことを顔に出さずに封印するくらい簡単だぜ。
「ブー! それじゃつまんないデス!」
「そうじゃそうじゃ! せっかくなのじゃから、妾達のことをこれ以上ないほどに表現した名前がいいのじゃ!」
「今日会ったばっかりの相手に要求たけーなぁ……うーん、俺達のこと、か……」
おちび娘二人に責められ、俺は腕組みをしてもう一度考え込む。人間、ゴーレム、皇女……能力で言うなら<歯車>に<火魔法>か? そうなると……うん?
「そうか、歯車か……」
「何かいいのが思いついたデス?」
小首を傾げて問うてくるゴレミに、俺はここぞとばかりにいい笑顔を浮かべる。
「ああ、聞いて驚け! 俺達のパーティ名は――」
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