track.7 メタル・トルネイド
横目で姐さんの様子を見ると、言葉使いの荒いキル姐ですら緊張している。
それを見たら吐きそうな気分。
だけど、一ヶ月前。
私は路上でライブをしてた時、誰も足を止めて歌を聴いてくれる人なんていなかった。
家に帰って寝る時間を惜しんで、歌詞と作曲、練習に没頭した。
どうしたら私の歌を聴いてくれるか?
どうしたら上手く歌えるのか?
どんなに悩んでも、どんなに歌を練習しても、誰も足を止めて、私の歌を聴く人はいなかった。
上京したてもあって孤立した自分が惨めで、交流を持てる人もいなく、寂しさで心が潰れるかと思った。
田舎に帰ろう。
これが私の最後の路上ライブだと決めた矢先、彼女達、リドレスに出会った。
私の歌に足を止めてくれた人達。
そして今は、足を運んで私の歌を聴いてくれる、お客さんがいる。
たった十人。
少ないなんてことはない。
私にとって、このステージ、このライブハウスが世界の全てだ!
リーダーのキルがメンバーへアイコンタクトをすると、曲を紹介した。
「まずは一曲目――――メタル・トルネイド!」
ドラムのハゼロがスティックを激しく叩き、スネアドラムとハイハットから、
白い透明なドラムは【パール・クリスタルビート・五ピースシェルパック・アクリルドラムセット】
彼女の純白のメイド服と相性がよく、ハゼロを含めてクリスタルのような見栄え。
ドラムセットには、それぞれの機材にクリップが取り付けられ、これはシェルドラムの音に重みがない問題点を解決する為、設置された
ドラムの音をメタルロックに合わせた音源に、自在に変えることができる。
でも、その音源を作るのはドラムスであるハゼロ本人。
彼女はリドレスの音楽性を示す音源を、三日三晩、徹夜して作っていた。
それを、ようやく御披露目できて嬉しいのか、スティックさばきが生き生きとしている。
ハゼロの合図でベースのビッチとリードギターのキルはスイッチが入り、三人は音を合わせて会場を震わせた。
ビッチが抱える赤ん坊と、同じくらい大事なベースは【ヘッドウェイ社リバーヘッド・ユニコム・バス・ブラック】
メタルロックのアップダウンが激しい音は、諸刃の
高音低音の波で、今にも崩れてしまいそうだけど、それを重量感あるサウンドで足元から支えるのがビッチのベースギター。
A文字の頭に平たい棒が取り付けられた形状のベースは、弓矢の矢じりにも見え、ビッチの見栄えを女戦士へと変える。
楽曲が始めると、散々泣きわめいたビッチの赤ちゃんは泣き止み、まじまじと母親のベースさばきを眺めている。
ビッチのベースがA字の姿をしているなら、キル姐さんのギターは
キル姐さんの愛機【LTD・シグネチャーシリーズ・ メタリカ・ジェームズ・ヘットフィールドモデル・スネークバイト】
逆向きのZ字に見えるギターは、キル姐さんの超絶技巧で弦は振動し続け、指は瞬間移動しているように、ギターの首を上へ下へと忙しく走った。
バイクのアクセルを全開にして、回転率を上げたエンジン音を轟かせるように、姐さんのギターが吠える。
キルのギターさばきに観客は音に殴られ、たじろいでいる風に見えた。
二人のギターに繋がれたシールドケーブルは奏者の振動する弦を電気信号に変えて、エフェクターで絶妙に調整されると、電子の音に変換されて
バックで滝のようにドラムを鳴らすハゼロは、リードギターとベースのリズムが崩れないように「歩調を合わせろ」と怒鳴っているようだ。
メンバー同士で超絶技巧がぶつかり合い、技術で互いに叩き合っている。
音楽によるハック・アンド・スラッシュがステージ上で起きていた。
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