ホワイトデー

大根初華

ホワイトデー

「貰っていいの?」


僕が訊くと、彼女はもちろん!  と微笑んだ。

時は2月14日、バレンタインデー。

彼女から、手作りだというトリュフチョコレートを頂いたのだ。

高校生にもなってこのかた、バレンタインデーにチョコレートを親からしか貰ったことがなく、しかも、手作りで、片思いの人からだというそれは僕のテンションを上げるのには充分だった。

ウキウキしながら帰宅すると、親や姉にからかわれたのだけど、嫌な気分は全然せずむしろもっとやっていいぜ、と無駄な自信が湧いていた。

自室に戻り、トリュフチョコレートを1粒口に放り込む。チョコレートの甘さとココアのほろ苦さがマッチしてとても美味しい。手作り、という情報もさらに上乗せされているかもしれない。


頂いたからにはお礼をしなければならない。手作りには手作りで返す、というのが筋だろう。折しも来月3月14日はホワイトデー。ならそこに照準にあわせて色々やるか!


それから僕の格闘が始まった。とは言っても問題があった。それが、僕がほとんど料理が出来ないということだ。そのため、まずは簡単に出来るお菓子の作り方をスマホで検索することから始まった。

レシピサイトには『初心者でも出来る!』や『簡単に出来る!』の文字が並ぶのだけれど、やはり僕にはかなり難しいそうに見えた。そんななか紙コップで作れるティラミスのレシピが目に入った。クリームチーズやココアなどを使用したレシピで、僕でも出来そうなものだったので、次の休みの日に急いで材料を買って、レシピ通りに作り始めた。

試作品第一号はやはり失敗だった。レシピ通りで簡単と謳ってるとはいっても、初心者の僕にはレベル高かったらしい。どこかの人がお菓子作りとは科学である、みたいなことが言ってたと聞いたことがあるけれどまさしくその通りだった。

それから少ないお小遣いで色々試作品を作ってはなんか違うな、と首をかしげ、納得出来るものが出来たのが、ホワイトデーの前日だった。我ながら上手くできたのではないだろうか。


そして、時は3月14日、ホワイトデー。紙コップに入れたティラミスをリボンのついた袋と保冷ジェルをセットにしてスクールバッグに入れて登校した。朝からドキドキしていた僕は休み時間に渡すタイミングを計っていたのだけれど、そのタイミングが訪れず放課後を迎えてしまった。

彼女は友達と世間話に花を咲かせている。彼女達の話に聞き耳を立てながら、彼女と二人きりになるタイミングをまた伺っていた。


「そういえば、チーズダメなんだっけ?」


彼女の友達が彼女に問いかけるのが聞こえた。僕の心臓大きく跳ねた。ティラミスにはクリームチーズが使ってあるのだ。


「そう!  私、チーズが食べれなくてさーーーー」


そのあとの言葉は入ってこなかった。

トリュフチョコレートを手作りするぐらいなので、ティラミスの材料も知っているはず。僕が作ったティラミスを渡しても多分ダメなんじゃないか、そんな悪魔の囁きが支配してそっと涙が流れた。なぜかわからないけど、僕のすべてを否定されたような気持ちになった。

彼女たちの話はまだ終わりそうにない。

ダッシュで家に帰り、そして、僕はティラミスを貪った。苦いはずティラミスは少ししょっぱかった。

END

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