ハグ-hug-

第66話

※8月9日のハグの日は有名ですが、1月21日もハグの日らしいですね(国際ハグの日)

ハグといえばこの二人ということで。

天寧が卒業後の二人を書いてみました。




玄関の鍵を開けて中へ入る、短い廊下の先のドアを開けると暖かい空気に包まれた。


「ただいま」

 そう言って数歩進んだら、さらに温かく柔らかいものに包まれた。

「おかえり」

 栞菜ちゃんのハグだ。

 一瞬で疲れが飛んでいく、重だるかった体も軽くなってフワフワとゆらめく。そしてジワジワと染み渡る温かな想い、癒される。


 私は大学を卒業後上京、小さな出版社に就職した。今はまだ仕事を覚えるのに精一杯、大した仕事はしていないから疲れたなんて口に出しては言えないけど、1日が終わると体の疲労は確かにあって。それでも家に帰ると一緒に暮らす恋人がいる。大好きな人にハグで迎えられるなんて! あぁ幸せだ。


「おつかれさま、ご飯食べよ」

「今日も作ってくれたの? ありがとう」

「今は仕事が落ち着いてるからね」

 今日もテレワークだったという栞菜ちゃんの料理の腕は日に日に上達していて、美味しいご飯をいただいた早春の夜。




 リビングのドアが開いて「ただいまぁ」という声が聞こえた。私は火を消してその声の主の元へ急いだ。

「おかえり〜早かったね」

 3日ぶりの恋人への、はやる気持ちを抑えきれず抱きしめた。

 彼女は「直帰してきたの」と言い、私の腕の中で身じろぎ顔を埋める。


 特に取り決めた訳じゃないけど、帰宅時はどちらが先に帰っていてもこうしてハグをするようになっていた。最近は栞菜ちゃんの仕事が忙しく、一昨日から出張だったのだ。


「美味しいそうな匂い」

 彼女はスンスンと私の匂いを嗅ぐ。

「今、炒め物してた。すぐ食べられるよ」

「うん、いただきます」

 そう言いながらキスをしてくる。

「んん、ご飯だよね?」

「うん、先にご飯ね」

 クスクスと笑いながら意味深な発言をする恋人に、期待に胸が高鳴った初夏の夜。


「あ〜お腹いっぱい、食べ過ぎたから食後の運動付き合って」

 そう言って連れて行かれたベッドルーム。

「ん? 柔軟体操とか?」

「んなわけないでしょ」

 押し倒されて甘いキスがやってきた。

「天寧は寂しくなかったの?」

 もちろん、1人の夜は寂しかった。

「三日も会えなかったんだから、今夜はいいよね?」

 明日は2人ともお休みだから、当然そういう流れにはなるよね。

 甘い夜を始めようとした時、栞菜ちゃんのスマホが鳴った。

「えっ」

 明らかに顔を顰めて表示を見つめる。

「仕事?」

「うん、係長」

「出た方がいいよ」


「何だって?」

 眉間のシワがすでに物語ってはいるがお仕事なら仕方ない。

「出張の報告書出せって」

「今から?」

「明日までにって、明日出社するのも面倒だなぁ」

「早く終わらせたい?」

「でもーー」

「行ってきていいよ、帰ってきたらまたハグしてあげるから」

「すぐ戻るから、ここで待ってて」

 仕事なんだから我慢しなきゃ。



 栞菜ちゃんが寝室を出て行って15分後、勢いよくドアが開いた。

「終わったよ」

「えっ」

「レポート書いて送った、便利な時代になったよねぇ。係長は出社しろって言ったけど課長の許可取ったから文句は言わせない」

 清々しい程の笑顔が様になっている。

「ほら天寧、約束のアレお願い」


「おつかれさま」

 私は両手を大きく広げ、愛しい人を受け止めた。

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甘い話で何が悪い hibari19 @hibari19

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