第12話

 バレンタイン当日、サークル終わりに先輩方にチョコを配った。それぞれの担当の先輩へ。

「おぉ、ありがとう」

「今年の1年は気が効くねぇ」

 義理とはいえ、プレゼントされて悪い気はしないものだから。仲の良い仲間たちが、これで更に親密になれれば安いものだ。

 さて、氷室先輩はと探すと、少し離れた場所に座っていて。

「先輩」

「なに?」

「これ、みんなからです。受け取って下さい」

「ありがとう、可愛いラッピングだね」

 包装は担当者の役割だったので、先輩をイメージして心を込めて私が包んだから、褒められたようで嬉しい。

 先輩はバッグにチョコをしまって帰り支度をはじめる。今日は更にもう一つエコバッグを持っていた。珍しいなと見ていると、中身が少しだけ見えた。

 たくさんのチョコレートのようだ。貰った……んだよね。

「先輩、それ」

「ん?」

「ごめんなさい、チョコ以外のものにすれば良かったですね」

「いいよ、私甘いもの好きだから」

「全部、食べるんですか?」

「うん……欲しいの?」

「やっ、違いますよ」

 ふっ、と微かに笑った気がしたけど、気のせいかな。


「どうする?」

 帰り道、珍しく先輩から聞かれた。

 前回、私が逃げるように帰ったからだろうか。

「今日は、話があるのでお邪魔したいです」

 そう言うと、不思議そうな顔をしていた。


 部屋へ入ると、これまた珍しく紅茶を入れてくれている。

 私が話があると言ったからだろう。

 その間私は手持ち無沙汰で、部屋の中を何気なく眺めていた。

 ふと、本棚によく知っているブックカバーがあるのに気付いた。私も同じものを持っているからだ。

 確か私が小学生の時に、親戚の本屋さんで配っていたもの。

「それ、可愛いブックカバーでしょ」

「あ、ごめんなさい。勝手に」

 思わず手に取っていた。

「気に入ってるのよ」

「私も同じの持ってます」

「そう、奇遇ね」

「あの、この本見てもいいですか?」

「ん、気になるなら貸すわよ」

「いえ、題名だけで」

 何度も読んだ形跡があって、大切にしている本のような気がしたので、借りることはしなかった。

「そう……お茶どうぞ」

「はい、いただきます」


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