第9話 二人で共同作業

「よーし、今度こそやるぞ」


「はい!」


 動画撮影の準備も整ったようなので鉄也が改めて声をかける。インパクトガールからはいい返事が来た。


 向こうも気合い十分らしい。が、そこでふとなにかを思いついたかのように、ピンク髪少女はちょっと黙り込んだ。


 どうしたんだろう、と鉄也が思っていると、インパクトガールはこっちを向いて言った。


「は、はは……初めての、きょ、共同作業ってやつ……ですね……へへ……」


 ジョークのつもりで言ったのだろうが、声は小さいわつっかえつっかえだわなんか中途半端に笑っているわで鉄也の方が恥ずかしくなる有様だった。


「…………」


「…………ひょっとしてわたし、スベったんでしょうか……?」


 恐る恐る、といった顔で陰キャ少女が聞いてくる。


「いまのシーンは動画ではカットしておこうな」


 鉄也は事務的な口調で言った。


「うう、遠回しな言い方に込められた優しさがつらい……」


 インパクトガールはちょっと涙目になっていた。


 そんな彼女に向かって、骸骨のモンスター、スケルトンウルフが飛びかかってくる。

 まあ、モンスターだっていつまでも待っていてはくれないか。


「ショット!」


 鉄也はさっと狙いを定めると魔弾を発射した。青白く光る弾は骨で出来た狼の体をあっけなく撃ち抜いて倒した。


「え! いまの、魔弾ですか! なんかものすごい威力が出てましたが!」


「ああ、俺の魔弾は特殊なんだ。これしかスキルは使えないけどその代わり威力はあるし応用も利く」


 鉄也はえらく驚いているインパクトガールに説明した。


 そういえばほかの探索者の前で魔弾を撃つのは初めてだな。やっぱりびっくりするもんなのか、と鉄也は思った。


「へー、変わってますね。……まあ、ピンク髪でメイド服着てインパクトハンマー担いでぼっちな底辺配信者やってるこのわたしほどではないですが」


 ふふん、と笑ってインパクトガールがドヤっていた。


「そうだな、お前には負けるよ……」


 鉄也は得意気なぼっち少女から目をそらしながら言った。


 とてもじゃないがこのインパクトガールとは張り合えそうにない。というか張り合ってはならない存在だと思った。


「そうでしょうそうでしょう。では、今度はわたしの力をご覧に入れましょうか」


 右手に持った巨大なハンマーをひゅん、と軽く回して、ピンク髪少女が別のスケルトンウルフに目をつける。そして、左手の人差し指をくいくい、と動かして相手を挑発した。


「ヘイ! カモン、ベイビー!」


 大丈夫なのか、これ……と思った鉄也だったが、インパクトガールは余裕たっぷりである。


 明らかに調子に乗っているピンク髪陰キャの姿にイラッとしたのかどうかは定かではないが、とにかくスケルトンウルフは彼女に向かっていった。


「しょらああああ!」


 なんとも気の抜けるかけ声だったがぼっち配信者のスイングは鋭かった。リボルビングインパクトハンマーでジャストミートされたモンスターは、部屋の壁まで吹っ飛ばされて倒れた。


「おー、初球ホームランとはやるじゃないか」


 鉄也はパチパチと拍手を送った。


「へへへ、探索者協会が誇る四割バッターとはこのわたしのことですからね!」


 首尾よくモンスターを仕留めたインパクトガールは絶好調だった。


 四割しか打ち返せないんじゃ危ないんじゃないか、と思った鉄也だったが本人は楽しそうなのでそっとしておくことにした。


 なんにしても彼女は腕が立つようだ。これなら心配はいらないな。


「じゃ、手分けしてモンスターを倒していくか」


「ふふん、コールドゲームにしてやりますよ」


 余裕の態度でそう言っていたインパクトガールだったが、モンスターたちに取り囲まれると顔色が変わった。


「……探索者さん」


「どうした、インパクトガール」


「なんでわたしの方だけ囲まれてるんですかね?」


「さっきのホームランがインパクトあったからだろうな」


 ピンク髪少女からの質問に鉄也はそう答えた。


 鉄也の方は別に囲まれたりしていない。モンスターたちは自称四割バッターの方が危険な相手だと判断したようだった。


「……あのですね、大変申し上げにくいんですが、わたしのこのハンマーって小回りがきかないんですよ……」


「つまり?」


「対処しきれないんで、助けていただけないでしょうか……」


 ノリにノッていたインパクトガールだったが、どうやらピンチに陥ったらしい。


「わかったわかった。ちょっと手伝うよ」


 彼女を包囲しているモンスターたちに人差し指を向けた。ここはあれでいくか。そう思いながら鉄也は魔弾を撃った。


「ショットガン!」


 魔弾の応用技の一つ、散弾である。


 大きく広がった多数の光の弾は、何体ものモンスターをまとめて倒し、インパクトガールの包囲に穴を開けた。


「すごーい! こんなことも出来るんですね! かっこいー!」


 ピンク髪少女は目をキラキラさせていた。


「…………」


「どうかしましたか?」


「い、いや、なんでもない。力を合わせてモンスターを倒そう」


 鉄也は言った。


 相当な変わり者とはいえ女の子(それもかなりの美少女)から「すごい」とか「かっこいい」とか言われるのが気分よかった、と話すわけにはいかなかった。

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