第4話 ピンク髪の配信者

「ほんと、どうしたもんだろうな……」


 実際に戦うところを見せればなんとかなりそうな気もするが、ステータスウィンドウを見せたが最後、お祈りを食らうことは確実である。そうなるともうピンチの探索者を救う、みたいな都合のいい展開に頼るくらいしかなかった。とはいえ、そんなことが起きるはずもなく、鉄也は今日も一人で探索を続けている。


「まあ、楽しいことは楽しいんだけども」


 今回上手いことアイシーコープスを倒せたことには満足していた。やっぱりダンジョンの攻略は楽しい。あとは仲間さえいれば……。そう思いながらふたたび歩き出す。と、通路の奥から人の気配がした。


「今度はゾンビじゃないだろうな……」


 警戒しつつも鉄也は石畳の通路を進んでいく。すると、球体の浮遊型カメラが浮かんでいるのが見えた。


「ん? 配信者か?」

 鉄也はつぶやいた。


 ダンジョンで手に入るアイテムや資源を活用して作られた製品は多多あるのだが、そのうちの一つがこの浮遊型カメラだった。小型で頑丈、しかも長時間稼働するこのカメラはダンジョンでの探索の様子を動画にしたり生配信したりする配信者に大人気だった。


 鉄也も配信をしている探索者は何度か見たことがある。同じ探索者とはいえ鉄也自身は動画を作るとか生配信するとかにはまるで興味がないので、なにか別の世界のことのように感じていた。


 とはいえ、こうしてカメラが浮いているのを見ればどんな人がやっているのかはちょっと気になるところだった。鉄也はカメラのレンズの先へと目をやった。

 そこにいたのは、メイド服を着た女の子だった。そこまではいい。コスプレして探索する配信者はそこまで珍しいものではない。だが、鉄也の視線の先にいたのは、単にメイドのコスプレをしているだけの探索者ではなかった。髪がピンクなのである。女の子の背中までの長さの髪は、ものの見事にピンク色だった。もちろん髪を染めている探索者は珍しくもないが、真っピンクとなるとそうはいかない。


 そして、メイド服でピンク髪の女の子は、巨大なハンマーを担いでいた。ハンマーを武器にする探索者自体はそこまで珍しくはない。だが、女の子が肩に担いでいるハンマーにはなにやらダンジョンの技術が使われているようで、通常のハンマーとは異なり、デカいヘッドの部分にこれまたデカいリボルバー式拳銃のシリンダーのようなものがついていた。見るからに強そうな、殺意強めの武器だった。


 メイド服にピンク髪、そして殺意強めのハンマー。三つそろったとなればそれはもはや珍獣である。


「な、なんだあれ……?」


 鉄也は配信者の見た目に度肝を抜かれていた。変わり者の探索者もある程度は見てきたつもりだったが、ここまでハイレベルなのはちょっと記憶にない。なにがどうなったらあんな格好で探索者やって、しかも配信しようと思うんだ……。そんなことを考えずにはいられなかった。


 愕然としている鉄也の視線の先で、ピンク髪メイド服の女の子が口を開く。


「み、みなさーん……み、みんな大好き……イ、インパクトガールチャンネル、は、はっじまっるよー……」


 消え入りそうな声が聞こえてきた。


 なんだかよくわからないが、みんな大好きインパクトガールチャンネルが始まるらしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る