第3話 魔弾のソロ探索者2

「相変わらず威力は申し分ないんだよなあ……」


 大の字になって倒れ伏すモンスターを見ながら鉄也はつぶやいた。


 通常であれば「魔弾」にこんな威力はない。最弱モンスターであるスライム相手ですら数十発撃ってようやく倒せるくらいである。それなりに強い部類のモンスターであるアイシーコープスを一発で吹っ飛ばす「魔弾」などあり得ない代物だった。


「武器としては強力なんだが、ほかのスキル覚えられないのがなんともかんとも……」

 鉄也はがっくりと肩を落とした。


 常識外れの威力が出る魔弾を撃てる鉄也だが、その代わりほかのスキルは一切覚えられないのだった。


 探索者は初めてダンジョンに入ると己のステータスを表示できるようになる。そしてそこにはそれぞれの探索者の適性に応じた剣術や魔法などの初期スキルが記されているのだが、鉄也のステータスウィンドウには魔弾の文字しかなかったのである。


 こんな事態は初めてだったらしく探索者協会の受付係も鉄也と一緒になって大いに困惑していたが、とりあえず撃ってみますか、という話になった。で、鉄也は試しに一発魔弾を撃ってみたのだが、探索者になりたての初期レベルにもかかわらず鉄也の魔弾は受付係が用意した頑丈な標的を豪快にぶち抜き、普通の攻撃魔法に勝るとも劣らない威力をたたき出したのである。


 鉄也は、なにこれぇ……、とわけのわからない威力が出る魔弾に若干引いていたのだがそれを見た受付係は、あ、これなら大丈夫ですねー、では頑張ってー、とあっさり鉄也をダンジョンに送り出した。


 えっ、そんなんでいいの……? と思った鉄也だったが、いざダンジョンに入ってみるとわけのわからない威力の魔弾は普通に大活躍した。そんなんでよかったのである。トントン拍子でレベルも上がり、鉄也は探索者ライフをエンジョイしていた。


 ただ、活躍は出来たもののモンスターを倒してレベルアップしても鉄也はほかのスキルを覚えることが出来なかった。普通の探索者はレベルが上がればより強力なスキルを覚えられるのだが、鉄也のステータスウィンドウは何度レベルが上がろうとも変化がない。記されているのは魔弾の二文字だけである。レベルアップするとステータスが上がる。それに伴って魔弾の威力も上がるし、一応色々と「魔弾の応用」は出来るようになったのだが、それでも魔弾しか使えないのに変わりはない。


 そんなことを考えていると、倒れたアイシーコープスの体がピクリと動いた。


「一発では死なないか……いや、ゾンビ相手に死ぬとか死なないとか言うのは変なのか? 元々死体なんだし……」


 ふと疑問が湧いた鉄也だったが、それを考えている暇はなかった。アイシーコープスが突然素早い動きでバンッと起き上がり、ダッシュで間合いを詰めて攻撃してきたのだ。


「おっと!」

 鉄也は長く伸びたゾンビの爪をさっとかわす。


「上位のゾンビ型はダメージを与えると覚醒して動きが速くなるんだったな……!」

 つぶやきながら、ゾンビが連続で繰り出してくる攻撃をかわしていく。


「撃ってやりたいところなんだが……」

 鉄也は隙を突いてふたたび魔弾を撃とうとするが、ゾンビはこちらに張り付くように動いている。近すぎるせいで逆に狙いが定めにくかった。


 覚醒状態のアイシーコープスの攻撃は素早く、手数も多い。鉄也はなかなか魔弾が撃てずにいた。


「だったらこういうのはどうだ? トリックショット!」


 鉄也は右手の人差し指を伸ばし、魔弾を撃った。狙いは大きく外れている。発射された青白い魔弾は、アイシーコープスの脇をすり抜けていった。ゾンビがふたたび襲いかかってくる。が、その背中に、壁に当たって反射してきた鉄也の魔弾が直撃した。


 予想外の攻撃に完全にアイシーコープスの動きが完全に止まる。その隙を、鉄也は見逃さない。


「ショット!」

 ふたたび魔弾を撃つ。ゾンビの胸にぶち当たった光の弾は、今度こそ完全にゾンビを倒した。


「ふう、上手くいったな」

 鉄也は満足して一息ついた。壁を使って魔弾を反射させるなどということは普通であれば絶対に出来ない。だが、鉄也はどういうわけだかそんな具合で魔弾を色々と応用できてしまうのだった。


「お、ドロップもあるか。回収回収っと」

 アイシーコープスはアイテム(覚醒したゾンビの血液。滋養強壮に効果あり。なぜかビン入り)を落としてくれたのでそれも拾ってアイテムボックス(探索者全員に支給される亜空間に物を収納できる魔法のアイテム)に入れておく。


「俺って一応強いとは思うんだけど、こんなステータス他人様には見せられんからなあ……」

 光の粒となって消えていくモンスターの死体を見ながら鉄也が一人つぶやく。


 探索者がパーティを組むときは戦力の把握のためにお互いのステータスウィンドウを見せ合うのが慣例となっている。名刺交換のようなものである。


 普通なら攻撃魔法や支援魔法、剣術や槍術のスキルが並んでいるはずのステータスウィンドウには、鉄也の場合魔弾しか載っていない。もちろん、トリックショットのような魔弾の応用技も使えるのだが、それらはステータスウィンドウには載らないのである。これでは名刺交換しても気まずくなるだけだった。


 実際、過去に何度かパーティに誘われたことはあったのだが、鉄也がステータスを見せると、相手はなにかを察したような顔になって、今回はご縁がなかったということで……、と申し訳なさそうに言って去っていくのだった。あれはそう何度も経験したいと思えるものではない。だから鉄也はソロプレイに不安を感じていても、ほかの探索者と組むわけにはいかないのだった。

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