響く、私たちだけの不協和音。
しう
『私の隣の天使は』.mp3
第1話 光
学校を行かずに4ヶ月経った、2年生の秋頃。
全日制の公立高校だからもう留年確定しているだろうし、私には『夢』があって、それを叶えるのに、学校なんて行く必要がないと思った。
親はなんて言ってるかと言うと、「大学行くのか」とか「夢、応援してるから」とか毎回あやふやなことを言ってくる。
私はエレキギターの弦をはじく。
Cmaj9th。
何にも繋いでないエレキギターの音は、静かな部屋に響き渡る程度の音すら出ない。
哀愁漂う音色が鳴り、消えた後に虚しくも残るのはただの静寂。
私は何となく、ゲーミングチェアの上にしゃがみこみ、椅子の上で丸くなった。
スマホはもう最近は見ていない。
別段、学校に友達がいなかった訳でもないし、顔も我ながら良い方だと思っているので、対人関係は良いものを築けていた。
そのため、初めの頃はLINEなども絶え間なく来ていたのだ。
そのLINEに、『また今度遊び行こ』とか『学校は気が向いたら行くよ』とか返していた。
だけどそれもだんだん来なくなる。
それに耐えられなくなった私はスマホを手放した。
私はパソコンを起動し、最近ハマっているFPSゲームを開いた。
5対5のタクティカルシューティングゲーム。
普段はディスコのフレンドなどを誘ってやるのだが、今日は一人でマッチングすることにした。
そんな気分だから。
私はゲームを閉じた。
連続で負けたから。
最近何もかも上手くいってないような気がする。
ギターは上達しないし、作曲もアイデアが浮かばないし、ドアを開けると足の小指を挟むし。
上手くいくのはゲームだけ。
「はあ」
このままゲームやって、将来どうなるんだろ。
私はもう4ヶ月着ていない制服のスカートを見やる。
色落ちのせいで何回か巻いた後が見える制服のスカートは、家の中でずっと同じ服を来ている私に多大な危機感と不安を与え続ける。
捨てよう。
制服を捨てよう。
こんなものあるだけ無駄だ。
私は制服を手に取り、ぐちゃぐちゃにしようとする。
しかし、何故か抵抗感をおぼえる。
学校に行かないのだから制服は必要ない。
あっても私の精神に害だ。
そのはずなのに、私の手はそれを拒絶する。
ああ、まだ諦めきれてないのか。
私の1つ前の夢。
そっか、『今の夢』なんて、『ひとつ前の夢』が無理だから仕方なく選んだだけなのか。
一つ前の夢が学校に行っていないと叶わないから。
『夢』について考えるのは少々気が滅入る。
どちらかの夢を諦めるためにも学校に行ってみるのもありだと思う。
「明日学校行ってみよっかあ」
あいにく、学校は別段嫌いという訳では無いので、嫌では無い。
というか、どちらかの夢に決められると思うとワクワクすらしてしまう。
私はぐちゃぐちゃにしようとした制服をハンガーに掛け直し、ハンガーを窓際のカーテンレールに掛ける。
制服がカーテンを揺らし、そこから入り込んできた橙色の光が私の目を酷く突き刺す。
気づけば夕方だった。
そろそろ親が帰ってくる時間だし、静かにしておこう。
そんな私の気も知らずに家のチャイムが鳴った。
私はそっとカーテンをずらし、外を見やった。
そして、家の前に立っていたのは見覚えのある女の子だった。
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