第20話 守りたかったもの(11)
馬田は、一課に持ち帰ったファイルの山を、バサリとデスクに置いて椅子を引き、仰向けに倒れるように体を預けて
全身、疲労困憊だった。
「馬田さん、顔が死んでますよ。大丈夫ですか?」
奥山が向かいのデスクから声を放り、田辺が唾を飛ばす。
「奥山、失礼! あんな取り調べのあとなのよ? いくら馬田さんでも倉庫に片付けられたマネキンみたいになって当然でしょ!?」
「どっちが失礼なんですか。いいですよね、田辺さんは。女性ってだけで補佐官できて。僕も馬田さんの取り調べに立ち合いたいなー」
馬田は、向かいでぎゃあぎゃあ騒ぐ部下に構う気力もなく、一ノ瀬の問いにだけ答えた。
「穴守花咲の取り調べはどうだった?」
「カンオチは無理でした。でも、次で姉の証言を取れると思いますし、あとは一ノ瀬さんの取ってきてくれた許可状で、妹のDNAサンプルを鑑定に回しましたから、その結果次第で決まるかどうか、ってところですね」
「例の不明の血痕か」
「ええ」
「一致するといいな」
「そうですね。一致しなかったら、なんて、考えたくないですよ」
「とりあえず今日は考えるな。お疲れさん」
一ノ瀬はパンパンと後輩の肩を叩く。
できればこのまま少し休んでいたいが、その前に返すものを返さないといけない。馬田は、ファイルの山から鐘撞堂殺人事件、穴守藤吾、兼松善人に関するファイルを手に取り、一ノ瀬の斜向かいの成川に差し出す。
「成川さん、これ、ありがとうございました」
「構わないけど、穴守花咲の取り調べに、何か役に立ちましたか?」
馬田からファイルを受け取って、成川が聞く。
「ええ、とても。また貸してもらうかもしれません。俺は、藤吾が塩野を殺害した動機に、花咲が関与しているんじゃないかと思ってるんですけど、今回はそこまで聞けませんでした」
「どういうこと?」
「さっきの取り調べで分かったことですが、黒岩菖蒲の遺骨は、穴守花咲が蓮華荘から持ち出し、穴守藤吾の寝室に置いたものです。復讐の相手を凶悪殺人で死刑にする――彼女が姉対して使った手段と、まあ、似たような方法で、父親のことも葬ろうとしたんじゃないかと思うんです。だから本当は、穴守花咲が父親を
成川も一ノ瀬も、これを聞いて口をあんぐりと開いたが、馬田は目を瞑り、そのまま眠ってしまったようだった。
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