第36話 最奥の少女(4)

「私です。三田園さんを殺したのは私です」


 妹に嫌疑がかけられた途端にかばう。これで、穴守彩芽が守ろうとしているのが妹だということは分かった。しかし、この自白は嘘なのか真なのか。


 馬田は両肘をついて手を組み、息を吐く。


 そして、真偽を見極めるために、二つの質問をすることに決めた。


「殺害現場はどこですか?」

「その頃住んでいた部屋。吉見町の黒岩にある、しのぶさんのマンションの一つです」


 蓮華荘だと言っていたら自白は嘘で確定だった。蓮華荘に三田園の血液反応は出ていない。


 次の質問で決まる。


「あなたの手を見せてもらえますか」

 穴守彩芽は右手のひらを差し出した。左手は手錠でパイプ椅子に繋がれていて、どうやって見せればよいのかと、困ったような顔をする。

「小指の外側を見せてください」

 馬田は、右手の手刀にあたる部分に、直線状の薄いケロイドを複数確認した。三田園の体を滅多刺しにした時に、刃元で傷つけた痕だろう。


 馬田は、これをもって自白を真と判断した。

 凶器が見つかり、その傷跡が一致すれば、完全な証拠となる。


 凶器はどこかと尋ねると、マンションの台所にまだあると言う。身内のマンションだからできることだ、と馬田は目を閉じて目頭を押さえ、黙考した。


 黒岩しのぶは、寄居町に持っていた土地を売り払い、新たな土地に不動産投資をしていた。それを動かすことで収入を得ており、おかげで穴守彩芽は、会社に所属することなく世間から姿を消し、殺人で部屋を汚しても、他人に知られることなく、すぐにでも転居できたわけだ。


「ありがとうございます。警察としては、三田園さん殺害事件はこれで解決です。このあと供述調書を作って、サインをもらって、それで終わりになります。ですが、私はこれまで毎回、欠かさず言ってきましたね。ですから、今日も同じことを言います。あなたに話したいことがあれば、なんでも話してください」


 穴守彩芽はしばらく押し黙ったあとで、口を開いた。

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