第5話 共有(3)


 馬田兄は、夕食時に一人で帰宅した。先輩刑事は、酒ではない手土産を買いに、駅に戻ったという。

「手土産なんか気にしなくていいって言ったのに、あの人、律儀だから」

 玄関で靴を脱ぎながらそう言って、ダウンジャケットをハンガーにかける。その時、馬田の背に隠れるようにして立つ生吹と目が合った。

「あなたが生吹先生? 蒼から話は聞いています。俺、兄の譲です。昨日は災難でしたね」

「ええ……」

「蒼、しっかり先生のナイトをしろよ」

 譲は擦れ違いざまに蒼の髪の毛をわしゃわしゃと搔き回す。

「あの、私、迷惑じゃないんですか? 突然押しかけて」

 他に行くところはないと悟り、生吹は当初の気概を失っていた。

「誘ったのは蒼でしょ? 先生が嫌でなければいてください。そうでないと、蒼が心配します。早く犯人が見つかるように、我々も善処しますから」

 さらっと言って笑いかける。

 顔以外に、女に困らない理由を垣間見た気がした。

「兄ちゃんが捕まえてくれればいいのに」

「悪いな。そういう訳にはいかないの」

 譲は椅子を引いて座り、テーブルに並んだ料理に目を輝かせた。

「相変わらず旨そうだな、蒼のメシ! 兄ちゃん、最近コンビニ弁当ばっかだったから、こういうメシは久しぶりだ」



 間もなくして、一ノ瀬がドアのチャイムを鳴らし、ケーキの箱を持って合流した。

「生吹先生、こんなところでお会いできるとは」

「本当ですね。私も驚いています」

 一ノ瀬は生吹の隣の席に座り、改めて復顔の件に礼を言った。


 四人で囲む食卓は、生吹が案じたほど悪いものではなく、談笑に満ちていた。蒼が長瀞で生吹が成川をやり込めた話をすると、図らずも二人の刑事を楽しませた。骨片の話を皮切りに、二人の刑事は次第に隠語混じりの会話を始める。


「マルソーのマルガイは現時点で共通点が見当たらないっすね」

「そうか」

「今のところ近いのは年齢と髪型くらいのものです。写真を見ると、顔の系統も似てるっちゃ似てますけどね。取り調べでも何も吐きませんし、マルアイの逮捕前の足取りは奇妙な程きれいに消されていて、防犯カメラの映像を追って、やっとマルタイとの繋がりがわかったところです。接触はこれからですけど。一ノ瀬さんの方は?」

「俺の方は、あの後マルガイの友好関係を調べてる。マルエムは一旦除外でいいだろう。その前にマルエーを洗うのが先だな」


 マルだらけの発言を聞き流しながら、生吹はふと、塩野の話を思い出した。最後に聞いた名前。あれは偶然なのか。それとも――


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