第21話 穴守温泉(3)
嫌とは言えない。ライターなのだから。
「長瀞でよぉ、人骨がどうのってあったろォ? あれなあ、祟りだ」
「祟り、ですか」
馬田は嫌な予感がした。以前、生吹から聞いたことがある。遺跡発掘を墓荒らしだと批判的に考える人もいる、と。そして彼らは、発掘現場付近で事故や災いが起きると、やれ神様がお怒りだとか、サーターアンダギーの呪いだとか言って、発掘を中止させようとするのだ、と。
ひょっとしてこの男も、そういう考えの人物なのだろうか。見ず知らずの人の主義主張の話に巻き込まれるのだけは、勘弁してほしい。難しいことを言われても、全然分からないのだから。
しかし馬田がこのあと聞くことになったのは、
迷信とはかけ離れた、
過去に実際に起きた事件の話だった。
「もう二十五年は経つのかなァ、あの時も、この宿のご主人が、あの辺の山切り崩して宿を大きくしようとしたことがあったのよォ。そうしたら、ザンザン降りの大雨の日が続いてなァ、そんな中、ご近所の中学生の女の子が行方不明になっちまった。
次の日からは妙ぉ~にカラッカラに晴れてよォ……。町中、警察も出て、探しまわったんだけども、結局その子は見つからんかった。家出したんじゃないかとか、殺しちまったんじゃないかとか、世間は好き勝手に色々言ってたわァ。
母親の方は魂が壊れっちまったみたいんなってよォ、
『あなたに傘を持ってきたわ。さあ、一緒に帰りましょう』って。
なんっべんも警察の世話になってたわ。半年もしたら諦めたのか、すっとそんな姿は見えなくなったが、どうしちまったんだか。
今回もよ? あの山で
だとしたらだよ? 昔行方知れずになったあの子の安否も絶望的だよなァ? 二度もこんなことが続いたらよ? 祟りだとしてもオカシくねえだろ? なあ、そう思うだろ?」
男が夜空を見あげる。
涙を、浮かべているのだろうか。
「そう……ですね」
男は目に浮かぶそれをごまかすように、両手で温泉をすくい、顔にぶつける様に浴びせた。
「悪いな兄ちゃん。老いぼれのこんな話、聞かせちまってよォ。俺ァもう上がるわ。ゆっくり浸かってけよォ」
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