第13話 骨片(1)


古杉ふるすぎ先生、これが古人骨ではないという所見に、私も賛成です」

「やっぱりそうだよね」


 丸山が湯呑みを運んで事務所に戻った時、古杉と生吹いぶきの会話が耳に入り、足が止まった。二人は水色のカゴの中の小さな骨片を観察しながら険しい顔をしている。


「これは何処で見つかったものですか?」

「事務所の裏と集団墓の間」

「なんでそんなところに。あの事件の被害者は三十七号基で白骨化したんですよね」

「それは間違いない。警察もそう言っていたから」

 丸山が湯飲みを作業台に移して立ち去り、古杉は小さく礼を言って湯飲みを口に運ぶ。生吹も同じようにしてお茶を口に含むと、二人して唸る。


「生吹先生、さっきから古杉先生と何の話をしているんです?」

「なんだ、聞いてなかったのか。じゃあ、君が茶を飲み終わってから話す。噴き出されても困るからな」

「じゃあ今すぐ飲んじゃいます」

 ゴクゴクと一気に飲み干して聞く。


「で、なんの話です?」

 生吹は水色のカゴに転がる骨片を指差して、何気なく言う。

「ここにある手首の三角骨が、我々の復顔したあの被害者の骨の一部かもしれない、という話」

「ブッ!!」 馬田の唾が飛んだ。

「馬田君、君は茶を飲んでも飲まなくても噴くんだな」

 生吹は、腕にカゴを抱えて背を向けて、骨片に唾がかかるのを防いでいた。

「生吹先生、すごい反射神経だね。私じゃとても間に合わなかったよ」

「こうなる可能性を考慮していたので。証拠品に彼の唾液でも掛かったら面倒ですから」


 そう言って、生吹が安堵のため息をついた。

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