第12話 丸山蓮華(3)
「色々教えてくれてありがとう」
「
不器用な手つきで三つの湯呑みを丸盆に乗せながら丸山が聞く。
「研究者は
こめかみを人差し指でつついて馬田がはにかむ。
「職人さん……ですか?」
「うん。僕は博物館で生吹先生の小間づか……いや助手をしながら、出土品とか人骨とかの修復を手伝ってるんだ。
ものづくりは楽しいけど、この前ここから送られてきた現代人の頭蓋骨の復顔をすることになってすごく緊張したよ。生吹先生と僕の仕事が、少しでも捜査の役に立つといいんだけど」
「あんなことがあるなんて、本当に怖いです」
丸山の顔がまた青ざめてしまったのを見て、馬田は失敗したと思い挽回を図る。
「でも今、警察が調べてくれてるし、早く解決するといいよね」
「本当ですね。先日、刑事さんがここへ来た時、調査の一環で筆跡鑑定に協力してほしいと言われました。わたし、最初は断ったんです。出来るだけ事件に関わりたくないと思ってしまって。来年度は就活を控えていますし、変なことに関わって自分の将来に影響したら嫌だなって思って」
「筆跡鑑定って自分が引っかかるわけないって思っても、何かの間違いで自分が犯人だと疑われたらって、ちょっと思うよね」
「そうなんです。でも、わたしも協力しないとと思って、同意しました」
「偉いね。きっと警察も丸山さんの協力に感謝してるよ」
にっと笑う馬田を見て、丸山はのぼせた頬を隠すように俯く。
「あ、ありがとうございます。お、お茶、冷める前に出さないと」
「僕も」
お盆を運ぶ丸山のあとに馬田が続く。
右手の事務所に通じるドアは閉まっている。ドアノブに手を掛けようと、丸山が盆から右手を放そうとした時、階段から降りてくる足音が聞こえて上を見た。その人物と目が合って反射的に目を逸らす。
丸山の苦手な撮影担当の職員が、首から下げたカメラを片手で持って階段を駆け降りてきた。彼は他のものに目もくれず、左手の通用口のドアノブを
「それ終わったら今日研究所に発送する資料に発送ラベル貼っといて」
「は、はい。わかりました……」
丸山の返事を背中に聞いて、撮影担当は外へ出て行く。
丸山がほっとし直して、事務所のドアを開けようとすると、既にドアは開いていた。馬田が開けてくれていた。丸盆から手を離さなくても通れるようにドアを押さえてくれている。
男の人がみんな馬田さんみたいな人だったら怖くないのに。
丸山は偽りなく心からそう思った。
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