僕の恋、君の恋
月宮楪
序章
プロローグ
桜が咲き乱れる通学路を僕はただ歩いていた。
僕は女性が苦手であった。
僕の顔は、世間一般的な視点で見るといいほうなんだと思う。
女性は、少しでも顔が良ければ条件反射で取り入ろうとしてくる。正直内面なんて考えていないようにも思える。
実際中学生時代は大勢の女性から言い寄られてきた。その中には一部過激な者も存在しており、嫉妬や挙げ句に付き
どの女性にも共通することは、顔がいいからと僕の性格を無視して理想的な人物を押し付けてくることだ。
だから女性は信用に足らないと思っている。若干の嫌悪感すら覚える。
これらの理由で僕は女性のいない男子校に通おうとも思ったが、近隣にそういった高校がなく渋々共学を選んだ。
中学生の頃のようにならないといいんだが……。
◇◆◇
しばらく歩いていると高校が見えてきた。昇降口前には新入生向けのクラス割表が掲示されており、多くの生徒が指を指しながら自らの名前を探していた。その獲物を見つけた働き
蟻たちの後ろで若干距離を取りながらクラス割表に目を向け、自分の名前を探し始める。
必然的に距離ができる上に生徒たちの頭部が掲示物の半分以上を黒く塗りつぶしており、少しの可読範囲で名前を探すしかなかった。
運が良いことに、自分の名前があ行であることから掲載順としては上に来るのだ。だから見えている範囲に書いてあることがほとんどだ。
視力が足りず目をすぼめながら自分の名前を探す僕の後ろから何者かが近づいてきた。
「よっ!翔太、自分の名前見つけたか?」
勢いよく肩に手を回してきたのは僕の親友である
「隼人!目立つから余り大きな声を出さないでよ」
隼人は声が大きい。必然的に目立ってしまうため、いつもこのように
それを無視し、肩に手を回したまま楽しそうにクラス割に目を向ける。
「相変わらずだな~翔太は。あっ!あったぜ、俺たちはC組みたいだぜ」
同じクラスであることが嬉しいのか、耳が痛くなるほど声はより大きくなっていた。
「今年もよろしくな」と隼人はとびっきりの笑顔で笑う。
僕の事情を知っている親友が同じクラスにいてくれるのは非常にありがたい。
「それじゃ、教室に向かおうか」
そう言いながら肩を組んだまま歩き始める。
「いい加減に離してくれない?」
「いいじゃないか、俺とおまえの仲だろ! さっさと教室に向かうぞ」
渋々そのままの体勢で教室へと歩みを進めた。
教室に着くとすでに何人か到着しており、生徒たちはある程度のグループを形成していた。おそらく同じ中学校出身なのだろう。
黒板には『入学おめでとう』の文字と棒磁石に止められた掲示物があり、席順が書かれていた。
「隼人、目立ちたくないから席を確認してきてくれない?」
その場にいると必然的に目立ってしまう教壇付近には行きたくないため、肩を組む親友に頼み込んだ。その親友は『仕方ねえな』と言わんばかりに肩にのせた腕をおろし掲示物を確認しに行く。
その間僕は廊下の掲示ボードによりかかり、隼人が返ってくるのを待つ。
隼人は「ごめんなー、通してくれ」と言いながら点在する人だかりを
しばらくすると隼人が戻ってきて、席を教えてくれる。
僕は教えてもらった席に着き、机に突っ伏して教員が来るのを待っていた。
◇◆◇
入学式が終わり再び教室に戻ると先に紹介されていた担任教師が教壇に立ち、話し始める。
「まずは入学おめでとう。改めて自己紹介をさせてもらいます」
そう言うとこちらに背を向け、黒板に大きく名前を書き始めた。
「俺は
一通り離し終わると手元にある名簿を開き教壇に置く。
「そうしたら、これから一緒に勉強していく君たちの自己紹介をお願いします。名簿番号順に進めていくから1番の青葉さんからお願いします」
「はい!」と明るい返事で女性とが立ち上がる。あまり興味はないが、一応クラスメイトということで耳を傾ける。
「わたしは
一貫して明るい雰囲気で見た目も相まってか一部男子生徒から熱気を感じる。
しばらく自己紹介を聞いていると自分の番が回ってくる。
「次、荏田君お願いできるかな?」
先生に名前を呼ばれたため「はい」と返事をしながら立ち上がり、自己紹介を始める。
「荏田翔太です。南中出身で得意教科は理科です。よろしくお願いします」
当たり障りのない自己紹介で完結したが、途中で周辺から主に女生徒のヒソヒソ声が聞こえる。
『またか……』
かつてこのような状況を経験したことがある。
中学校に入学した際もこのようにヒソヒソ話から始まり徐々にヒートアップしていった。
あの時みたいになるのは御免だ。
◇◆◇
全員の自己紹介が終わったところで事務的な案内が行われ、最後の締めに入ったようだ。
「これから君たちは高校生になり、中学生の頃に比べて活動範囲や行動の幅が広がる。自由になるということはそれだけ責任が生ずることになるから自覚を持って生活するように」
一通り連絡事項が終わったのか手に持っていた名簿とバインダーを閉じると、担任は教卓の角に手を付き、笑顔で再び話し始める。
「今日はこれでおしまいです。なれない環境で大変だとは思うが、月曜日に元気よく登校してくるのを楽しみにしています。これからよろしく。以上!」
そう言うと彼は号令をかけ、礼をした。
解散の合図とともに生徒たちは再びグループで集まり始める。
僕は隼人に目線を送るとそそくさと教室を出ようとする。
しかし、そうはいかないとばかりに後ろから声をかけられる。
声音的に女生徒であることは明白である。
振り返ると最初に二人組の女生徒がこちらを見ていた。
「荏田君だよね、わたし
「私は
彼女らは改めて自分たちの自己紹介すると僕の顔をまじまじと見る。
「なにかな?」
「さっき自己紹介をしてたときにかっこいいなって思ってね!ね、成花」
「そうそう!それでせっかく一緒のクラスになったんだし、親睦会を兼ねてカラオケいかない?」
二人で示し合いながら期待の眼差しを向けてくる。
「ごめん、予定あるから」
と彼女たちの提案を
「じゃあ、その予定終わってからでいいからさ!行こうよ!」
しつこく話しかけてくるから苛つきが高まってきた。
「しつこ――」
「ちょっとごめんな!こいつ家庭の事情で早く帰って家のことをやらねえといけないんだ」
強い口調で女子達を押し返そうとすると隼人が割って入ってきた。
さらに続ける。
「だからさ、こいつの代わりに俺が行くけどどうする?」
驚きの提案だった。
彼女らも想定していなかったのかしどろもどろになりながら口を開く。
「な、なら大丈夫かな……。私達だけで行くよ。ねっ!成花」
愛佳は成花に同意を求めると成花も慌てながら同意する。
「そ、そうだね! また今度機会があったら誘うよ!じゃあね荏田君!」
そう言いながら慌てて教室から出ていってしまった。
「ありがとう隼人、助かったよ」
「いいんだよ、親友だろ?でもいい加減女になれたほうがいいんじゃないか?事情はわかってるけどさ」
隼人は苦い顔をしながら言う。
「わかってるよ、でも女性は信用できない」
「そうか、まあ無理して絡めとも言えないからな。さっ、帰ろうぜ」
「おう」
そうして僕たちは帰路についた。
◇◆◇
この世の中には恋愛の悩みを抱えている者が多くいる。
マイノリティであったり、それ以前に問題があったり。
これは彼らが成長したり、自分の悩みを解決していく物語である。
僕の恋、君の恋 月宮楪 @tsukimiya_527
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