勇者の転生
ろくろわ
勇者と魔王
広い寝室で横たわる勇者は横目で壁に飾られている勲章や過去の栄光を眺めていた。
既に起き上がる筋肉も無く命も僅かだと言うのに、勇者の周りには誰もいなかった。
国王から選ばれた勇者、賢者、魔法使い、格闘家、剣士のパーティーで旅を続け五年もの歳月をかけ魔王を打ち倒したのは二十年前の事だ。
だが魔王を倒しても勇者の旅は終わらなかった。
むしろここからが大変であった。
勇者達は魔王を失い統率のとれなくなった魔族の襲撃を収め街を復興させていった。
二度と襲撃が起きないように残る魔族の村や国を滅ぼしていった。
世界の象徴として率先して善行を行い、王城の中で貴族の話し相手をした。
勇者はそうした二十年を過ごしてきた。
つい先月も魔族のパーティーが勇者の住む王城へ攻めてきた。
勇者の元に側近の報告が入る。
「一階の賢者がやられました」
「二階の格闘家がやられました」
「三階の魔法使いがやられました」
「四階の剣士がやられました」
そして勇者の元にも魔族のパーティーが来た。
五体の魔族パーティーを見た勇者はいつかの自分達と重ねていた。
魔族にとって
私と対峙している魔族は同族から勇者と呼ばれているのだろう。
私は守るべき者の為に負けられないと、魔族パーティーに向かい自身の生命力と引き換えに大魔法を打ち出し滅ぼす。
何度もこの技を使っていた勇者の身は既に限界であった。筋肉は痩せ、実年齢はまだ三十代なのにその姿は老人のようになっていた。
勇者が青春の全てを世界平和に捧げている間、勇者のかつての友人達は皆家庭を築き幸せに暮らしていた。
死の淵に立つ勇者はそんな事を思うと今の世界が憎たらしくなったが、そんな気持ちを切り離すと封印をかけ奥底に隠した。
勇者はもうすぐ一人で死ぬ。
そして封印が解かれた時、今度は魔王と呼ばれ再び甦るのだ。
了
勇者の転生 ろくろわ @sakiyomiroku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
人見知り、人を知る/ろくろわ
★57 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます