第11話 赤いシューズ

赤いシューズに白い靴下を滑り込ませ、うるさい朝の廊下を歩いてゆく。いつもと同じ景色なのに、心臓が音を上げてわめき、うるさい。




 昨日の夜に、かりんから弁解のラインが来た。




内容は、りりかがかりんのスマホを見せるよう強要した。ゆあのことを悪い立場に追いやるつもりはなかった。というものだった。




りりかに嫌われてしまった後では、かりんが自分の立場を守るために、私を売ったのか否かはどうでもよかった。




私は「そっか。迷惑かけてごめんね」と返信すると、かわいいキャラクターが土下座して泣いているスタンプだけが返された。




 教室に入ると、いつもの席でりりかたちが談笑していた。




昨日の泣いていた顔はもうどこにもなかった。




朝の光を受け、楽しそうに笑っている彼女らは、「青春」というタイトルで切り取るには完璧であった。




私は昨日のことなどなかったかのように声をかけた。


「おはよう。何の話ー?」


 少しだけ、声が震えたかもしれない。




 まだほんの少しだけ望みがある。昨日のことは、本当ではなく私の夢だったかもしれない。もしくは、そんなに腹を立てることじゃなかったかもしれないと、りりかは一晩を通して考えを変えたかもしれない。今まで、同じようにりりかの機嫌を損ねて、今後の学校生活が危ないと思った日も、次の日には何もなかったかのように笑えていた。私は小さな希望に全身をゆだねた。




 りりかは私の顔を一瞥すると、元から視線の先には誰もいなかったように「でさー、」と話をつづけた。




 絶望に背中を押されるように、私はくるりと向きを変え、おとなしく自分の席に座った。




 どくん、どくんと脈打ち、頭に血が上っているのが分かる。




 そうだよな。そうだよ。りりかが私を許すはずがない。分かっていたはずなのに、実際に態度で拒否されると、辛いものがあった。




 私の頭上の蛍光灯だけちらちらとついたり消えたりを繰り返し、机に落とす影が濃くなったり薄くなったりしている。




 私はあっという間にクラスから浮いてしまった。




クラスのボスのりりかに嫌われるということは、クラスでの追放者ということでもある。追放者の私は、休み時間も移動の時も一人ぼっち。


皆がりりかたちと私を交互にちらちら見ているのが分かる。




今までは何とも思っていなかった教室が、異常に居心地がわるかった。




 最初は、「天城さんの自己中に振り回されるのも、大変だよね」と悪口を言って私を仲間に入れようとしてくれた持田さんや桜川さんは、りりかに何か言われたのか、昼休みも終わるころにはぱたりと話しかけなくなった。




私が何かを言おうとしても、私の顔を見ると、すぐさまどこかに逃げてしまうのだった。




今まで、りりかが誰かに嫌がらせをするとき、他のグループにいつも根回ししているのを見てきた。いつものごとく、りりかは自身の権力をつかって私を貶めようとしている。




かりんも晴美も私を遠巻きに見るだけで、話しかけようとはしない。りりかに嫌われるのが怖いのだろう。


その気持ちはすごくわかるため、無理には私も干渉しなかった。




 だけども、二週間もすればこの関係はもとに戻るだろうと私は予想していた。




一度、かりんがハブられたことがあった。




元々、四人で遊ぶ予定を、彼氏とのデートのためにブッチしたのだ。その時も、りりかは大いにあれたが、二週間もたつと、元の四人で笑える関係に戻った。あの時の罪よりも、今回の罪は断然軽い。




 二週間。たった二週間我慢すれば、元の平穏な生活が戻ってくる。今の自分は笑い話になる。それまでの辛抱だ。私は勉強のスケジュールが書かれた手帳を開き、二週間後の日にちに赤でぐるぐると丸を書いた。


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