隣の席のギャルはなぜか俺を構う~無視してたら交換日記が始まりました~

なかむらみず

第1話:憂鬱なプロローグ


 交換日記。それは仲良しな友人らが一冊のノートにその日あったことやメッセージなんかを書いて次の人に回す、というもの。


 学校でもペチャクチャ喋ってるくせに、「あっこの話は日記に書くね~」などと勿体つけてノートの中でもペチャクチャ喋るという、謎な行為。

 ちなみにとてつもないカミングアウトなどは基本的になく、『〇〇くんかっこよかったぁ♡』的な内容だったりする。

 それが交換日記。……若干斜めに見てる部分はあるが、そこまで大幅に外れてはいないだろう?



 さて。ここにある一冊のノート。

 サイズはA5。表紙は空色の無地。

 罫線があって真っ直ぐ文字が書けるよう有難い配慮がされた所謂普通のノートである。


 だがしかし、このノートこそだ。



 5月15日(月)


 今日はやっちゃんたちとカラオケ行ってきました~。

 やっちゃんめっちゃ歌うまいんだよ! まじで配信すればいいのに! ぜったい人気でる!

 みんなで進めてるんだけどさぁやっちゃんクールだから「無理」っていうの! まじクールすぎ~

 あ、キミもクールだよね。やっちゃんよりグールだよキミ! 



 これは昨日、つまり最新の日記。

 書いたのは勿論俺ではなく、俺宛てに書かれたものだ。


 しかし……毎度毎度、突っ込むところがあるというのは逆に凄いね。

 当然のように出てきたやっちゃんなる人物はこの日記において初登場である。誰よやっちゃん。

 進めるて。漢字が違う。もうひらがなでいけ。

 無理って言うことのどこがクールなのか、俺はやっちゃんを知らないのだから共感できない。

 そして俺はグールではない。やっちゃんも違うだろう、多分。なんだ、グールて。


 これを書いたのは白坂しらさか莉子りこ。高校二年となった今年、クラスメイトになった隣の席の女子である。


 あちらは先月まで俺のことなど知らなかっただろうがこちらは去年から存じ上げていた。

 というのもこの白坂、男子の話題によくあがる人物だったのだ。

 誰それが可愛いだとかの類でな。


 澄んだ白肌、くりんとしたアーモンドアイ。小さな顔に配置されたパーツのバランスの良さ。

 身長は然程高くないのにすらりとした手足と。興味はなくとも目を惹くのだからいやはや恐れ入る。

 背中までのダークブラウンの髪が揺れた瞬間、ほのかにいい香りがしたことも俺の記憶に刻まれた。


 校則違反である短いスカート、気崩されたブラウス。緩められた深碧のリボン。

 目立つ要因は容姿だけではない。彼女は他の一年女子に比べて少々派手なグループだった。


 関わることのない人種だ。

 偏見かもしれないが、彼女らのような人たちのエネルギーは尋常でないと思うから。

 とてもじゃないがお友達になんてなれない。

 それは同じクラスになったとて、だ。


 しかし、そんなのは俺側の意見で。

 彼女は違った。


 隣の席の人間とは仲良くやりたい信条でもあるのか、毎日毎日、俺は彼女に声をかけられた。

 挨拶から始まり「アレ見た?」や「アレ知ってる?」や「アレ好き~」やら喋り倒される。

 アレが何を指しているのかさっぱりなのは俺がろくに返事もせず聞き流しているからだ。


 隣でぎゃーぎゃーやられるのは別に構わない。

 眉間にシワが寄ってしまうが、そんなの無視してればいいだけだから。


 しかし連絡先交換を無視したのは失敗だったと、今ならハッキリ言える。

 あんなのサッとやれば良かった。判断を誤った。

 社交辞令とかその場のノリ的なものだ、無視してれば「なんだよ~ケチ~」で流れるだろう。そう思ったんだ。


 実際その場ではそれで終わったのだが、数日後。ゴールデンウイーク明け。


「喋ってくんないから筆記で!」


 俺の机にはノートが置かれた。

 ぺらりと捲れば一ページ目には日付と『今日から始まるキミとの交換日記!』と書かれていた。

 すぐに閉じた。


 無論突き返したさ。

 だが帰宅後、鞄から出てきたのである。oh……。



 そんなこんなで、始まってしまったヤツとの交換日記、なのだが。


「……はぁ」


 パタン。ノートを閉じて通学鞄に戻すとベッドに横になった。

 返事? 書かないよ。


 俺の信条は無駄なことはしない、だ。

 面倒なこと、価値を見出せないことはしない。勿論、やらなければならない面倒ごとはやるさ。やらなければならないのだからな。その場合もどうすれば一番無駄がないかを考える。

 合理的? いや、面倒くさがりなのだ俺は。

 より少ない労力で済むようしたい。


 そんな俺が。SNSすら多用しない俺がだ、交換日記などやるわけがないだろう。

 これは交換日記と銘打たれているがその実、白坂の日記を読まされているに過ぎないのだ。

 なんせ俺は一度も好意的な返答はしていない。

 白坂が強引に渡してくるだけ。

 なので次が俺のターンであってもそれをする理由はない。これはやらなくていいことだからな。


 一週間。俺は一文字も書いていないというのにまだ続いている。

 悩むことも迷うこともなく、読んで鞄に入れ翌日彼女に催促され鞄から彼女の手へ渡す。それだけなのに、彼女はやめようとしない。

 交換日記に謎の行為だと言ったが、彼女の行為はもはや恐怖である。理解ができないものは恐ろしいだろう?


 あまりに不可解で全てのページを捲ってみたよ。もしかしたらSOS的なことでも書かれているのではないか、とね。

 そんな漫画のような展開あるわけないと思いつつも、あまりにもおかしい彼女の行動に何かしらの理由を見つけたかったのだ。


 無駄なことはしない。

 何かあるのならさくっと済ませたい。


 だが最後のページまでいっても罫線があるだけの新しいノートだった。

 あの時の脱力といったら。まぁ、そうだよね、と情けなかったわ。



 これは時が来れば解放されるのだろうか。

 それはいつになるのだろう。

 席替えか? それとも彼女が飽きる方が早いか。


 ああ、何故俺と彼女は同じクラスになってしまったのだろう。

 意味のないことだとは分かりつつ何度思ったか知れない憂鬱を、俺は今日も噛みしめるのだった。











――――――――


 お読みいただきありがとうございます。

 近況に書いてたやつです。新作ラブコメはいつぶりかな。

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