第1話「あなたになら……」
「うん、2人きりだわ」
そう言うと、七瀬さんは顔を真っ赤にして俯いた。
その動作がまた可愛らしい。
「もし嫌なら…」
「嫌じゃない、家に帰る方が嫌です」
「そ…そうか、じゃあゆっくりしてってよ」
若干食い気味に否定されて、男の家に1人で泊まらせてもらうのにガードが緩すぎないか?と心配になったが、それほど嫌なことがあったんだろう。
とりあえず七瀬さんをうちに上がらせて俺はご飯を作ってるからと言って七瀬さんに風呂を勧めた。
服は姉ちゃんのを着てもらうことにした。
姉ちゃんのだと少し小さいかもな、いろんなとこが、特に……いや、これ以上はやめとこう。
そんなこんなで晩ご飯を作り始めることにした。
♢♢♢
「今日の晩ご飯はカレーかな、きっとカレーなら七瀬さんも食べれるだろうからな」
別に凝ったもの作るのがめんどくさいとかそういう理由じゃない。うん、違う。めんどくさいわけじゃないから。誤解しないでくれよ七瀬さん。
心の中でそう言い訳しつつも調理を進める。
「七瀬さんがあがってくるまで出来るかな?」
いつもの俺なら30分くらいで作れるから何事もなければ間に合うだろう。
そう思って調理を黙々と進めることにした。
♢♢♢
「よし、間に合った!」
あれからおよそ25分後、七瀬さんがあがってくる前に調理していたカレーが出来上がった。
俺はお皿にご飯を乗せ、ルーをかけたものを2人分用意し、机の上に並べた。
すると、それとほぼ同時に七瀬さんがお風呂からあがってきた。
「お、ちょうど出来上がったとこだ……ぞ…」
振り向きざまに声をかけたが七瀬さんの姿を見た瞬間声が詰まった。
「星…宮…さん……?」
お風呂上がりで眼鏡をとり、しっとりと湿り気を纏った七瀬さんは先ほどとは違う雰囲気だった。具体的に言えば、学年一のマドンナの星宮さんのような。
「え…いや、ち…ちがうよあたしはな…七瀬陽菜だよ」
「あ…あはは、だよな。ごめん変なこと言って」
「だ…大丈夫です……」
そこで重い沈黙が流れた。
あー、変なこと言っちまったな…あまりにも雰囲気が似すぎてつい口走っちゃったな。この沈黙どうしよ……
俺が悩んでいたその沈黙を破ったのは他でもない七瀬さんだった。
「あ…あの、東雲くんは、もし一人二役してる人がいたらどうしますか……?」
「えーと、つまり?」
「あ、た…たとえば東雲くんがさっき言ってたようにあたしと星宮さんが同一人物だったりしたらどう感じますかってことです」
「ん〜、別にいいんじゃないかな。何をしようが個人の自由だしさ。ただ、それがその人がしょうがなくやってることだったりするのなら俺はその人を救ってあげたいかな」
俺がそう言うと、七瀬さんは少し考えてから恐る恐る口を開いた。
「あ…あの、今から言うこと誰にも言わないでくださいね?」
「ん、わかった」
「……実はあたし、東雲くんの言う通り星宮透華でもあるんです」
「え……?」
七瀬さん…いや、星宮さんはそう言って俺にまっすぐな瞳を向けてきた。
「話すと長くなってしまうんですけど、あたしの話、聞いてくれますか?」
今考えれば、一人称も"私"ではなく"あたし"と言うところも同じだな、と今更ながら思う。
星宮さんの何かを決意したようなまっすぐな瞳に首を横に振れるはずもなく、俺は星宮さんをまっすぐに見つめ返して言う。
「ああ、もちろんだ」
すると星宮さんはホッとしたような嬉しそうな表情を浮かべ、そしてふと何かを思い出したように険しい表情になり、ゆっくりと語り始めた。
「今思えばすべての始まりは、小学校四年生の頃でしたーー」
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