3.薄紫色の輝き
3-1. 他の冒険者
あの夜を経て、レイアとの心の距離が格段に近くなった実感がある。
一瞬の感覚は今でも残っており、ふとした時にレイアの薄桃色の唇を見てしまう。
少し、距離を置きたい。
この感情を制御する術が今の私には無い。
そんな思いとは裏腹に、レイアは昨日以上に距離を詰めてくる。
──迷宮。
長い石階段を下る途中、私は言った。
「レイア、悪いが少し歩きにくい」
「いやよ。ご主人さまの半分は、私のモノになったのだから、離れないわよ」
彼女は私の右腕を抱いている。
もちろん宿からこの距離感だったわけではない。迷宮に入り、人目が消えた途端、こうなった。
「足を滑らせたら大変だ」
「平気よ。必ず護るから」
「……そうか」
私が護られる側という表現に少し違和感を覚えるが、それはさておき、スキルを使えば階段から転げ落ちても問題にならなそうだ。
それ程までに絶大な能力向上。
これから数日間は、スキルによる能力向上に慣れるため迷宮へ通うことになるだろう。
「そうだ。スキルを使えば、移動時間を短縮できるのではないか?」
「絶対に嫌よ」
「……なぜだ?」
「そんなの、少しでも長く触れていたいからに決まっているじゃない」
「……そうか」
この感情は何なのだろう。
彼女のことが、とても愛らしく見える。
「ご主人さま。温かい」
「レイアは、相変わらず冷たいな」
「ひんやりして気持ちが良いでしょう?」
「……そうだな」
私の声はぎこちないけれど、先日までよりも会話が弾む。迷宮に対する危機感が薄れたのは良くないとは思うが、悪いとも思えない。
(……こちらの方も、慣れる他あるまい)
私は未知の感情に戸惑いながら、目的値のルーム
* * *
最初に現れたツギハギは黄色だった。
黒ではないことを確認して短刀を構える。
「レイア。分かっているとは思うが、攻撃する前に必ず色を見ろ。黒だった場合、撤退を最優先にする。いいな」
「はい。ご主人さまの仰せのままに」
彼女は頷いて、素人が格闘技をするような構えになった。まだ武器すら買い与えられておらず己の無力を痛感するばかりだが、あのスキルによって、素手でも問題なくツギハギの魔石を砕くことができる。
(……黒さえ避ければ、大丈夫だろう)
もはやツギハギとの戦闘に危険は無い。
私はそのような判断をして自分の敵に集中した。
距離は10メドル程度。
私は先日の感覚を胸に、地面を蹴る。
そして壁に激突した。
「……なんだ、今のは」
前回は一歩で距離が半分になった。
しかし今回は、一歩で壁に激突した。
──全能力向上。大切な相手のため行動する場合に発動。想いの丈により効果増大。
私は鑑定結果を思い出す。
意味を理解した直後、顔が熱を持った。
(……そういう、ことか)
昨日よりもレイアのことが大切になった。
その分だけスキルの効果が増大して、今の結果になったのだろう。
背中がムズムズするような感覚がある。
それをごまかすためレイアの様子を確認すると、彼女もまた壁に埋まっていた。
ツギハギの姿は無い。
その代わり、魔石がふたつ落ちている。
「大丈夫か?」
「……驚いたわ」
彼女の言葉に同意する。
ここまで変わるとは思わなかった。
私は軽く息を吐いて立ち上がり、レイアに近寄って手を伸ばす。
「痛みは無いか?」
「ええ、平気よ」
──その直後だった。
「あっれぇ~? 先客じゃん」
人の声が聞こえた。
目を向けると、私達が来たのと同じ通路に二人の人物が立っていた。
共に露出の多い服を着た褐色肌の女性で、太腿の辺りに短刀がある。
(……他の冒険者か)
この場合、どうするべきだったか。
私がフィーネの言葉を思い出していると、彼女達は笑顔を浮かべ、歩み寄った。
「見ない顔だけど、新人かな?」
私はレイアに目配せをして、こちらからも歩み寄る。
「ああ、そうだ」
少し警戒したが、とても友好的に見える。
距離が近付いたところで握手を求めると、彼女は両手で応じた。
「あたしはマリだ。あんたは?」
「クド。ただのクドだ」
「へぇ、良い名前だねぇ。良い男だねぇ」
私は返事に悩み、苦笑した。
何やら粘着質な視線で、これもまた過去に経験したことが無い。
「おっと、次が出たみたいだよ」
彼女は横を向いて言った。
私は視線を追いかけ、色を確認──
「……ぁは」
太腿の辺りに、焼けるような熱があった。
「……ぁは、ぁはは」
笑い声が聞こえる。
その正体を確かめようにも首が動かない。
(……身体が、動かせない)
私は何が起きたのか理解できず、ひたすらに困惑していた。
数秒後、マリが視界に入る。
彼女は恍惚とした表情で私を見て言った。
「新しい玩具ゲットぉ♡」
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