2-10. 復讐の道筋
スキルの強化及び獲得。強い信頼関係によって発動。信頼が続く限り継続。信頼の丈により効果増大。
私が得たのは、このようなスキルだった。
通常、スキルの対象は自分となる。このためエドワード兄さまは「無限にスキルを獲得して、しかも強化できる可能性がある」と声を弾ませた。
このスキルには前例が無いため、実際の効果は調査するしかない。しかし私のスキルは一度も発動しなかった。あるいは発動したものの、誰も変化に気が付かない程度に小さな効果しかなかったのかもしれない。
私はスキルを持たない者として扱われた。
王の血を引く子供の中で唯一の無能者という事実は、間違いなく、私が疎まれる理由のひとつだった。
「クドさん。あなた、何者?」
冒険者協会。
鑑定の結果が出た後、フィーネが声を震わせた。
祖国でスキルを鑑定する場合、巨大な鏡のような魔道具を使った。結果は鏡に映し出されるため、紙などに記して保管していた。
ここでも魔道具を使うことは変わらない。
しかしそれは巨大な鏡ではなく、冒険者の資格を発行する際にも見た鈍色の箱だった。
被鑑定者が箱に触れると宙に紙が現れた。
ひらひらと机に落ちた紙には薄紫色の文字が記されていた。
まずは私の分。
ふたつのスキルが記されていた。
ひとつは
効果は昔に見た時と変わっていない。
もうひとつは
全能力向上。大切な相手のため行動する場合に発動。想いの丈により効果増大。
*
そしてレイアの分。
彼女のスキルは次のように記されていた。
全能力向上【極小】⇒
全能力向上。大切な相手のため行動する場合に発動。想いの丈により効果増大。
*
しばらく誰も何も言わなかった。
最初に声を出したのは、フィーネだった。
何者か、とは難しい質問だった。
単純に今の私は空っぽだからだ。
フラーゼ王国の王子だと明かすか?
祖国を知る者ならば、王族は特殊なスキルを持つと知っているだろう。
「……クド。私は、ただのクドだ」
しばらく悩んだ後、私はそう返事をした。
クォディケイドという大層な名は、ここでは必要ない。
いつか復讐を遂げるその瞬間まで、私はただのクドとして生きよう。
「そっか……」
フィーネは何か言いたげな態度で言った。
もちろん疑問は残るだろうが、これ以上、私から話せることは無い。
「昨日までは、発動してないんだよね?」
私は頷いた。
「じゃあ、信頼って、そういうことなの?」
言葉の意味が分からない。
私は意図を確かめようとして顔を上げる。
フィーネは、なぜか頬を赤らめていた。
そして彼女の視線は私ではなく、レイアに向けられている。
「ええ、そういうことよ」
レイアが自信満々に返事をした。ところで昨日は長椅子の隅に座っていた彼女だが、今日は私の隣で背筋を伸ばしている。
「あの、クドさん? 今夜、二人で食事に行きませんか?」
「ダメよ」
なぜだろう。レイアから圧を感じる。
「ご主人さま。用が済んだなら帰るわよ」
「……あ、ああ、そうだな」
これではどちらが主人か分からないが、今のレイアには逆らわない方が良い気がした。
「フィーネ、今日も世話になった」
「いえいえ、またいつでも……ああ、ちょっと待って!」
私はちょうど腰を上げた姿勢で静止する。
それからフィーネの口元あたりに目を向けて、続きを促した。
「確認するけど、ただの投石でツギハギを倒せたんだよね?」
「ええ、そうよ」
「……うん、じゃあ、話しても大丈夫かも」
フィーネの声色が変わる。
「座ってください」
私は一度レイアに目配せをして、フィーネの問いに頷いた。
「ありがとうございます」
彼女は軽く息を吸い込む。
「これからあなた達に、上層に関する情報を明かします」
そして、協会が保有する情報の一部を説明した。
──上層。
迷宮の六階層に位置する特殊な空間。
この階層を突破した者は加護を得る。
加護の効果は絶大な力。真の地獄へ挑むための資格。
道のりは長い。
まずは第一階層。ここで十万マリを集めた者には、第二階層の地図と情報が与えられる。何も持たず挑むことも可能だが、それは自殺行為だとフィーネは強く言った。
二階層から先へ進むためには二十万マリ。
三階層では三十万、四階層では四十万マリを集める必要がある。
そして、五階層で五十万マリを集めた者に上層の詳細な情報が与えられる。
「今の冒険者は、とても荒れています」
フィーネは深刻な表情で言う。
「強力なスキルを持つあなた達は、必ず巻き込まれる」
それはまるで予言だった。
「一日でも早く上層を突破してください。それが、あなた達を守ります」
この時、私は初めてフィーネを見た。
褐色の肌と、短い髪。そして細い身体。彼女の顔つきは、どこか母と似ている。
──だから、罪悪感があった。
上層の突破者に与えられる絶大な力。
それを得ることで、夢物語に思えた復讐が現実になるかもしれない。
そんな感情は無いと思っていた。
明日を生きるための建前だと思っていた。
だけど私は考えてしまった。
心の奥底にあるドス黒い感情が、具体的な道筋を描いていたのだ。
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