吾輩はロボである ~とある部活の贈り物《ホワイトデー》~
飛鳥つばさ
さりとて抜け出せぬロボの沼
吾輩はロボである。名前はミケ。
今日は3月14日。放課後、われわれ「ロボ研究会」のメンバーは、二人と一体がかりで、一体のロボにホワイトデーの贈り物をあげる作業をしていた。
「カイチョー、ここ、これで合ってる?」
配線の束をかきわけながら、吾輩のマスター、ひまわりが隣に問いかける。お気に入りのその時の気分で色が変わるリボン、今は”真面目“の水色。
「どれ。……よし、間違いない。そのまま戻してくれ」
カイチョー、と呼ばれたメガネの男子が、ちらりと確認してうなずいた。この人がロボ研の会長、トオル殿である。
「規格がころころ変わるのも厄介なのだな。……うむ、なんとか本体のコネクタと合った。ミケ、ソフトのチェックを頼む」
「アイアイサー。……<ソフトウェアチェック>……各部問題ありません」
ロボは
双方ともクリアできて作業は完了。会長殿は作業のため開けていたロボの腹部を閉じると、目の焦点が合っていないその顔に呼びかけた。
「いいぞケイ。作業完了だ。通常モードに復帰してくれ」
<了解シマシタ。せーふもーどカラ通常もーどニ復帰イタシマス>
まったく抑揚のない、ざらついた声が返ってきて、寝ていたロボの各部から駆動音が聞こえてくる。うつろだった瞳に輝きが戻って、その女性型ロボはゆっくりと身を起こした。
「……<セルフチェック>……全部位クリア。ケイ、通常モードに復帰しました」
次の声は、やや感情に乏しいものの、女性らしい張りと抑揚を伴っていた。先ほどから呼ばれているとおり、ケイ、というのが彼女の名前。会長殿お手製のロボだ。
「これで今年のホワイトデーもなんとかクリアだな」
会長殿がふうっと深呼吸して、額の汗をぬぐった。手に付いた油が跡に残る。
「だんだんケイちゃんのメンテもややこしくなってくるねえ」
マスターが洗浄液で油汚れを落としながら、のんびりと相づちを打った。
「なにせロボの技術は日進月歩だからな。正直、もう維持してる方が新しく造るよりカネがかかる。ハッハッハー!」
ヤケなのか冗談なのか、会長殿が乾いた高笑いをあげた。
「これ以上マスターのご負担になるようでしたら、ケイは廃棄していただいて構いませんが」
ケイさんの声はいつもと変わらず淡々としているが、ロボと人間を識別するためのパーツ、背中に付けた天使の羽根が力なくうなだれている。
さすがはマスター、自分のロボの心理には敏感だ。会長殿はあわててフォローを返した。
「いやいや、愛着ある自分の機体を廃棄なぞせんよ。それに下手に捨てるとロボ基本法で逮捕されてしまう」
「恐れ入ります。捨てる方もマスターのご負担になるとは考えが至らず、ケイは恐縮です」
――ロボを持つのには、こういうハードルもある。ペットと同じ、いやそれ以上で、一生を共に過ごす覚悟がないといけないのだ。人型ロボ普及への道は、長く険しい。
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