TSっ娘ハーレムとか正気か?~世界救って女の子に囲まれるはずが、パーティーは全員元男だったんだがどうすればいいですか~
恥谷きゆう
冒険のはじまりと騎士の都のお姫様
第1話間違いだらけの異世界転生
男子高校生だった俺の人生は、あっけなく終わった。通学路に突っ込んできたトラック。それは俺と幼馴染の体を容易く跳ねた。
「おお、召喚に応えてくださりありがとうございます勇者キョウ様」
どこかの豪華な大広間で、俺は再び目を覚ました。俺の周囲には、フードを被った魔術師のような奴が複数人跪いている。
話しかけてきているのは、長い杖を持った、白ひげの爺さん。
それだけで、ある程度オタクである俺は状況を理解してしまった。
間違いない。これは勇者召喚の儀。そして俺は、異世界転生者として召喚されたのだ。
「フッ、いいってことですよ。世界を救うのは俺の役目。そうでしょ?」
「おお……すでに使命を理解しているとは、さすがキョウ様。かつてそんな転生者はおりませんでした」
爺さんの言葉に機嫌を良くしていると、頼んでもいないのに世界観の説明が始まった。
魔神がいてヤバいだとか、特殊なスキルを出現させる転生者を召喚して魔神や魔王の討伐を目指しているだとか、そういう話だ。
「キョウ様には大儀を果たすためにこの魔剣を持っていただきたく思います」
なんかやたら禍々しい色をした剣を渡された。
「これは?」
「800年前から存在する伝説の魔剣でございます。傲慢の魔剣。かつてこれを抜いたものは、当時最強と謳われた魔王の討伐を成功させました」
おお、いいねそういうの。テンションが上がる。
剣柄に手を当てると、途端に脳内に声がした。
『ふむ、お主であればよいだろう。試しにワシを抜いてみるが良い』
言葉に従い、ゆっくりと鞘から剣を引き抜く。
静かな金属音とともに、錆び一つない黒色の刀身が姿を現した。
「ぬ、抜けた!?」
その途端、召喚士たちの間にどよめきが上がった。俺の目の前のじいさんも目を大きく開いていた。
「おい、どうした?」
「…………いえいえいえ、その魔剣は選ばれた者にしか抜けない気難しい武器なので、あっさりと使いこなしてしまったキョウ様に驚いていただけでございます」
鞘から抜けない魔剣? おい、もしかして俺は無用の長物を押し付けられたのか?
こいつら、あんまり信用できないかも。そう思った俺は、必要な情報だけ聞いてさっさとここを出ていくことにした。
「それで……俺のパーティーメンバーはどこに?」
この世界の事情はわりとどうでもいい。問題なのは、俺のハーレムパーティーメンバーはいったいどこにいるのかということだ。
異世界転生最大の魅力。それは、美少女たちとのラブコメディーであると俺は思う。冒険して、惚れられる。そのために俺は異世界に来たと言っても過言ではない。
「は? ……いえ、仲間は相性などありますので、勇者様自身で決めていただくのが慣例となっております。」
「ああ、なるほど。そういうやつね」
その言葉で、俺は自分がするべきことを理解してしまった。
俺が最初にするべきは、美少女奴隷の保護だ。
意気揚々と、召喚士たちのもとを後にする。
道を歩きながら、俺はもらった魔剣を鞘から抜こうとしていた。
「……あれ、この剣やっぱり抜けないんだけど」
一度鞘に戻してから、魔剣はまったく抜けなくなってしまった。
どうしよう、まだクーリングオフで取り換えとかできるかな。でもあの召喚士あんまり信用できなそうだし。
まあ、普通の剣も一本もらったからいいか。
「勇者様、ようこそおいでくださいました」
目的の店に入ると、へらへらと笑う小太りの男が、俺を迎え入れる。奴隷商の店は薄っすらと汚らしい。奴隷を閉じ込めてある檻のある奥の方は、陰気な雰囲気が漂っていた。
「奴隷を一人買いたい」
「はい。戦闘力に優れたものであれば、こちらの男などはいかがでしょうか?」
男が示したのは、ケモ耳の生えた男だった。裸の上半身は筋骨隆々で、たしかに強そうだ。
「いらない。女がいいんだ」
このオッサンは分かっていない。俺が欲しいのはハーレム要員。美少女だ。ロリでも可。責任を持って育てる。
「なるほど……かしこまりました」
案内された先にいたのは、黒髪の美少女だった。
美少女ソムリエたる俺にはわかる。
痩せこけているが、その素材は一流だ。長い黒髪に隠れているが、顔立ちは整っている。綺麗系だろうか。細めの目つきに、しゅっとした鼻立ち。ボディラインは綺麗な凹凸を描いていて、胸はかなり大きい。
「こ、この子だ……!」
「お気に召したかな? 最近入荷したばかりで、手つかずなので夜の世話にも使えます。少しばかり魔法も使えるらしいです」
「買おう。いくらだ?」
俺を召喚した人たちから資金は十分に渡されている。問題なく支払いを終えて、俺はその奴隷商人のところを後にした。
「……」
奴隷だった少女――俺のハーレム要因第一号は、ずっとうつむいたまま俺についてきていた。纏っていたボロボロのローブを目深にかぶり、目元を見せない。
あまりにも陰気な様子。親友に能天気と評される俺でも気になってしまって、俺は彼女に話しかけた。
「なあ、そんなに落ち込むなよ。俺そんなに虐待とかしないから。むしろ丁重に扱うから」
「……はい」
精一杯熱意を籠めて伝えたつもりだったが、少女は俯いてぼそぼそと答えるだけだった。俺の顔を見ようともしない。
結局のところ、俺たちはそれ以上言葉を交わさないままに宿に辿り着くのだった。
宿の部屋に入って人目がなくなってからも、少女はフードを外そうとはしなかった。ベッドに座り込み、じっと彼女を見つめる。
俺もまた、彼女をじっと観察した。顔はフードで良く見えない。けれども、その体が先ほど店で見た時以上に起伏に富んだ魅力的なものであることはよく分かった。
大きな胸は、腰のあたりが細い分だけ一層強調されている。着ているのがぼろ布のためボディラインがもろに見える。
ゴク、と息を呑む。
とにかく、話をしないと彼女がどんな子なのか分からない。
けれども、少女の纏う雰囲気があまりにも辛気臭いので話のとっかかりをつかめない。
「だあー! しゃらくさい!」
ガバッっと立ち上がった俺は、少女のフードを勢い良く取り払った。
無理やりにでもコミュニケーションを取って交友を深める。それが俺の処世術だ。
顔が露になり、たじろぐ少女と目が合う。淀んだ、けれど強い意志の籠った瞳。――あまりにも見覚えのあるそれに、俺は思わずつぶやいた。
「ヒビキ……?」
そんなわけがない。ヒビキはいけ好かなくて、眼鏡で、皮肉屋で、俺の幼馴染の男子高校生だ。
「キョウ……?」
しかし見知らぬはずの彼女は、震える唇で俺のあだ名を呼んだ。
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