チート属性のない異世界転生者なんている意味ねえだろ!?

QLUWENTA(呼び方不明)

ファイルNo.1 soushitsu #1

 頭が痛い。寝起きの悪さはいつもと変わらないが、ひとつ違うのは目が覚めた場所だ。俺がいつもいた部屋とも場所とも違う張り詰めた空気、そしてどこまでも真っ白な空間が今までとは異なる世界にいることを感じさせた。


「おーい誰かいないのか!?おぉ…?」


 俺の声を発したのと同時に一面白い壁だった空間から白は黒と変わり黒は俺を囲むように上下左右が霜降ブランドのモニターへと変わった。


「この番組はshimohuriとご覧のスポンサーの提供でお送り致します。イタシマアアアアス!」


 モニターから番組の最初に流れるような提供のフレーズが聞こえた。モニター画面では『提供 shimohuri aida製薬 kattudo食品』とどれも家電事業、医療、食品事業でナンバーワンのシェアを有している企業が画面に表示されている。その提供の文字の後ろに映る背景には何故か俺と幼なじみの阿久蘭楓が映っている。


 提供の文字が数秒で消えると俺と楓が話している声が流れ始めた。

「楓、お前はやっぱり帝大に行くべきだって。俺とは違ってお前は才能も根性もあるんだからさ。」

「いや、巧真くんが行かないなら私も行かないよ。2人でいなきゃ楽しくないでしょ?」


 ったく。こいつはいつもマイペースな奴だったな。一生を決める進路選択だってのに、俺みたいな出来損ないに合わせやがって。でもそんなところが好きだったんだよな。そういえばこの後…


「もう見せないでくれっ!誰かモニターを消せ!」

 この後に何が起こるか思い出してしまった。楓と話している映像のあとほんの数分で俺は死ぬ。殺されたんだ。


「本当に消していいのかい?」

頭の中から知らない中性的な声がした。

「誰だか知らないが早く消してくれっ!」


「相当トラウマとして刻まれてしまったようだね。まっあーんな惨たらしい殺され方をしたならそれもしょうがないか。お望み通り消してあげるよ。こんなもの地上波じゃ放送もできないしね。」


「はぁ…地上波だと…?」

「君の今の姿は異世界TVで放送されてるんだよ。ああきちんと顔にはザイモク入れとくから。」


 それを言うならモザイクだろつっこむべきだったのかもしれないがそんな気力はなかった。


「…これから俺はどうなる?ずっとここにいろなんてことはねえだろ。」


「そうだね。後ろに人もつっかえてるし移動してくれ。あとはアンナちゃんが何とかしてくれると思うからあでゅー」


 モニターから小さな黒い円が映し出されその円から灰色の筒がにょきにょきと伸び、そこから煙が出てくる。そしてあっという間に視界が全て黒く染まり意識が遠のいた。

           ※

「…きてくださいっ!起きてくださいってば!」

「んあー眠い…揺らさないでー…」

 身体を揺らしてくる存在を鬱陶しく思いながら目を開けるとブラウンの髪と目をした20代前後の女性が俺の前にいた。


「お前だれ?」

「お初にお目にかかります。私はアンナと申しますっ!」

「ごめん。全く記憶にない。ってか俺も誰だ。」

「生前の記憶…ないんですか?」

「ない」

 俺の返答を聞くとさっきまでの無理にあげていたようなテンションとは一変して彼女はポロポロと涙を流し始めた。


「な、泣いてしまってごめんなさい…記憶がないのはお辛いでしょうが、せめてこれからは楽しく生きられるように私が頑張りますから…!」


 そんな面みせられて楽しくなれるわけないだろ。どんなサディストだと思われてんだ。


「何だかわからんが俺の記憶がないのはお前のせいじゃないだろ。謝らないでくれ。楽しく…だろ?」

「…そうですね。私についてきてください。ギルドに案内します!」


 『ギルド』確か日本語で協会とか組合って意味だったか。RPGのイメージだとモンスターや悪人を討伐する感じを思い浮かべるがどんな所に連れてかれるんだ。何か怖いんだけど。


「それじゃあ私は外に出る準備をするので巧真さんも服を着替えてください。あっテーブルの紙袋に着替え一式入っているので!」


 しれっと名前を呼んだな。この子は俺の名前を知っている。ただ記憶を失う原因や理由に関しては詳しくは知らないって所か。わからないことだらけだがとりあえず今はこの子についていくほか無い。

 袋の中を見てみると確かに下着や服、ズボンが入ってたが素材が俺の知らないものだ。ゴムに近い触り心地で着てみると肌にフィットするようだがひとつ困ったことがでてきた。ボタンやチャックが見当たらず胸や股間が開けっぴろげになってしまっている。


「ふぅ、私は準備完了ですっ巧真さんは服のサイズは合ってまし…きゃあ!」


 俺の産まれたばかりの姿を見て一瞬フリーズした後、悲鳴をあげる彼女。ただ仕方ないでは無いか。この服やズボンは着るために必要なものが欠けてしまっているのだから。


「…ああ、魔法エネルギーに関してまだ知らないのでしたね。えーっとじゃあ私の手を握ってください。エネルギーを少し分け与えます。」

 

 彼女は手を差し出し、俺はそれを握ると開けていた服やズボンの中心部に柔らかな力が身体につたわり糸や針を使うことなく閉じていった。

「うわっ便利だな。」

「はいっこれで大丈夫ですよ。この服は必ず魔法エネルギーを必要とするのでいずれ身につけられるようになってください。じゃないと公然わいせつになっちゃいますよっ。」


 公然わいせつ罪ってのはこの魔法エネルギーとやらがある夢みたいな世界にもきちんと存在しているのね…まあ国を作る上で法律は切っては切れないものだからそれもそうか。ん?彼女の言うこの世界ってのはどういうものだ。俺は元々ここの住人じゃないのは何となくわかるが…

 唐突に頭をハンマーで殴られたような痛みを感じるとともに頭の中から声が聞こえてきた。


『2人で…きゃ楽し…しょ』


 断片的な記憶の欠片から黒髪で制服を着た女の子の姿が一瞬見えた。

「今の女の子…知ってる…ただっ…思い出せない。はぁ…はぁ…楽し、しょってなんなんだ…頭が痛い。」

「まだカミの転生魔法で身体が疲れているのかも知れないですね。もし無理なようでしたらギルドに行くのはまた明日に…」


 傍から見れば俺のいま言ったことや行動は怪しさ満載の奇行だったろう。ただアンナは心配そうに俺を見てそばに近寄ってまた手を握ってくれた。

「い、いや大…丈夫だ。この世界のこと、そして俺の事を今すぐにでも知りたいんだ。休んでいる暇は無い。」


 彼女は記憶のない俺の身を案じてくれているし、今後のことを考えてくれているのはわかる。ただ俺は元の世界に戻りたい。ほんの一瞬見えた名も覚えていない黒髪の少女が待ってくれているとなんの根拠もないがそう感じてしまったのだ。


「分かりました。ただ無理はしないでくださいね。あなたのことは私が管理しますからっ!」

そう言って彼女は左手を握り右手の人差し指を立てながらウインクをした。

 

「あぁ頼んだよ。迷惑をかける。アンナ」

「いえ!迷惑だなんて私は今回の転生者を案内するお仕事を楽しみに待っていたんですよ。張り切りまくりです!って話が長くなりすぎましたね。ギルドに向かいましょう!」


 アンナの事もカミ様とやらのことも俺の記憶の事もわからないことだらけだが、今は踏ん張って足を前に進ませるしか無さそうだ。がんばろ

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