魔術師見習いカティアたん、エッッックササイズをする
来麦さよな
魔術師見習いカティアたん、エッッックササイズをする
「ふーん……。えっちじゃん」
デスクにほおづえをついたまま、魔術師見習いカティアたんはつぶやいた。
魔法世界と科学世界用の二つのドアのある奇妙な部屋で、昼夜逆転ぎみのずぼらな生活をしている彼女。
暇つぶしにパソコンで動画サイトをあさっていたところ、3Dモデルを動かすミュージックビデオふうの投稿動画を見つけたのである。
なにげなくクリック。
すると流れてきたのは――
青一色のシンプルな背景。
意味深にたたずむ3D美少女。
唐突に腕を前に出してリズムをきざむ。
手をグーパー、グーパー。
後ろ手で、ウエストをスイング。
ドントストップ。キープムービングという字幕が流れる。
両手をひかえめに広げた美少女がにっこり。
この笑顔にやられて、カティアたんは「ぐへへへ……」という顔になっている。
その後のシーンもテンポよく進み、ポップなミュージックとともにエクササイズな風景が普通に続いていった。ただ普通でないことも起こっていて――
女の子が、ほんのり、だんだん、じわじわと薄着になっていく。
というか、かなりきわどい。
「んんん……?」
画面の中では、笑顔でダンスする薄着の美少女。
その画面を舐めるように見つめるカティアたん。
そして口をついて出てきた言葉が、冒頭の「えっちじゃん」だった。
その後、関連動画にコレ系統ばっかりサジェストされるので、つられて見まくったカティアたんはちょっとその気になってきた。
その気とは? まさか!? 脱ぐのか? 脱いじゃうのか!?
ついにカティアたんの貴重な脱衣シーンが!?
ということでなくて、カティアたんがその気になったのは、エクササイズの方だ。
「おし。これくらいならできるかな。ちょっとやってみるかー」
ショートパンツにヨレヨレダボダボTシャツ姿のカティアたんが、椅子ごとくるりと反転して、ポイッと床に降り立った。
「あいたたた……」
散らかり放題の床に転がる魔石のかけらが足うらにめりこみ、しばし痛がる。
「うー……。まあいいや。ヘイッ、
サポートAiを呼び出すと、パソコンから応答があった。
『かしこまりました。カティアたん』
「たんはいいよ、たんは。ちょっと片づけるから待っててねー」
『それは残念。たん呼びはかわいいですのに』
残念がるAiを無視して、カティアたんは動けるスペースを確保しようとゴソゴソと
「よし。じゃあ、初めからスタート」
『はい』
リズミカルなイントロ。
「こんな感じかな……?」
映像を横目に、両手を前。
その場で足踏み。クイクイクイッ。
『おーっ! いいですよー! カティアたんお上手! ひゅーひゅー』
「そういうのいいから」
『はい……しゅん』
しばらく動きをマネていたが、連続して切り替わる素早いカットにさすがについていけなくなってきた。
「足こんなに上がらない……しっ!」
多少悪態をつきつつ、「ストップ!」と「再生!」を交互に繰り返し、エッッックササイズを行うカティアたん。
それに、
『ワンツー! ワンツー!』
とよくわからないノリで合いの手をいれる高性能Ai。
「お……っ、ぐ……。ふんぬ怒ぬっ! これ、体勢キッツ……」
片足を伸ばして、ぐーーっと体を折り曲げるモーションだ。
「こ、これ……。ありえないだろー!? っていうか、3Dモデル破綻してるじゃないか!」
画面を確認すると、太ももがおなかにめりこんでいる。
「できてないじゃん。これムリじゃん」
カティアたんが足を戻そうとしたところで――事件は起こった。
ビキッ!!
という音が部屋に響き渡る。
というのは大げさかもしれないが、カティアたん本人は、たしかにその音を聞いた。
「お゛……お゛っ、おぉ!? 太ももの裏ぁ゛〜〜〜っ」
苦悶の表情を浮かべ、床をゴロゴロする美少女。
それでしばらく
「はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えながら、なんとか持ち直した。
「あぶなかった……。もういいや、タブ閉じて」
『え〜? 私はカティアたんのあんな姿や、エッッッなポーズや、そんなトコロまで!? みたいなきわどいアングルを……』
「ヘイ、
『あーれー……』
そしてサポートAiは眠りについた。
「あいたたた……」
まだ痛む太ももの裏側をさすりつつ、椅子に座り直す。
「まあ、いいや。ほっときゃ治るだろうし……」
そんなことをつぶやきながら、カティアたんはネットサーフィンに舞い戻った。
しかし……。カティアたんはまだ知らない。
よく朝、足腰、背中の強烈な筋肉痛とともに目覚める運命が待ちかまえていることを……。
魔術師見習いカティアたん、エッッックササイズをする 来麦さよな @soybreadrye
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