第十三章
「凄いな!」
吹き寄せて来る雨風の強さがである。伊藤直也は部屋の窓を少し開けた。もうすでに台風の暴風圏にはいっていたようである。開けた窓の隙間から雨と風が一気に吹き込んで来た。彼は慌てて、窓を閉めた。
「大丈夫かな?」
直也は振り返った。そこにはもう一人、同じ年代の男・・・少年がいた。彼は笑みを浮かべ、
「大丈夫さ」
といった。
部屋の中に飛び込んだ風はすぐに霧散してしまったが、霧散する前に松田伸五の長い髪を乱した。彼は右手でその乱れた髪を直した。こんな日でなかったら、彼の家までは歩いて十分くらいである。彼の足なら走ると五分もかからないだろう。しかし、今日の雨と風では五分では無理だろう。
直也は、伸五の強情さを良く知っていた。彼は口を歪め、笑みを浮かべたのだが、その口を左手で薄く覆った。彼は小さい頃から伸五と良く遊んだ。余程間があったんだろう、と思う。
(そう・・・)
思いたい。二人はいつも一緒にいた。いや、要らされたといった方がいいかも知れない。離れられない関係だったのである。直也はそれを苦痛に感じたことはない。だが、つい、数か月前、なぜ伸五と離れられない・・・離れてはいけない関係だと知らされた時、彼は猛烈に反駁した。もっとも、表立った行動はしなかったし、それまでどうりの関係を続けた。
(よく考えたい・・・)
と、伊藤直也は思ったのだ。
松田伸五は一旦言葉に足したら、余程のことがない限り、ソリ意志を代えないし引っ込めない。十一歳の夏、直也が止めるのも聞かずに、伸五は一人で奈良県を目指し、高御堂毛をてくてくと歩いて行った。直也を納得させる理由があったわけではない。ただ・・・強いてあげるなら、いつも目にしていた峠の向こうを自分の眼で確かめたかったに過ぎない。
この二人は夢を語り合った。子供の夢である。何かが僕を読んでいる。お前には聞こえないか、と伸五は言った。
「なにが・・・?」
直也には何も聞こえなかった。伸五はその声の彼方にある何かを確かめに行きたかったのかも知れない。結局、伸五はパトカーで家に連れ戻された。
「どうだった?」
と、直也は訊いた。
「あったよ。何かがあったよ。うまく言葉には出来ないけど・・・」
伸五は口元に微かに笑みを浮かべた。
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