2.道すがら
魔術師のジュリアス。彼の弟子?のゴート=クラース。
その二人と並んで歩く浅黒い肌の青年から、まずは紹介しよう。
彼の名前はディリック=ディオード。18歳。
だが、ディリックという名前で呼ぶのは家族くらいものだった。
基本的には略称のディディーと呼ばれている。彼自身もその呼ばれ方を愛称としている。この国では特に珍しくない漁師──船乗りの息子で、兵役の時期(
次に、その誘われた同期こと、ゴート=クラース。
何処となく気弱そうな、繊細な顔立ちの青年。性格は明るいディディーとは違って物静かで真面目に黙々と、それでいて色々と
最後に紹介するのが、彼らを先導するように少し前を歩く者……年齢は不詳だが、おそらくは三人の中で年長者の魔術師、ジュリアスだ。
彼は自身が魔術師である事を周囲に誇示するように、冒険者をやる時は絶対に黒い
その魔法の知識と人生経験はまさしく歴戦の魔術師で、一行の隊長格……で、あるのだが本人はその扱いを露骨に嫌がっている。
曰く、魔術師は補佐をするものだから──らしい。
確かに物語などでの魔術師の役回りはそういうものではあるが……性格的に、ただ面倒くさがってるだけの方便だと、ディディーもゴートも疑っている。
*
──三人は今、
彼らがこれから向かおうとしている場所は、冒険者として何かをした時、する時に通例として利用している、いつもの店だ。
そこは
時間は
この時間帯ならば、多少長居してもそこまで迷惑にはなるまい。
……しかし、十月も今日で十日目だが、日中はまだまだ暖かい。
一方、彼以外の二人はそうでもないのか、似たような恰好なのに汗一つかいては
いなかった。
で、店に到着するまでの道すがら──
「──ところで、ジュリアスさん」
「……うん、なんだ?」
「さっきの話なんですけど。討伐の依頼、なんで断ったんですか?」
「うん? ……ああ、討伐っていうか、駆除依頼か。まぁ、単純に面倒っていうのもあるけど、ひとつは飛び道具なしにどうこう出来る相手じゃない、ってとこかな」
「あー……まぁ、猪とかはね……」
猪という獣は意外に大きい。特に家畜である豚と交雑してしまった個体は特に。
いくら三人がかりとはいえ、丸腰では猪の突進を止められず、逆に跳ね飛ばされてしまうだろう。それくらいは容易に想像出来る。
「それと野犬もな。ありゃ、下手な魔物よりも怪我する確率は高い。蹴飛ばしたりは出来るけどよ。それに野犬とはいえ、犬だ。
「まぁ、それはそうっすねぇ」
言われてみれば確かに、とディディーも同意する。
「……そもそもあの依頼さ、明らかに俺だけを当てにしてる頼み方なんだよ。だからあんな風に茶化して、表向きは
「うん、そうですか?
「まぁ、
「うん、まぁ……んー……」
そういう風に言われると反論は出来ず、ディディーは言葉に詰まって唸るだけだ。
すると、横で会話が終わるのを待っていたゴートがジュリアスに話しかける。
「ジュリアスが誘われたのは、やっぱり魔術師だから?」
「そりゃそうだろう。猟師の真似事──いや、代役を頼んで務まるのは弓士を除けば魔法って飛び道具が使える、魔術師や魔法使いぐらいだからな」
「……だけど、僕らはジュリアスの実力を知ってるけど、ギルドや他の人達はそれを知ってるんだっけ?」
「いや? まだ知らない筈だと思う……面接でこう、指先に火を灯して見せたぐらいか? そりゃ確かに俺は、これ見よがしに魔術師だと主張しているがな……そもそも冒険者の仕事中に魔法を使って見せた事もないよな……? 前回も今回も、言っちゃなんだが、ただのおつかいだったし」
ゴートの指摘を受けて、ジュリアスが受け答える。
「なんていうか、ちょっと引っ掛かってね……」
「まぁな……だが、
「──あっ、そういう線もあるのか!」
「そう言われれば……そっちの方が正しいかもしれない」
ゴートもジュリアスの考えた方に同調した。
「まぁ、俺達は気にせず俺達に出来る仕事を全うしよう。初心者のうちは変わり映えしない仕事が続くが、これも下積みってやつさ。国は一日にしてならず、だ」
ちょうど会話の区切りと大通りから道を曲がる時機が重なった。もう少し歩けば、目指す黒猫亭が見えてくる。
心持ち足早になり、一行は店に向かっていった。
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