第44話 044 【幕間3】冒険者の祝日
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★作者より
今回ギャグ回なのですが文体等が通常と著しく乖離しており
ます。 完全にキャラ崩壊してますので、普段の雰囲気が好
きだ!という方は読み飛ばしても全然大丈夫です。
★読み飛ばす方へ
今回はストーリーの流れには特に関係ありません。
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夏の英雄祭が始まった。
今日から三日間、ライナスの子供達はカッフェを吹き慣らし街を練り周る。
今日は前衛の三人で街に繰り出し祭りの喧噪を楽しんでいた。
「子供の頃を思い出すな」
「ええ」
「俺達も久々に吹くか?」
「意地悪言わないでくれ」
「そう言えばよくイカ釣りをやったな」
俺達は他愛もない昔話をしながら出店で溢れる大通りを歩く。
思えば迷宮挑戦を決めて以来、苦労の連続で祭を楽しむ余裕などなかった。
「…っ!」
丘の前の広場に差し掛かった時、突然ガイが俺達の歩みを手で制す。
その表情はいつになく緊張に満ちていた。
『どうした?』
ギルが声を出さず手振りで尋ねる。
俺達冒険者は声を立てず視覚のみで意思疎通が可能なよう、簡易手話を習得している。
ガイは難しい顔で黙って広場の一点を示す。
「…っ!!」
ガイが示したその先を確認した俺達はとっさに身を隠す。
カルとリナだ。
『こっ、これは…』
『い、言うなザック!』
リナはマイスティアの市場で売っていた、あの玉虫色の髪飾りを付け、いつになく着飾っているよう見える。
『これは、で、"でえと"と呼ばれるものでは…』
『や、やめろ!ザック!』
『いや、しかし、どう見ても…』
『リナは着飾ってるように見えるが、あれは普段着ではなかろうか』
『しかしギル、あれは本当に普段着だろうか?』
『普段着だ!普段着に決まっている!』
『うむ、冒険時はいつも地味なローブ姿だから俺達には普段着でも着飾って見えるのではなかろうか。つまり、リナは着飾ってはいない。結論として、これは世間一般に言う"でえと"ではないのではないか』
ギルが生真面目な顔で生真面目な分析を、高速の手話で繰り出す。
『いや、しかし』
「おじちゃんたち何やってんのー?」
子供達に声をかけられる。
俺達は通りの脇の、屋台の陰で身をかがめ、高速の手振りで会話をしていた。
どこからどう見ても完全にヤバい奴らだ。
屋台の親父も
周りを見渡すと少なからずの群衆が好奇の眼で俺達を眺めていた。
───!?
俺は不意に、通りの群衆の中の、レノスの姿に気付く。
いつから見てた?どこまで見ていた?
「うう~ん、今日はいい祭り日和だな」
俺はそう言って伸びをしながら、無造作に立ち上がった。
群衆は何事もなかったかのよう動き出し、俺達とレノスが正対する。
「…。」
俺はふと気付く。レノスが、一切感情の見られない真顔をしている。彼がこんな顔を見せるのは珍しい、いや、初めて見るかもしれない。
いつも柔和で笑顔を絶やさぬレノスは全くの無表情のまま、無言で首を振り、そして去って行った。
「あれ、怒ってたよな」
「怒ってたかも」
「超怖かった」
カルとリナは広場を出て向かいの大通りに向かうが、俺達は後を追うのはやめておいた。なんかレノスが怖いし。
「…っ!!」
広場に入ろうとした俺達を、再びガイが緊張した面持ちで制す。
『どうした?』
ガイが指し示す。
「ミリア…」
視線の先には
ミリアが居た。
更に先には屈託のない笑顔のカルとリナ。
先日彼女は祭囃子が聞きたくなったと言っていたが、ひょっとするとリナ達が気になってライナスに来たのではないか。
ミリアはカルとリナの動向を、隠れて
彼女だと気付いた子供に騒ぎ立てられそうになっては、わたわたと逃げ隠れ、カル達を追っている。
若くも腕利きのシーフであるカルにあのようなお粗末な尾行を気取られぬわけもないのだが、やがてミリアはカル達を追い広場から消えていった。
よく考えたら、俺達がカルを尾行すれば気付かれてしまうのは当然の話で、あのまま下世話な興味で追っていたらメンバー間の信頼関係に著しいヒビが入っていただろう。俺達はレノスに感謝した。
広場では数々の出し物が開かれている。
「おっナイフ投げか」
マイスティアの広場で見たものと同じような出し物だ。
「はい~誰か挑戦する人は居ませんか~?掛け金は1000ザルカだよ~」
どうやら的に当てて点数を競う挑戦者を募ってるらしい。
「ふっ…冒険者が集う迷宮都市でこれは無いんじゃないか?」
そう言ってナイフの心得があるガイが前に進み出る。
「おっ覆面の兄さん!やるかい!?全部で5本投げて勝敗を競うよ!」
ルガールからの撤退戦の折は早々に体を貫かれろくに戦えなかったガイ。
しかし、幼少より武芸を身に付けていたガイは同期で頭一つ、いや三つは抜けていた。正直今でも俺とギルは本気のガイに勝てる気がしない。
ガイは涼しい顔で的に向かってナイフを4本投げ、全て真ん中近くに的中させる。
「おーやるねー!あと1本!」
ガイが5本目を投げようとした時、通りの先から叫び声が上がった。
「うぉっ、うぉわおおぉー!」
ミリアの声だ。いや、雄たけびと言って良い。
「うぐっ」
一体何があったかわからないが、ガイはその声に気を削がれ、5本目を外してしまった。
「あーお兄さん惜しかったねー!」
対するは若い女の子だ。彼女もまた涼しい顔をして4本を的の真ん中付近に命中させ、そして、5本目も見事に当てた。
「ざんねん、ごめんねー!」
ガイは
ガイは前衛として俺とギルより一枚上手だ。元々ギルに仕える諜報を担う家系に生まれたガイは幼少より武芸を嗜み、訓練所でもトップの成績でその課程を終えた。地上任務の時から手落ちなどはほぼ無く、このライナスの迷宮においても皆がその力量に全幅の信頼を置いていた。
彼女はそのガイに、涼しい顔で勝利を収めたのだ!
「そういうこともあるさ」
ギルがガイを慰め、俺達はその場を去る。
広場では他にも多くの出し物が開かれている。
「はーい誰か挑戦者居ないかーい?」
カッフェの早吹きだ。
段々上がり続けるテンポに、どこまで付いて行けるか競うものだ。
「ふっ…」
案の定ガイが前に進み出る。
「おっ覆面の兄さんやるかい?ライナスっ子だねえ!」
カッフェの早吹きはガイも幼少から得意だ。
「じゃあ行くよ~、はい!」
ガイと、相手の若い男の子が吹き始める。
ガストン捕縛の折は早々に剣を折られろくに戦えなかったガイ。
しかし、幼少より武芸を身に付けていたガイは同期で頭一つ、いや三つは抜けていた。正直今でも俺とギルは本気のガイに勝てる気がしない。
スローテンポな1巡目を終えようとしたその時だった。
「のわああぁ違うのじゃあぁ!」
ミリアの声だ。遠吠えと言って良い。
ぽっぷぴいぃ~!
「ぶほっおふぉおっ!」
鮮やかな装飾を施された貝笛が奇妙な音を立て、ガイが思わず吹き出す。
「はい終了~!」
「あっいやっ今のは…」
「いやいや兄さん、往生際悪いよ~?」
「…」
ガイは前衛として俺とギルより一枚上手だ。元々ギルに仕える諜報を担う家系に生まれたガイは幼少より武芸を嗜み、訓練所でもトップの成績でその課程を終えた。地上任務の時から手落ちなどはほぼ無く、このライナスの迷宮においても皆がその力量に全幅の信頼を置いていた。
この子はそのガイを、20秒足らずで打ち負かしたのだ!
ガイは茫然としながら男の子に1000ザルカを払う。
「そういうこともあるさ」
ギルがガイを慰め、俺達はその場を去る。
陽が落ち始めた。
俺達は誰が言い出すわけでもなく、自然と港の堤防に足が向かう。
「久々にやるか?」
「ははっ、イカ釣りか?」
「道具が無いだろう」
遠い記憶を呼び起こしながら夕暮れの堤防を歩く。
ガイはギルの従者ではあったが、俺達三人は幼馴染と言っていい。
「色々あったな」
「ああ」
色々あった。
あれから何年経っただろうか。
堤防から見る祭りの灯は、あの頃と何も変わらない。
だが俺達の距離は多少変わった。ガイは俺に敬語をやめたし、俺は…ギルと本当の親友になれた気がする。
城が消えた、あの日。
ギルが…
「はいっ!お兄さんたち!!」
「っ!?」
堤防の先の、小さな灯台の陰から唐突に一組の男女が現れた。
緑色の髪の女と恰幅の良い大男だ。
女の緑色の髪からは猫のような耳が生えている。獣人か?しかし頭に獣の耳だけ生やす半端な獣人なんてこの世界には存在しないはずだ。
「なんだ!?お前らは!!」
「いやーそんな警戒しないでいいッスよ~?」
緑髪の女が胡散臭い笑顔で答える。
そもそも緑の髪なんて見たことも聞いたことも無い。なんかの病気だろうか。
「まーなんだ、裏面っつーか、ボーナスステージっつうか」
大男がわけのわからない事をのたまう。なに言ってんだこいつ、頭大丈夫か?
「アレっスよ、ここでやる事と言ったらアレしかないっしょ!」
ガイの眼が光る。
マジで光ったんでちょっとビビった。
「イカ釣り…か?」
「ご名答~!ザ・イカ釣りバトル!やるでしょ~!?掛け金はたったの3万ザルカ!」
女はそう言うと
3万ザルカとはなかなかぶっとんだ額だ。
1万ザルカもあれば道具に加え、
漁屋のタレで喰う炙りイカは最高なのだ。
「いいだろう…受けて立とう!」
ガイが威勢よく叫ぶ。とても正気とは思えない。
「よせっガイ!こいつら何かおかしいぞ!」
「もしやお前ら…プロだな?」
「んっふっふっ、どうでしょうね~?」
女がニヤニヤしながらギルの問いに答える。
「ま~、額が額だしな。別にやんなくとも構いやしねえぜ?」
大男が挑発するような視線を向ける。
「やる、と言ったはずだが?」
「落ち着けガイっ!」
幼少より武芸を身に付けていたガイは同期で頭一つ、いや三つは抜けていた。正直今でも俺とギルは本気のガイに勝てる気がしない。しかし…。
今日のガイはどうも調子が悪い。まず間違いなく、負けるだろう。
「んじゃ~用意はいいッスか?この砂時計が落ちる間、何匹釣ったか競うッスよ。勿論道具は貸すッスよ!」
イラつく口調の緑髪の女はそう言うとガイに網を渡し、砂時計をセットする。
「んじゃー始めー!」
「んぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ガイは凄まじい雄たけびをあげ、凄まじい早さでイカを
しかし網で掬うのになんでイカ釣りって言うんだろ?子供の頃はあまり気にしなかったが、よく考えれば不思議なものだ。物心ついた頃にはイカ釣りで遊んでたので意識したことは無かったな。食べられぬ量を無駄に掬ってた気がする。そういやこの堤防はガキが歩くには危険なのでギルの親父にバレてめちゃくちゃ怒られたっけ。
「はいしゅ~りょ~!!」
気が付くと勝負は終わっていた。
「ざんねーん、悪いッスねー覆面兄さん!」
ガイは両手両膝を突き地に伏している。ですよね。
「やはり…プロのイカ釣り師だったか…」
ギルが苦々しそうに言う。
プロのイカ釣り師なら仕方ないな。
「いやー残念賞としてそのバケツと、これあげるッスよ!」
緑女は懐から取り出した小瓶を突っ伏すガイの頭の上に乗せる。
それは、漁屋印のタレだった。
「わりいな、んじゃ~またな」
そうして、イカが詰まったバケツと小瓶を残し男女は去って行った。
「やはり漁屋のタレで喰うイカは最高だな」
俺達は炙りイカを食べながら街の灯を眺める。
「あまり気にするな、ガイ。今日は運が悪かったんだろう。そういうこともあるさ」
ギルがガイを慰めるがやはり落ち込んでるのか、食が進まず虚ろな目で夜の波間を見つめている。
遺跡迷宮のコボルド掃討時には、後方を警戒して出番が無かったガイ。
そういやここ最近、ガイが活躍してる所を全く、一度として見た事が無い気がする。
しかしきっといつの日か、目を見張るような活躍をしてくれるだろう。
何故なら幼少より武芸を身に付けていたガイは同期で頭一つ、いや三つは抜けており、正直今でも俺とギルは本気のガイに勝てる気がしない程の実力者という設定のはずだから…。
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ガイの表紙→https://kakuyomu.jp/users/nanao77/news/16817330660001031905
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