第34話 034 友の死


 ゼスが"消失ロスト"した。

 もう復活は叶わない。


 3階の、本来はそう手強い相手ではなかったそうだ。

 狭い通路で突然後方から奇襲を受け、メンバーを守るため奮戦の末に命を失った。

 その後遺体は地上に上げられたが、寺院での"復活"に失敗したのだ。


 肉体を再構成する回復魔法は命を失わない限り失った手足の回復さえ可能だ。

 しかし完全に力尽きたり、脳や脊髄といった基幹を失った場合は高位の蘇生呪文でなければ復活出来ない。遺体があれば復活の可能性もより上がるが、最高位の蘇生術ならば遺体もない状態からの、一からの復活さえ可能だという。


 死からの復活に失敗すると、その魂はこの世から永遠に失われる。


 魂というものがどこから来て、どこへ行くのかはわからない。

 ただ、この世に生を受けた者はこの世に魂の"住所アドレス"を持ち、この世に顕在けんざいする肉体と結びつけられている、というのが仮説としてあるらしい。

 もう一つの仮説として、蘇生術に成功・失敗などはなく、蘇生に成功した場合にはその魂の"住所"が未だこの世で有効で、失敗した場合は既に"住所"は無効となってるだけである、という説もある。



 いずれにせよゼスは、完全に死んだのだ。



 俺はゼスの葬儀に参列した。

 ライナス出身の冒険者は街の墓地に埋葬されることもあるが、希望した者は丘の上に墓標を建てる。ライナス以外の出身で、遺体が回収出来た者は生前の希望によりその骨を故郷に送り届けられることもある。

 ゼスは南方の出身で、丘の上の埋葬を希望していた。まだ昼だが、空はくもりがかってくらい。


 ゼスのパーティメンバーに加え、俺やジェストといった、酒場で交友していた冒険者も結構な数参列している。無名の冒険者にしては多く、ゼスの人柄が伺える。


「良い奴だった」


「ああ」


 俺は噛み締めて言うジェストの声に応える。


 思えば迷宮探索を始めて親交のある者の死に立ち会うのは初めてだ。


 神父が祈りの言葉を捧げる。


 ゼスは迷宮中層まで進んでいた冒険者だ。

 達人とまでいかずとも、面倒見が良く、協会から要請される常駐任務もよくこなし、なんだかんだその信任も厚かった。

 俺は影の悪魔と対峙し、なお立ち続けたこの男を尊敬していた。


 ジェストがガラにもない事をつぶやく。


「魂ってのは、どこに行くんだろうなあ」


「そうだな…」


 根拠は無いが同じしがない、名も無き冒険者の俺達も、きっと行きつく所は同じだろう。



「また、いずれ」


 俺は友の眠る墓標にそう告げて、丘を後にした。

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