名探偵鱒留
嶋田ちか
全ては筋肉(マッスル)が解決する
「鱒留さん、どうか犯人を見つけてください!お願いします!」
オーナーが深々とこちらに頭を下げた。
その相手はもちろん僕ではなく、隣にいる鱒留先生だ。
鱒留先生は誰もが認める名探偵、この地域で起こった事件は先生が一晩で解決する。
ちなみに僕は先生の助手。いつか先生のような名探偵になるのが夢だ。
「わかりました、事件の詳細を教えてください」
先生は寡黙な方なので、僕が依頼人とのやり取りを担当している。
僕にできる仕事は数少ないので、こんなことでも任せてもらえるのはほんとに嬉しい。
「なるほど、このマシンの隣で亡くなっていた、と」
一通りオーナーから説明を受けた。
死因は絞殺。
容疑者は数名いるようだが、死亡時被害者のそばには誰もいなかったようだ。
凶器もまだ発見されていない。
先生が虫眼鏡を持ちながらマシンの周りをウロウロする。
「ヤーーーーッ!!!」
きた!早速閃いたらしい。
「先生!もう全て分かってしまったんですか?」
「ヤーーーーッ!!!」
「素晴らしい!さすが先生です!ぜひ推理を私にも教えてください!」
先生が長めの前髪を耳にかける。これは推理が始まる合図だ。
「まず、死因は絞殺ですよね。どこに凶器があるんですか?」
先生はマシンを指さして叫ぶ。
「パワーーーーーーッ!」
「なるほど!そういう事か!」
マシンを動かすのにどこにパワーが必要になるのか、これはフィットネスバイク。つまりペダルの部分が怪しい。
ペダル付近をよく観察すると何やら糸が絡まっているようだった。
「先生、この糸は切られているようです。ですが誰もハサミのようなものを持ってませんでした…。となると犯行は厳しいのでは?」
先生は落ち着いて、そして静かに一言。
「プロティィンンン…」
「そうか!なるほどなるほど!そういう事だったんですね!」
容疑者は皆プロテインを所持している。プロテインといえば濁った液体。飲み口も大きいし、ハサミのようなものを中に入れても気づかれない!
容疑者のプロテインをそれぞれ振ってみる。
カコンカコン
3つのうち1つから何やら音がした。
茶色いプロテイン、チョコかココア味だろうか。
「そうか、ここにハサミが入っているとすれば…」
「マッスル…」
「そう!増田さんが犯人ですね!」
「ヤーーーーッ!!!」
ジムに先生の叫び声が響き渡った。
―――――――――――――――――
その後、増田さんは事情聴取を受け、殺人を自白した。
被害者に話しかけ、ゴミを取るふりをして首に糸をかける。そして、靴紐を結ぶかのようにしゃがみこみペダルに糸をかけた。
あとはマシンを使ってもらうだけ。
糸が巻かれた瞬間、首にかけた輪そのものが小さくなりあっという間に息絶える。
増田さんは様子のおかしい被害者に1番に近寄り、大丈夫かと声をかけながら小型のハサミで糸を切断。プロテインに隠したようだ。
先生は見事、今回の事件も一晩で解いて見せたのだった。
才能溢れる先生に僕もいつか追いつきたい。
そのために、今日も僕はプロテインを飲む。
名探偵鱒留 嶋田ちか @shimaenagon
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