鉄拳制裁でしか覚めない悪夢もある

秋雨千尋

公園筋トレ男子

 公園の鉄棒でうなりをあげながら筋トレをしている男の子がいる。


「何してるの?」


「ウチは診療所をやっているんだけど、いつも一人で来る子が気になっているんだ。ギャクタイだって児童相談所に連絡したんだけど、ダメだった」


 男の子は勢いよくグルンと逆上がりをして、軽やかに着地をした。


「筋肉があれば何でも出来るって聞いたから、悪い大人をぶん殴ってやるんだ。」


「でも……大きくて、怖いよ」


「確かに。ねえ、君も一緒に鍛えない? 一人より二人の方が効果があると思うんだ」


 お日様みたいにポカポカの笑顔に、胸の奥がじんわり熱くなる。



 夕方になり、お母さんの恋人おじさんが迎えに来た。

 今日のお仕置きはきっと長いんだろうな。

 そう思っていたら、男の子が目の前に立ち塞がった。


「おじさん、殴るのをやめてください!」


「なんだお前は」


「この子のトモダチです!」


 男の子が目の前で殴られて、転倒する。

 それを見た瞬間、全身の毛が逆立つような心地がした。雄叫びをあげながら体当たりをする。


「俺に逆らうつもりか!」


 殴られると思った時、黒い塊が猛ダッシュでやってきて、おじさんをタックルした。


「あたしの天使に何してくれてんだ!」


 筋肉の文字を擬人化したみたいな逆三角形のゴリマッチョだけど、低め位置のツインテールが女性だと感じさせる。


 大きくて怖かったおじさんが、タコ殴りにされてボロ雑巾みたいになった。



「よし、気が済んだ。児童への傷害の現行犯で逮捕する!」



 +



「君は将来、お父さんみたいなお医者さんになるの? それともお母さんみたいな警察官?」


「まだ分かんない。とりあえず筋トレする」


 その後も私は、公園の鉄棒で男の子と一緒に筋トレをしている。今日はとてもいい天気だ。


「大きくなったら私と結婚してくれる?」


「うん!」


 勢いでプロポーズしてしまった。こんな事も出来るようになるなんて──


 たしかに筋肉があれば何でも出来るみたい。




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鉄拳制裁でしか覚めない悪夢もある 秋雨千尋 @akisamechihiro

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