スイーツタイム

金谷さとる

スイーツタイム

 クリームたっぷりバターもたっぷりはちみつもたっぷり。

 テーブルに並んだスイーツとお茶に手を伸ばすのはなめらかな指、キュートにごってりとデコられた爪。くるんと回る銀のフォーク。

「ちょっとお行儀悪くてもココなら問題なくて嬉しいわ。ネオンくんも好きに楽しんでね」

「スイーツ食べ放題ぃ!」

「そして、筋肉見放題よー」

 そこは時間限定本の世界。ガラスむこうでは燦々と輝く太陽。白く焼けた砂浜、スポーツカーを立たせているマッチョ。肌色面積の多い女性たちを侍らせる肌色面積の多いマッチョメン。

「ああ、眼福だわぁ。みんないい笑顔なのがまたいいわよねぇ! マッチョ消防士カレンダーさいこーだわぁ」

 自慢の肉体を惜しげも無く晒しわんこや羊と戯れサメと立ち向かうショーすらある。

「もう一冊保存用に買わなくっちゃね」

 クリームたっぷりのミニケーキにフォークを突き立てる。

「うーん。筋肉のラインわかりやすいけど、いつも見てるにはちょっと好みから外れるかなぁ」

「ネオンくんは美人系がお好みよね。ほら、あの彼氏細いし」

「タイくんは見せ筋肉はないですねぇ」

 パフェのホイップクリームにスプーンを挿し込む少女に私が笑いかける。くるりとクリームを舐めとったフォークが翻る。

「腕相撲でネオンくんが勝っちゃう?」

「えー。腕相撲なんてしないからなぁ」

「お姫様抱っこ夢じゃない?」

 囁けば少女がうっとりと微笑む。

「おんぶはしてくれてたなぁ。今度後ろから襲ってみよっ!」

 グッと無邪気に拳をつくる。

「やめてさしあげなさい」

 一線を踏み越えるのに準備ができていないでしょう? 貴女も彼も。

 オレンジショコラとブランデー。

「なにか問題でもあるのかい?」と微笑む暑苦しいマッチョメン。

 どこまでもキラキラ強い善性だけを前面に出された偽世界。

「筋肉って美しいわぁ」

「内臓も綺麗なんだろうなぁ」

「スプラッタ発言は今はダメよ。ネオンくん」

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