いつか結ばれる私の希望

宮乃なの

1話 日常

太陽の光が一つもない灰色の空の下、ベンチに二人の少女が座っていた。一人の少女は隣にいる少女の肩にもたれかかり、すやすやと寝息をたてて寝ている。眠っている少女の寝顔はとても幸せそうに見える。


 「いつまでもこんな風に過ごせたらいいな」


 私の口から淡い期待と目から涙が零れ落ちる。いつかこの関係が壊れてしまう日が来てしまう。今のこの何気ない友達としての関係が。


 「・・・その日が来るまで一緒にいてね・・・」


 シーンとした空気の中、風が吹き木から落ち葉が落ちてくる。灰色の空が連日続くこの秋。


 「なぎちゃん起きて、帰るよ」


 「・・・んっ・・・わかった」


 なぎちゃんはあくびをしながらベンチから立ち上がり歩き出す。先ほどまであった肩の温もりが急になくなったので恋しくなるがそんな煩悩は追い払い、私もベンチから立ち上がりなぎちゃんの後を追いかけた。


 「ねぇ、寒くない・・・手繋いでもいい?」


 「えっ!?・・・あぁ、もちのろんだよ!」


 私はなぎちゃんにそう言われ驚きながらも私は内心喜びながら承諾し、なぎちゃんの手をとる。


 ひんやりと冷えているが微かに体温を感じる。とても心地が良くて溶け合ってしまうほどに熱い。なぎちゃんの方に視線を向けると少しながら頬が赤く染まっている。まさか熱でも引いたのではないか。そんな考えが頭を過る。


 「なぎちゃん顔赤いよ・・・どこか体調悪い?」


 「えっ・・・!い、いや大丈夫です。どこも悪くないですよ・・・?」


 「ホントに?なんか喋り方までおかしくなってるし」


 なぎちゃんに疑いの視線を向ける。どことなく目の焦点があってないように見える。

 私はそんな様子のなぎちゃんに顔に近づき、おでこを重ねる。


 「うーん・・・熱はなさそうだね」


 「・・・っ!」


 熱はなさそうなのにどこか様子がおかしいのはどうしてなのだろうか。もしかして恥ずかしがってるのだろうか。なぎちゃんに限ってそんなことはないと思うけど。今までも今日と同じく手とか繋いだり、ハグだって。どうしてなのかな。


 だけど深く探ろうとするのはよくない。もしかしたら私には知られたくないことかもしれないだろうし。


 熱でも羞恥心でもないのだとしたら・・・?いや、考えるのはやめよう。いくら考えたって仕方のないことは仕方のないことなのだから。


 「なぎちゃんこのあと何する?私の家来る?」


 「・・・行くけどその前に買いたいものあるから付き合って」


 なぎちゃんは下を向きながらそう呟く。いつもの如く下を向いていて表情がわからないが声の感じからしてきっと嬉しいのだろう。そういうところがとても可愛い。


 なぎちゃんはそう言うと私の手首を引っ張って歩き出した。



 灰色の空の下、私たちは人混みの中でローファーの音を鳴らしながら街を歩いている。道路では数多な自動車と軍用車両が走っている。道には二学期の終わりということもあり、この時間帯でも学生たちがたくさんいる。しかし、どの学生も友達と一緒にいるのにスマホを弄っている。


 「現代の風刺画にでもできそう」


 「何言ってるの?早く行こ」


 私は視界に映っている光景に畏怖を感じながらも、なぎちゃんに引っ張られ街中を進んで行く。相変わらず言葉が痛いが手首を優しく握ってくれる限り嫌われてはいないのだと安心できる。


 そのおかげか彼女の体温が心地よく感じる。嫌われていたら心地よさより、嫌われているということがフラッシュバックして正気を保つことができなくなっていたかもしれない。


 そんな事を考えてるうちにショッピングモールにたどり着いた。たどり着いたやいなや、なぎちゃんはあるところへと向かい出す。


 「ゆーちゃん、今日は新刊の発売日でしょ・・・?」


 「あっ!そうだった・・・!すっかり忘れてたよ」


 なぎちゃんが行きたかった場所は本屋だった。私は今日が漫画の新刊発売日だということを完全に忘れていた。


 私は新刊が置いてあるところに向かい、お目当ての新刊がないか見てみる。他の私の興味があるそうな本がたくさんある中、お目当ての漫画の新刊があった。そのため、私はそれを手に取りなぎちゃんのところに向かう。なぎちゃんはライトノベルが置いてあるコーナーで吟味していた。


 「なぎちゃんは何かいい本あった?」


 「今迷ってる・・・」


 なぎちゃんの手には二つの本があった。きっとなぎちゃんはどっちを買うかで迷っているのだろう。その気持は痛いほどよくわかる。本を買いに本屋に訪れるたびに迷いに迷ってしまうからだ。でも、結局どっちも買って金欠になるのが毎回の私の流れだ。荷物が重くなっても財布は軽くなっていくのに悲しさを感じざるを得ない。


 永遠にどっちを買うかで悩んでいるので私は意見を言う。


 「どっちも買ったら?」


 「そんなにお金持ってない・・・」


 「じゃあ、二冊とも私が奢ってあげる!」


 私がそう言うと、なぎちゃんは無表情だが目をきらびやかせながらこっちを見つめてくる。そんなに嬉しかったのだろう。


 私はなぎちゃんが手に取っている本を受け取り、レジへと向かう。新刊も買うので私の財布は大打撃を受ける。僅かなお釣りとレシート財布に入れ、本を持って入口のところで待っているなぎちゃんのところに向かう。


 「お金払う・・・」


 「今回は私の奢りです!だから払わなくていいよ」

 

 「で、でも・・・」


 申し訳無さそうに財布からお金を取り出そうとするなぎちゃんの手を止める。日頃の感謝もこめているので払われると困る。


 だが、なぎちゃんは引き下がろうとしない。


 「じゃあ、今度何か奢って!それでいいでしょ?」


 「う、うん・・・!」


 なぎちゃんは嬉しそうに頭を縦に振っている。そんなに罪悪感を感じていたのだろうか。それとも借り作りたくないだけなのかよくわからない。でも、これでいいんだったら私としては問題はない。なぎちゃんが満足してるんだったら私としても嬉しい。


 私はバッグに買った本をしまい、なぎちゃんと共に私の家に向かった。




 それから大体数十分が過ぎ自宅の前まで着いた。私はそのままドアの鍵を開けて家の中に入る。


 靴を脱ぎそのまま自分の部屋へと歩く。相も変わらず家の中には私となぎちゃん以外の人は一切いない。私の親は基本家には帰ってこないためこんな風になぎちゃんを家に呼ぶことができる。親がいないからといって寂しいといった気持ちは湧いてこない。


 だって私にはなぎちゃんがいるのだから。


 「なぎちゃん!座ってて、飲み物持って来る」


 「うん・・・」


 私は自分の部屋から出て飲み物を取りに向かった。








 部屋の中には私一人だけがいる状態だった。とても静かで時計の針の進む音だけが響いている。あまり心地の良いものとは言えない。それどころか胸騒ぎがして嫌な気分になる。

 隣に誰かがいないのはこんなにも寂しくて辛いものなのだろうか。そんな思いが頭の中で過る。前までだったら絶対に思いもしなかった感情により一層不安感が増す。


 「ゆーちゃん・・・寂しいよ」


 私はこの誰もいない部屋でそうボソッと呟く。これは友達とかそういった好意ではない別のなにか。私には何が何なのか一切わからない。ただただずっと一緒にいたい。これは紛れもない事実であり、そして私の独りよがりである。


 ゆーちゃんはいつも私のことを年下のように扱ってくる。頭を撫でたり、ハグしたりなど、他にも思い当たることはあるが間違いなく年下として私を扱っている。最初の頃は何とも思わなかったが段々と日が経つうちに妹として扱われているのではと思うようになった。



 いつもと変わらない休み時間での出来事だった。私はゆーちゃんに私自身のことをどう思っているのかを聞こうとしたところ、ゆーちゃんは私以外の人と話していた。


 別に大した問題はないが少し、そう少しだけモヤッとしてしまった。私以外と話している姿を今まで一度も見たことがない、というよりそんな時間はなかった。普段常日頃から私と共に行動していたのだから。


 モヤッとしてしまうが、何より私以外と何を話しているのかが気になって仕方がない。そのため、私は自分の席に座って聞く耳をたてる。


 「と・・・さんってどういう関係?幼馴染・・・それとも姉妹?」


 「私となぎちゃんは友達だから・・・!」


 「でも、話してる光景が姉と妹みたいだったから・・・そう思わない?」


 「わかるわかる!」


 やっぱり私って妹だと思われてたんだ。さほど驚きはないが他の人たちからも妹みたいって思われていたことには驚きを隠せない。だけど、私は相変わらず表情が変わるというわけではなく、真顔というか無表情だった。誰がどんな話をしていたって私は常にこうだった。そのせいで友達ができなくてクラスの人たちから距離を置かれていた。



 だけど、ゆーちゃんは違った。


 高校生になる入学式。入学式が終わって教室の中で早速交友関係を作っているクラスの人たち。私はボーっと窓から外の景色を眺める。生憎今日は太陽の光が見えない灰色の空だった。


 そんな時、突如として隣から声が聞こえてくる。私は関心を示さず、外の景色を眺め続ける。私に話しかける人がいないってわかっているからだ。


 そんなことを思いながらも一応隣に視線を向ける。だが、そんな私の考えは次の瞬間、打ち壊される。


 「えっと・・・連絡先交換しよ・・・?」


 「ぇ・・・?」


 隣の席には私に向かって話しかけている彼女の姿があった。私は驚いて思わず呆気に取られてしまう。そんな私の様子を見た彼女は微かに笑っている。


 「わ、わたし・・・?どうして・・・」


 「どうして・・・?仲良くなりたいからかな?」


 私は二の腕を摘んで現実かどうか確認する。嬉しいことにこれは夢ではない。しかし、悲しいことに私はスマホを持っていない。


 「え、えっと・・・わ、わたし・・・スマホ持ってないです」


 「そっか・・・でも仲良くなるのにスマホなんていらないよね・・・うん!」


 彼女はそう言うと席を立ち上がり、私の方に手を差し伸ばしてくる。信じてもいいのだろうか。いや、信じなきゃ駄目だ。じゃないと前には進めない。


 私は彼女の手を取り、立ち上がる。彼女の手からは体温を感じる。初めての人の体温に私は心があたたかくなる感覚を感じる。今までの冷たい視線に冷たい空気とは違う、温かくて心地の良い彼女のあたたかさ。


 この瞬間、私の世界に色が見えた気がした。


 


 


 あの後、私たちは一緒に下校した。私の人生史上最初誰かと共に帰ったりするのは初めてだったので終始ワクワク感で心がいっぱいだった。変える方向も乗る電車も同じだったので今までにないほど幸福感を覚えた。


 そんなこともあり、学校から帰宅した私は自分の部屋で今日を振り返りながら日記をつける。今日は人生で初めて友達が出来た記念すべき日。忘れないように日記に強調しながら、明日からしたいことを膨らませる。


 「一緒に絵とか描きたいな・・・寄り道だってしたり、買い物だって・・・」


 だけど私は少し不安を感じざるを得ない。人生で初めて出来た友達、一体友達は何をするのだろうか。今までずっと一人だったため友達同士で何をするのかがわからない。


 「でも、一緒にしたいこととかしてくれそう・・・勇気を出すとき」

 

 こういうときこそ勇気を出さなきゃ駄目だと思う。私は日記を閉じて、寝床についた。


     



 


 そんなこともあり、私はゆーちゃんと永遠に一緒にいたいという理想を描くようになってしまった。しかし、どんなに理想を抱いていたって理想は理想。現実とは乖離していて似ても似つかない。だからこそ、現実を見ないといけない。この感情、思いは私の独りよがりで一方的なものに過ぎないということに。


 「ゆーちゃん・・・」


 「呼んだ?」


 「・・・ヒっ!?」


 私はそうボソッと呟くと突如として背後からゆーちゃんが出てくる。私は油断していたため驚きそのまま抱きついてしまう。ゆーちゃんも驚いてはいたが抱き返してくる。


 ゆーちゃんの暖かさと心音で落ち着くのと同時に眠くなってくる。心音が少し落ち着きがないように聴こえるがきっと気のせいだろう。少しでも一緒にいれなきゃ不安を感じてしまう私とは違う。だけど私はゆーちゃんとは違う。


 私はゆーちゃんの体温を感じながら眠りに落ちた。





 なぎちゃんは私に抱きついて寝ている。まさかこのまま寝るとは思いもしなかったので戸惑ってしまう。つい反射的に抱き返してしまったが、ここからどうしたらいいのかがわからない。


 私は抱きついているなぎちゃんをそのまま抱き上げてベッドに運び寝かせる。なぎちゃんはすやすやと寝息をたてながらぐっすりと寝ている。


 「かわいいな…!無限に見てられるよ」


 なぎちゃんの寝顔はどんな人よりも可愛らしい。小顔で童顔な彼女の顔、サラサラとしたセミロングぐらいの長さの黒色の髪の毛。そんな彼女は到底高校生には見えなく、年下の妹のように見える。


 私は寝ているなぎちゃんの頬をつつきながら時間が過ぎるのを待った。




 私はいつの間にか眠っていたようで気づけば既に外は暗くなっていた。私は立ち上がり家に帰るため自分の荷物を持つ。何故か部屋にはゆーちゃんがいないが気にもせず部屋から出ようとドアノブをひねる。すると、目の前には彼女の姿があった。


 「・・・ゆーちゃんもう帰るね」


 「・・・・・・な、なぎちゃん・・・!今日泊まっていかない?」


 彼女はそう言うと私の手を握ってくる。今まで家に行くことがあっても泊まるなんてことはなかったから私は驚く。正直言って泊まりたいという気持ちはあるが果たして大丈夫なのだろうか。確かに、一緒に長くいれるのは本心が望んでいるが迷惑なんじゃないかと思っている私がいる。


 私は彼女をちらりと見る。上目遣いで可愛くこちらを見てくる彼女の姿。


 「だ、だめ・・・かな?」


 「・・・泊まる」


 彼女のそんな表情の前に私の考えなんてものは白紙の如く真っ白になる。反則級に可愛くて愛おしい。


 私は少し黙った後、顔を縦にふり頷く。その時、彼女のその反則的な表情を前に直視できず下を向いた。



 私は水道の蛇口をひねり、コップに水を注ぐ。私はコップを口元に運びそのまま水を口に流し込む。


 なぎちゃんが寝てから数時間、気づけば既に外は暗くなっていた。なぎちゃんが起きたとしても、この外の暗さじゃ一人で家に帰すのは危ない。いっそのこと私の家に泊まってもらうべきなのだろうか。


 私は考えながら自分の部屋に向かって歩く。生憎明日は休日だから学校の心配はない。問題はなぎちゃん。

 

 そもそもの話、なぎちゃんが断る可能性がある、というか絶対に断る。なぎちゃんは今までに何回も断ってきた。毎回断る時、慌てふためいて視線を合わせてくれない。


 「もしかして・・・緊張してる?」


 もしかしたらなぎちゃんは緊張しているのではないか、そういう考えが自然と出てくる。そしたら、慌てふためいたり目を合わせてくれないことが緊張によるものだとわかる。だけど、これは妄想で空想にしかすぎない私の推理でしかないのだ。こんなことを考えたって虚しいものは虚しいだけなのだ。


 私は自分の部屋の前に着く。ドアノブに手を伸ばそうとしたところ目の前のドアが開き、バッグを持ったなぎちゃんが立っていた。明らかに帰る気しかない彼女。


 「・・・ゆーちゃんも帰るね」


 彼女はどこか寂しそうな表情を浮かべている。いつもそういう表情をする時は隠そうとしているのに今日に限って隠そうとしていない。きっと無意識に感情が雰囲気に出ているのだろう。


 「・・・・・・なぎちゃん・・・!今日泊まっていかない?」


 私は試しに誘ってみる。なぎちゃんは少し悩んでいる様子だった。いつもだったら即答で断るのに今日は即答じゃない。もしかしたらいけるのではないか。というか、もう今日しかチャンスはない。


 「だ、だめ・・・かな?」


 私は上目遣いで涙を流しながらお願いする。少しわざとっぽい気もするがこうでもしない限りなぎちゃんは泊まってくれない。


 「・・・泊まる」


 彼女は下を向き、照れくさそうにしながらそう言う。彼女のそんな様子を前に私は思わず抱きついて頭をなでてしまう。


 「なぎちゃんは妹みたいでかわいいね・・・!」


 「・・・暑苦しい」


 「でもなぎちゃんこれされるの好きだよね?」


 なぎちゃんは相変わらず冷たい言葉を言う。口ではこう言っているが抱きしめながら頭を撫でられるのが好きだっていうのはわかっている。現に幸せそうなオーラが彼女から溢れ出ていた。


 このまま部屋の外にいたりしても意味がないので私は部屋のドアを閉め、リビングに連れていった。



 私はリビングに連れて行かれ椅子に座らされる。ゆーちゃんはエプロンをつけながら台所の前に立つ。


 「なぎちゃん何食べたい?」


 「オムライス・・・!」


 私はどうしてもオムライスを食べたい気持ちを抑えられなかった。仕方のないことで誰かが作ったオムライスを食べるのが私の夢だった。オムライス関係なしにもう数年も誰かが作った料理を食べていない。きっとその要素も十二分にあったからだと思う。


 元気にオムライスと言う私を見たゆーちゃんは微かに微笑んでいる。私は少しばかり羞恥心を感じ始める。ますます私自信の妹らしさが増している気がするのは気のせいだろうか。


 そんなことを思っているうちにゆーちゃんはオムライスを作り始める。彼女はフライパンの上に油をしき、米を投入してケチャップを加える。


 「そうだ・・・あんまり冷蔵庫に食材入ってなく具なしだけどいい?」


 「大丈夫・・・食べれるんだったら」

 

 ケチャップライスをお皿に盛り付け卵を割り始める。テーブルから見えたゆーちゃんは手慣れているように卵を片手で次々と割っていっていた。片手で割ろうと挑戦してみたことはあったが、難しくて普通に割ったほうが私的には早かったので早々と諦めた。


 「オムライスの卵は半熟?それともじっくり焼く?」


 「じっくり焼く・・・」


 「わかったー」


 ゆーちゃんはそう言いながらフライパンにバターをしき、溶き卵をいれる。バターのいい香りと甘い匂いが漂う。思わず食欲がそそわれてお腹がグーッとなく。今日は昼を食べていないのできっとそれもあるだろう。


 そうこうしているうちにオムライスが出来上がる。私はゆーちゃんの方に行き、出来上がったオムライスとスプーンをテーブルに運んでいく。


 「じゃあ、食べよっか?いただきます」


 「いただきます・・・」


 私はスプーンを手に取りオムライスを口の中に運び咀嚼する。甘い卵とケチャップライスが口の中で合わさり、よく知るオムライスの味になる。だけど、このオムライスは今まで自分で作ったオムライスとは違う味がする。でも、永遠に食べていられるくらい美味しい。


 私はそれが何かわからず次々とオムライスを口の中に運んでいく。


 「そ、そんなに美味しい?私の作ったオムライス」


 「ん・・・おいしい・・・毎日食べたいくらい」


 「そ、そう・・・?照れちゃうな〜!」


 ゆーちゃんは嬉しそうに照れている。彼女のそんな表情を見てこの味が何なのかがわかった気がした。




 晩食を食べ終わった私たちはその後、各々風呂を済ませ私の部屋でくつろいでいる。なぎちゃんは部屋の本棚から漫画を取って私を背もたれにしながら読んでいる。


 「その漫画おもしろい?」


 「うん・・・よく見つけてくるね」


 「ふふん!私の先見の明を侮らないでほしいね!」


 「そっ・・・」


 私はドヤ顔をしながら堂々と言うが、なぎちゃんに軽くあしらわれる。ドヤ顔して言った私が馬鹿みたいで少し恥ずかしくなってしまい顔を反射的に手で隠してしまう。


 そんな私の様子を気にもせず、なぎちゃんは黙々と漫画を読み進めている。私は羞恥心に苦しめられながらも後ろから彼女が読んでいる漫画を読もうと覗き込もうとする。悲しいことに覗き込もうとした瞬間に漫画が閉じられる。


 「なんで閉じるの!」


 「・・・漫画読んでたら絵描きたくなっちゃった。だから紙用意して」


 「む〜・・・わかったよ。ちょっと待って」


 なぎちゃんは四つん這いの状態で部屋の真ん中の机に向かっている。本当に妹みたいで可愛いらしい。そんなことを思いつつも、私はベッド下に置いている箱から紙とシャーペンを取り出して持って行く。


 「どうぞ?なぎちゃん」


 「ん・・・ありがと」


 「なぎちゃんがデレた・・・!」


 なぎちゃんが珍しくお礼を言ったのでしみじみと感動していたが、彼女からは一切反応がない。


 受け取ったシャーペンで絵を描き始める。私は隣に座りながら彼女と彼女の絵を見る。いつもの真顔な表情には変わりないが雰囲気が違う。どこか真剣でいつもの緩い雰囲気とは違う雰囲気。学校の教室で一緒に絵を描いているときとは違う彼女の雰囲気に私は圧倒される。


 そんな彼女が描いているのは気だるそうにピースしている制服姿の女の子だった。その女の子はどこか描いている本人、なぎちゃんに似ている。髪型などは違うが雰囲気が似ていて少しなぎちゃんを感じる。どうやったらそんなに上手く絵を描くことができるんだろう。


 「私も絵上手くなりたいな」


 「じゃあ、今度一緒に描こ?」


 「も、もちろんだよ!私の家で!」


 「・・・うん、その時はまた泊めて」


 冗談半分のつもりで言ってみたが拒否されるどころかまた泊まってくれることが決まり、私は内心喜ぶ。きっとこの喜びは隠せていないと思う。またこうして一緒にいれる時間が増えるのだから。


 そんなこんなでなぎちゃんは絵を描き終え、私に見せてくる。


 「ど、どう?」


 「かわいい!!この気だるそうにしながらも内心喜びながらピースしてるところとか・・・ホントにかわいい!」


 「あ、ありがと・・・」


 なぎちゃんは真顔のままで無表情だが内心、この絵の女の子と同様に喜んでいるのだろう。そういうオーラが彼女から滲み出ている。


 なぎちゃんは机の上の紙と向かい合い、再び絵を描き始めた。



 あれから気がつけば既に一日が過ぎようとしていた。流石に私は眠くなり持っていたシャーペンを机の上に置く。隣にいるゆーちゃんの表情を見てみると私と同じく彼女も眠そうな表情になっていた。


 「そろそろ寝よ?」


 「う、うん!電気消してくる」


 彼女はそう言い、部屋の電気を消す。私は先にベッドに入りゆーちゃんを待つ。しかし、彼女は一向にベッドに入ってくる気配がない。


 「入らないの?」


 「一緒に寝ていいの?」


 「・・・?うん」


 彼女はどこか申し訳無さそうな表情だったが何故そんな表情をするのかがあまりよくわからなかった。


 ゆーちゃんがベッドに入りベッドが少し狭くなる。そのため私は少し距離を詰める。お互いの距離が近くなり、彼女の表情がよく見える。彼女の表情はどこか緊張していて到底今から寝るような様子じゃなかった。


 「どうしたの・・・緊張なんかして。もしかして寝れない?」


 「ち、ちがうよ!?ただ誰かと一緒に寝たことがなかったから慣れなくて」


 そうなんだ。少しお姉ちゃんみたいに見えてたけど、今のゆーちゃんは妹みたいでかわいい。多分、ゆーちゃんが私のことどう思ってるのかがわかった気がする。


 私は心があたたまった感じがして、心の内から幸福感が溢れ出すかのようなものを覚える。


 私は彼女の頭を撫でながら言葉を紡ぐ。


 「いつもありがと・・・ゆーちゃんがあの時話しかけてくれなかったらきっと今の私はいない。だから感謝してる・・・いつもは素っ気ないことばっか言っちゃってるけど、ただ私が口下手なだけだから。」


 「なぎちゃん・・・」


 「おやすみ・・・ゆーちゃん」


 ゆーちゃんは嬉しそうな表情を浮かべながらすやすやと寝息をたてて眠りに落ちている。


 「これからも一緒にいて・・・ゆーちゃん」


 私は寝ている彼女に向けて最大限の笑顔を向けるのだった。



 


 


 


 

 

 




 

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