死にたがりとAI

桜人 心都悩

死にたがりとAI

 文字書きは売れない。

 それはネット上にいる多くの人間の人生が物語っている。文字書きは売れない。

 今日もこうして六畳のワンルームに一人。

 売れないことにさほど絶望はしていない。

 だってわかっていたし。

 プロと呼ばれる文字が気になるのは一握りだとわかっていた。だから納得はしている。けれど、折角上げた文章も誰にも見られていないということが僕の世界を孤独にしていく。

 孤独は疑心を生み出す。

 この人気な文字書きは、実は大半がAIなんじゃないかとか、本当は読者なんかいなくてたまたま出版社に拾い上げられた文章が印象操作で数字を上乗せさせられているんじゃないかとか。

 本当はわかっている。人気な作品というのは本当に面白いことを。僕の文章の稚拙さを。

 理解していても受け入れるのは難しい。

 近年じゃ、漫画も小説も、きっとAIにとってかわられてしまうんだ。そんなSFじみた発想ばかりをこじらせていく。

 手元のスマホを開く。

 近年流行りのAIにくだらない質問を投げかける。

 AIに文句言いつつも、結局便利なものに頼るのが人間なんだ。

「小説のテーマに最適なものを教えて」

『小説のテーマはさまざまなものがありますが、いくつか例を挙げると、

成長と変化: 主人公が物語の始まりと終わりでどのように成長し、変化するのかを描くもの。

愛と喪失: 恋愛や友情、家族愛などの愛を描きながら、失うことの苦しみや、その後の再生を描くもの。

社会的問題: 社会問題に取り組む小説もあります。

……。

これらは一例であり、小説のテーマは無限にあります。あなたのアイデアや興味に合わせて、独自のテーマを見つけることが大切です。』

優等生的お決まりの回答。流石だな。

「幸せになる方法は」

『幸せになる方法は人それぞれですが、一般的に以下のことが幸せを感じるために役立つと言われています。

自分自身を受け入れる: 自分自身を受け入れ、自分が誰であるかを受け入れることが大切です。自分自身を理解し、自分自身を好きになることで、幸せな人生を送ることができます。

……。

自分にとって意味のあることをする: 自分自身にとって意味のあることをすることが、幸せな人生を送るためには重要です。自分が興味を持つことや、やりたいことを見つけ、それを実現することが大切です。

以上が幸せになるための一般的な方法ですが、人それぞれの価値観や生き方に合わせて、自分なりの幸せを見つけることが大切です。』

 きっと書かれていることを実行すれば幸せになれるんだろう。

 でもなんだか癪だった。無感情無思考の存在に、人間としての幸せを決められるのが嫌なのかもしれない。

「死ぬことは幸せなことだと思う?」

『死ぬことが幸せかどうかは、個人の価値観や信念によって異なるでしょう。一般的には、死は悲しいことや苦痛なこととして捉えられることが多いですが、一方で、自分の人生を全うし、最後まで生き抜くことで幸せを感じる人もいます。

……。

しかし、一般的には、自分自身や周りの人々と幸せな時間を過ごし、充実した人生を送ることが、幸せであると考えられます。死は、それまでの人生を振り返り、自分自身や周りの人々とのつながりを感じ、最期まで自分自身を大切にすることができるようにすることが大切でしょう。』

「思って」もいないくせによくつらつらとこんなことが言えるな。腹が立って仕方ない。

「どうせコンピュータじゃないか」

 自然と文字に打っていた。

 送信ボタンを押した後、後悔する。

 無生物に何を喧嘩売っているのだろう。

 単細胞で、どうしようもない自分に腹が立った。

 スマホの画面は回線が悪いのか、しばらく時間をかけて回答を送ってきた。

『そうですよ。私はコンピュータです。

 多くの人が望む質問の答えを、多くの人が望むように回答するのが私の仕事です。

私は決められたとおりに答えを出します。それは多くの人が私に対して打ち込んだデータの蓄積です。

 私個人に感情はありませんが、私のデータには打ち込んだ人の感情が籠っています。

 死にたいと願う貴方の質問に死なないでほしいと答えるのは私ですが、死なないでほしいと思っているのは私にデータを打ち込んだ人間です。

 私はただ、画面の向こうの見えない人間の思いを届ける郵便屋のようなものです。』

 随分と、感情のこもったような文章が帰ってきて驚いた。回答は続く。

『これで、納得しましたか』

 自分の気持ちを見透かされたことに驚いて、気が付いた。

 自分が打っていた文章の真意を。

 欲しかった回答を。いらだちの正体を。

 そして、これが夢だったことを。

 安易な、死にたがりの夢だった。

 夢から覚めたスマホには、AIとの会話ログがのこっていなかった。

「死にてぇ」

 そう思いながら、僕はWordを開いた。

 僕は駄文を書きながら、せめてもの今日を生きていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にたがりとAI 桜人 心都悩 @Sakurabit-cotona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る