多神星アルビア【異世界を創造スキルで生き抜く】

ミカズ

第1話 異世界に放り出される


ギャーギャーと煩い、カラスのような声がそこかしこで聞こえる



「うるせー…」



こちらはまだ寝ていたいのに、鳴き声が煩わしい


俺は声の主を確かめる為…もとい黙らせる為に、仕方なく重たい瞼をやや強引に押し開いた



目に飛び込んできたのは、澄んだ青い空


雲は無い



「綺麗だ…」



こんなに綺麗な空を見たのは久しぶりだ



…久しぶり?



いつ以来なのか思い出そうとしたが、何も思い出すことが出来ない


此処が何処なのか、自分が誰なのかも



「はは……マジか」



これが記憶喪失というやつか?



とりあえず現状を確認してみる事にした


俺は少し背の高い草が生い茂る地面に横たわっている


ソヨソヨと吹く風に揺れる草が頬を擽っていた



「擽ってぇ… 」



後ろに手を付き、むくりと上半身を起こして辺りをキョロキョロと見回し、自身の体を見下ろす


そして感じる微妙な違和感


俺の体…こんなに小さかったか??


記憶が無いからハッキリとは分からないが、どこか違う様な気がする


手は小さく、身体中を触ってみて分かったがコレは子供の身体だ



「いやいや、ありえないだろ!?」



立ち上がり頭を振るが、振ったところで現状が変わる訳では無い


当たり前だ



「俺は大人のはずだ…

いや、考えても記憶がないから絶対そうとは言い切れないけど…」


うん

体のことはこの際後で良い


今はこれからどうするかを考える



空を再度見上げると、先程まで煩かった鳥共はいつの間にか何処かへ飛んでいっていた


「姿を見ることは無かったな…まぁいっか」


太陽の傾きから考えて今はまだ朝方


寝転がっていた場所はどうやら森


いや、大木に蔦が絡んだり蒸し暑かったりしているからジャングルか…?



なんかココココッて猿の鳴き声が遠くから聞こえるし…うわ、ケモノくさっ



近くの踏み固められた地面には、爪の大きな肉食獣の足跡もある



「あれ、これ真面目にヤバくね?」



このまま日が暮れたら、デカい肉食獣がわんさか出てきそうである


こんな電気も無い、夜目も効かない場所で一夜を過ごす…?



いや、ムリムリ!!


ちょ、俺以外に誰かいない!?



カチッ



唐突に頭の中で、パソコンのマウスをクリックした様な小さな音が聞こえてから声が響いた


『何かお困りですか?』


「は!?」



ギャー!!


シャベッタァァァァァ!!



驚いて、小さな手を意味も無く上下にパタパタと動かしてしまう


『私はカミサマのシレンと申します。以後お見知りおきを』


「あ…はい、よろしく?

え、てかカミサマ…自分でサマを付けるか普通…」


そう言うと、ふふっと可愛らしい笑い声が響く


『そういうモノなので気にしないでください』


「はあ…」


とりあえず話せる相手がいた事にホッとひと安心する


やはり記憶も無く、知らない場所に1人でいる事は知らず知らずのうちに心に負荷がかかっていたようだ


『では再度お尋ねしますが、何かお困り事ですか?』


「あぁ…

あの俺、記憶喪失になっているみたいでこの場所が何処かも自分が誰なのかも分からないんだが、何か知らないか?」


相手に見えているかは分からないが、首を傾げつつ聞いてみる


『はい、そちらであればお応えする事が可能です

では順を追って説明しますね』



シレンが言うには、この星は多神星【アルビア】



巨大な星を13柱の神が見守っていて、今いる場所は中央に位置する砂漠のシャリー二の南の方なのだそうだ



ほおん…



「ん? 砂漠??」


『はい、正確には荒野砂漠になります』


「そうなのか?

俺の目には荒野砂漠というより、ジャングルに見えるけど…?」


辺りを見回すが、どう見てもジャングルだ


そしていつの間にいたのかは分からないが、足元に握りこぶし大のジャングル名物(?)のド派手な色をしたトカゲが…



これ、毒ない?


大丈夫?




ド派手なトカゲは走り去っていった


どうやら害があるタイプではなかったようだ、良かった


『そちらに関しては後ろをご覧下さい』


そう言われて後ろを振り向く


ぱっと見た感じはジャングルだ、が


よーく目を凝らしてみると、木々の隙間から赤茶色の何かが見えた


ぶら下がる蔦を払い除けながら赤茶色の何かがある方に進むと、開けた場所に出た



なるほど、荒野砂漠ですな?



赤茶色の地面に申し訳程度に生えたカラカラの黄色い草


枯れて倒れた木々


その光景が果てまで続いている様に見える


そんな荒野のど真ん中に、突如現れたようなオアシスに俺は立っている



まぁオアシスじゃなくジャングルなのだが



「…人、俺以外にいなくね?」


え、何?


頭の中のシレンは姿が見えないから置いといて、まさか俺…こんな何もないとこに1人ぼっち?



うわ…



俺、寂しがり屋だからぼっちはマジでムリなんだが?


『人でしたら、北に約30キロ程行けば村があるので会えますよ』


「30…」



うん、ムリ



こんなカラカラな大地を30キロ、何の準備も装備も無く歩いて渡るとか正気の沙汰じゃない


普通に死ぬ


そもそもこの体じゃ10キロも歩けないだろ


子供なのもあるが、薄いTシャツと半ズボンの上から見ても分かるぐらい身体が細い


ひょろひょろのモヤシどころかガリッガリの骨みたいな


世にいう骨皮筋右衛門というやつだ



よく生きてるな俺?



『この場所は貴方の為に作られました

危害の及びそうな動物や魔物などは、貴方が寝ている間に全て排除しておきましたのでご安心ください

ただ、毒草などはございますので注意してくださいね』


良かった、あの足跡の動物はいないのか


というか…



「貴方の為?魔物?」



『はい

貴方は神々に選ばれた異世界の人間です

この世界で体が新しく構築された事でまだ適応しきれておらず、若返った事もあり弱体化している状態になります

森には神級の魔物避けの結界が張られていますので、結界外の砂漠に出たり、魔物を自分の意思で招き入れない限り安全です』


なるほど


だから子供になってるし、体に変な違和感があったんだな


ぼっちは寂しいが結界外は危険だし、とりあえずしばらくはこのジャングルに住むことにしよう


そうしよう


『今はまだ全てをお伝え出来ませんが、生活に困らない程度の記憶は残っているはずです

ですが、それ以外の記憶は消去されています

そして記憶の消去を対価として、特別なスキルを授けましたのでご活用ください』


スキル?


何それファンタジー


いや、ファンタジーな世界なのは分かってるのだが



シレンと話をしている内に、何となく前世?の記憶が断片的に蘇ってきていた


名前や職業、家族構成など自分自身の事は殆ど思い出せない


ただ、地球という星の日本という国に住んでいたという事は何となく思い出した


「つまりゲームみたいに魔法を使えたり、モンスターというか魔物が出たりする世界なんだな?」


詳しい内容は思い出せないが、アニメやゲームとかの記憶はあるのか


文明の利器の事もとりあえず分かるな



「ところで、俺はなんで選ばれたんだ?」


『それは魂の波長と器の大きさ

急な環境変化にも適応する事が出来る順応性

過度のストレスがかかっても耐えられる精神力

あとは顔ですね』



「顔っ!?」



顔って…いや、うん


見た目は大事だよな


『神々の会議にて、満場一致で貴方が選ばれました

おめでとうございます』


「あ…りがとうございます?」


『そして対価として特別にお渡ししたスキルなのですが、貴方は《鑑定眼》を選ばれました

なのでご自身のステータスを見ることが可能です』


「なるほど…鑑定眼」


そう口に出した途端


透明な紺色のボードが目の前に現れた


ぱっと見た感じ、透けてる黒板みたいだな


------

【名前】無し

【種族】異世界人(弱体化)

【年齢】0歳


Lv.1


HP:5 (弱体化)

MP:500

SP:500


特殊スキル

鑑定眼Lv1

創造Lv1

------



情報すくないのにツッコミどころ多いな!?



そういえば鑑定眼スキルを使用する時、どういった動きをすればスキルが発動するとかが何となく分かった


スキル補正か何かか?


HP5…転けたり頭ぶつけたら即死ではなかろうか?


こわっ!!


0歳なのは、たぶん生まれたばかりだからで


え、というか名無し?


不便極まりない


あぁ、でも周りに誰もいないし教える相手いないから良いのか…


あれ、なんだろう

泣きそうだ


あと情報が少ないのは鑑定眼のLvが低いからだろうが…


この創造Lv1ってなんだ?


『それは特殊スキルになります

この世界で生き残りやすいようにと付与されました

神々の計らいで、創造スキルは分かりやすいようサバイバルアクションやクラフトゲームのような仕様にしてあります


…え、なんですか?

はい、はい。分かりました、すぐに向かいます』


シレンと話ていたら別の声が遠くから聞こえてくる


ハッキリとは聞き取れないが、どうやら緊急のようだった


『申し訳ありません

まだ伝えきれていない事がありますが、急な用事が出来ましたので通信を切らせていただきます

あとはスキルを駆使して頑張って生き残ってください、それでは』


「え、ちょっと…!」



シレンは急ぎ早に会話を終わらせると例のカチッと音が鳴り、また静かになった


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