第8話
「ははっ……面白い冗談ですねっ⁉」
二位パーティリーダーのレナカが愛想笑いを浮かべ、格闘家スズと同時に、アレサに襲いかかってきた。しかも上空からはまた、魔導士ハルの隕石がすでに何個も近づいてきている。
当然、彼女たちはその隕石落下のタイミングに、自分たちの攻撃を合わせてきたのだ。
「不刀流奥義……」「七曜拳……」
レナカは左から、格闘家スズは右から、アレサの左右それぞれの死角から同時に技を放つ。
「「
それも、彼女たちがこれまでの冒険の中で作り上げてきた絆の証……必殺のコンビネーション技だ。
「はっ!」
しかし、アレサはそのコンビネーションの穴をついて、二人の内、
実はアレサは、さっきレナカが話していた時間に、自分の体に新しく付与術の【風】の印を描いていた。
もちろん、それを有効化したところで、同じく【風】が付与されている格闘家と条件が互角になったというだけ。魔法職のアレサが、勇者ウィリアがやっていたように近接戦闘のプロフェッショナルである格闘家の拳を取れるかどうかは、別の問題だ。
ある意味では、ほとんど賭けのようなものだったが……しかし、アレサはその賭けに勝ったのだ。
彼女はそこから、格闘家スズの拳に描かれていた予備の【風】の印を、自分の魔力で有効化する。それは、今有効になっている印の効力が切れたときに再有効化するためのものだろう。
「ぬっ⁉」
すでに【風】の付与がかかっている状態で、さらにもう一つ【風】が付与されてしまったスズ。急に二倍の速さを手に入れたわけだが……いきなりそんな予想外の高速スピードになっても、制御できるはずもない。
「ぐ、ぐぬぅっ!」
「スズっ⁉」
もう少しで反対側からの攻撃がアレサに届くところだったサムライ少女レナカに、突っ込んでしまった。
スズの体にあった【風】の印は、もちろん、付与術師イアンナが描いたものだ。印には、それを描く術師それぞれのクセがあり、それを有効化するための方法も違っているのが普通だ。しかし、これまでリーダーとしてイアンナと同じパーティにいたアレサは彼女のクセをよく理解していたので、イアンナの作った印を有効化することも可能だったようだ。
アレサから思わぬ反撃を受けて、同士討ちのような形になってしまったレナカとスズ。だが、彼女たちにはまた【盾】が付与されているので無傷だ。当然アレサだって、そうなることくらいは分かっていた。彼女の目的は、それではなかったのだから。
彼女の、本当の狙いは……。
【風】で加速していたアレサのもとに、ようやく魔導士ハルの隕石たちが到達する。
「だぁぁっ!」
アレサは風属性魔法の壁を使って、自分にぶつかる寸前にそれらをひとまとめにして遠くに放り投げた。
それは、一見するといままで通りの彼女の防御手段だ。特に、何かが違うようには思えない。
ただ、唯一今までと違うこととして……。
「ぎゃっ⁉」
放られた隕石のうちの一つが、これまでの落下地点からは少し外れた
しかし、それが誰のものだったのか判明するよりも前に……さっきの混乱から復活していた格闘家スズが、【風】の力でアレサのふところに潜り込んでいた。
隕石への防御でスキが出来ていたアレサがそれに気づいたときには、スズは技を放つ準備を完成させたあとだった。
「これで……終わりだ! 七曜拳、
「ぐぁっ……!」
彼女の肘打ちをモロにボディに受けてしまったアレサ。そのまま、後方に向かってふっとばされる。
それでも彼女は、その攻撃を受ける直前に最後の悪あがきをするように
とばされた先で大地に叩きつけられて、アレサは一時的に意識を失ってしまった。
「やったぁーっ!」
魔導士ハルが、両手をあげて無邪気にジャンプする。
「も、もしかして……か、勝った……? わ、私が、アレサさんたちに……?」
自分に自信がなかったイアンナが、これまで絶対に手が届かないと思っていた強大な相手を倒したことに感動して、体を震わせている。
「スズちゃんっ」
僧侶ナンナは、アレサの魔法で火だるまになってしまった格闘家スズの治癒に向かう。スズほどの実力者であれば、初級属性魔法の火球程度で命を落とすはずはない。上級回復魔法を使いこなすナンナにかかれば、あっという間に全快してしまうだろう。
一方のアレサとウィリアは、今は二人とも倒されて、グッタリと横になっている。
誰が見ても明らかなほどに、イアンナが加入した新生二位パーティがアレサたち勇者パーティに勝利した瞬間……に思えた。
「どういう、こと……ですか……?」
そんななか、驚愕の表情で立ち尽くしている人物がいた。
二位パーティリーダーのサムライ少女、レナカだ。
「もぉー、どったのぉレナちー? ようやく念願だった一位パーティのアレサっちたちを倒せたぁーってのにぃ、浮かない顔じゃぁーん?」
魔導士のハルが、のんきな調子で彼女の隣にやってくる。
「スズちゃんのことならぁ、どうせナンナが回復してくれるからぁ、心配いらないってぇ……」
「違いますっ!」
「え?」
突然大声を出したレナカに、驚くハル。
するとそこで……。
「か……彼女はね……。そもそも、
意識を取り戻したアレサが、フラフラの状態で立ち上がった。
「あ、あんたぁ!」
すぐに、魔導士ハルは戦闘態勢に戻る。魔法の隕石は、さっきの一連の攻撃で全て使い果たしてしまっている。だが、今の瀕死のアレサ程度なら、もっと簡単な魔法でも余裕で倒せるだろう。
ハルは魔導士の杖を掲げ、ほとんど呪文詠唱なしで使える初級攻撃魔法を行使しようとした。
「……やめてください!」
しかし、そんなハルを仲間のレナカが制止する。
「え? え?」
「はあ……はあ……」
ボロボロの様子のアレサは自分自身に回復魔法を使いながら、そんな二人の方へとゆっくり歩いてくる。
「だって、そうでしょう……? はあ……はあ……。貴女たちには、『天才付与術師』による、付与術の【盾】があったはずでしょう……? だったら、私のさっきの初級魔法ごとき……今までどおり余裕で防げていたはず……。なのに、さっき格闘家のスズは……私の火球の魔法で、火だるまになってしまった……。今……僧侶のナンナの回復魔法で、
「え……? あ、ホントだぁ……」
ようやく、ハルもこの状況のおかしさに気付いたらしい。それから彼女は首を動かして、そんなおかしい状況の理由を知っていそうな『人物』の方に、顔を向けた。
「……」
リーダーのレナカもすでに、さっきまでの対戦相手だったアレサには無防備な背中を向けてしまって、真剣な表情で『彼女』を見つめている。
これまでずっとおっとりとした笑顔を浮かべていたナンナも。ナンナの魔法ですっかり回復した格闘家のスズも。『彼女』に、にらみつけるようなきつい視線を向けている。
そして、アレサも。
傷だらけの状態でなんとかレナカたち二位パーティのところまでやってきて、彼女たちの隣に並ぶ。そして、その『人物』にこう言った。
「イアンナ……貴女どうしてさっき、格闘家のスズに【盾】をかけてあげなかったの? 今までずっとかけてあげていたはずの付与術を、
「そ、そ、それ、は……」
アレサが、レナカをはじめとした二位パーティの四人と一緒に、イアンナを厳しい表情で問い詰めている。
それはまるで、さっきまでの状況が反転してしまったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます