深夜の本屋 ~筋肉か能力かそれが問題だ~

タカナシ

第1話「パワーッ!!」

 深夜になるとこの書店はマンガたちが具現化する不思議な大型書店です。


 あっ、ご挨拶が遅れました。私は編集者エッセイマンガの具現化、名前を著者名から取って、江津 えつ ひかりと言います。 

 元の作者に倣って、この不思議な書店をエッセイにしていきたいと思い、今日も店内を観察しています。


 今日も何やら言い争いをしているみたいですが、珍しい二人がタッグを組んでいますね。


                ※


「ハッハッハ!! 筋肉こそ最高。なぜそれがわからない」


 プロレスラーのような体型の具現化キャラが腰に手を当てながら大声をあげる。


「い、いや、能力こそ最強だっ!」

「そ、そうだ。チートが絶対だ!」


 その圧倒的なプレッシャーに押されながらも反論するのが、現代ファンタジーマンガの眼帯少年と異世界ファンタジーマンガの骸骨だった。

 2人は普段は現代か異世界どちらが上かいがみ合っているのだが、今日に限ってはその限りではなく、共闘していた。


 プロレスラーはそんな二人を相手にしても余裕の笑みを絶やさない。彼は格闘マンガの具現化なのだが、普段は大人しい性格なんだけど、こと最強は何かと言うときには必ず現れる。ようするにバトルジャンキーだ。


「ふむ。では問おう。過去の大ヒット少年マンガ。そのほとんどが筋骨隆々な主人公だと思うが? 七つの玉を集めたり、暗殺拳の使い手だったり、伝説のスイーパーだったり、小宇宙を燃やしたり」


「うぐっ、過去の名作たちを出すのは卑怯だぞっ!!」


 眼帯にとっては同ジャンルも多い先輩方。反論としてはそれくらいしか言えなかった。


「ならば、魔力なしだったり、ニンジャだったり、海賊だったりのマンガでも良い」


 今度は最近のもの、しかも異世界が舞台の名作マンガの羅列に、


「つ、強すぎる……」


 骸骨が思わず弱音を吐く。だが、その目は死んでいなかった。


「だが、まだだ。まだ負けた訳じゃないっ! そうは言っても最近の小説、マンガの主流は異世界。それもチート能力持ちだっ! 知名度では負けても物量ならばこちらの戦力の方が圧倒的よ!! さらに現代ファンタジーの能力ものも加わればその比は絶大。そうだろうっ!」


「ああっ!! その通りだ。それにこっちには妖ものの主人公たちもいるんだ。彼らはだいたい霊能力で戦っていくっ!!」


「ふむ。なるほど。なかなかやるな。だが、妖ものと言ったな。我が知る限りの最高峰は鬼の手を持つ運動神経抜群の者だが?」


「ぐぐぐっ……」


「おい、何してんだ眼帯。敵に塩を送ってどうするっ!!」


 あまりの劣勢に二人の雰囲気も険悪になっていく。


「1つ、勘違いしてもらっては困るのだが」


 プロレスラーはゆっくりと眼帯に近づき、肩をガシッと掴む。


「ひぃっ!!」


「キミたちだって、能力を使っているが、相手と戦うときにはしっかりと筋肉を使っているじゃないか!! 描写されないだけでキミたちも立派な筋肉だ。走り、避け、殴り、殴られ。それら全てに筋肉は宿っている。主人公として戦ってきたんだ。キミたちに筋肉がない訳ないだろ。筋肉+能力。どちらが欠けてもキミらはダメだったんだろ! 能力を誇るのも良いっ! だが、その裏に筋肉がいることを忘れないでくれ。キミの努力は筋肉が覚えているっ!!」


 眼帯はマンガの中での自分を思い起こす。

 確かに高校生にしては高い身体能力で動き回っている。能力に身体能力を上げる機能はなかったから、完全に自分の力だ。

 そして、それを自覚した今、彼の筋肉が脈打つ。


「そ、そうか、お前がいつも支えてくれたから俺は戦ってこれたのか……」


「そうだ。どちらもかけがえのないものなんだ」


「あ、ありがとう。格闘マンガ。どちらが上なんてない。能力も筋肉も最強なんだ!」


 プロレスラーは満足そうに頷いた。


 そんな二人を気まずそうに、骸骨は見つめ、続いて、筋肉どころか骨しかない自分の体を見つめる。


「くそっ! うらぎりものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! やっぱり現代ファンタジーなんか嫌いだぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!!!」


 泣きながら骸骨はもうダッシュで走り去った。


「心に筋肉があるはず! あとは関節部とかに少し残ってたり?」


 プロレスラーの慰めの言葉に、


「うっさい!! バーカっ!! バーカッ!!」


 語彙力ゼロの返しを何度も繰り返しながら消えて行った。

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深夜の本屋 ~筋肉か能力かそれが問題だ~ タカナシ @takanashi30

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