感覚位相幻体 2

グレイが体を震わせる。

側にいたレイノルズとホーンズが少し肩を引く。

/」さっきぶりだがワタシだ。もっと良い作戦を思いついた。聞いてくれるかい?「/

少しの間呆けていた二人だが、目線を交わすと彼女に向き直りうなずいた

感覚を学習し、転写する存在。

その進化形?といえど基本機能は変わらない。

現在、グレイが努めていたのは転写段階で人間が受け取る結果をねじ曲げるものであった。

その前提を踏まえた上で彼女は提案する。

/」だが、こいつの自覚している能力値を踏まえてもねじ曲げられる事実は微少だ。もっと根本的な解決策がいる「/

送信中のデータをねじ曲げるのが現実的でないならば、打つ手は一つだけ。

送信元のデータを根本的に書き換えてしまうことだ。

/」受信者の受け取り方を変えるという手もあるが、それは全人類の感覚器官を、あいつを見れないようにするのと同義だ。現実的じゃ無い「/

この作戦も根幹はグレイだ。

だが、さっきまでの行為と違うのは火器などの媒介を使用しないことだ。

それはあの巨人との直接的な概念勝負を挑むことを意味する。

/」彼女をまかせてほしい「/

名も分からぬもう一人の彼女はそう打診してきた。

二人は許可した。

元よりグレイについては彼女の方がよく知っていそうであったし、子どもを戦わせることについても今更だ。

/」今からあいつと打ち合わせをする。その間、体に意識はないだろうが問題ない。近くまで運んでおいてくれ「/

二人に任されたことは一つだけ。

あの巨人の救済範囲に連れて行って欲しいというものだった。



グレイは暗闇の中、目を覚ます。

のぞき込むように影が身をかがめている。

知らないはずのその影に、グレイは懐かしさを感じた。

「あなたは誰なんですか?」

だが、知らないものは知らない。

グレイはその影に質問をする。

「あんたの力の源だよ」

「力の?」

「他の奴らを意のままにできる力だよ」

「この…変な?」

「変って…。まあそう感じるのか、あんたは」

「あなたがいるから私はこんな変な力を持ってるの?」

「…一から説明してもいいかい?本来ワタシらは実体を持たない。誰かに知覚されて初めて存在することになる。でも、あんたは実体を得たそれだ」

「話がよく分からないです…」

「つまりだ。君の正体は、人間の肉体という器に、本来実体を持たない第二原種すなわちワタシが取り込まれた融合生命なんだよ」

「じゃあ、私はその”だいにげんしゅ”って生き物なの?」

「それはちょっと違う。ワタシは器として作られたあんたの体と融合した。でも、私は手に入れた体を直接使うんじゃなくて、記憶にある人間の肉体反応を組み合わせて肉体用の別の自我を作成した。それがあんただ」

「あなたが私を作った…?」

影が上を見る。

「さすがに時間が無くなってきたか」

本題に入ろう、と提案をしてきた。

「まずは能力の前提からだ」

第二原種は本来肉体の感覚を学習、励起させる生態を持つ。

だが、実体を得た私はその関係を成り立たせるための憑依ができなくなっている。

そのため能力は変質し、精神のつながりを利用するものになった。

憑依という肉体の重なりではなく、心を重ねるのである。

そうすることで他者の感覚の学習能力、励起能力は向上する。

グレイが今までがむしゃらに使ってきた能力とはそういうものだと影は言った。

「能力で上をいくあいつは同じことをさらに簡単にやっている」

あの白いものは影と元々同じ存在だったらしい。

その能力を私も継いでいるが、そのレベルは比べものにならないという。

その強大な能力に関して、あいつは放出することに専念している。

多くの人間に感覚を与えることに今は専念しているという。

それを根本的に邪魔するために私にあれと心をつなげろというのが影の要求だった。

心をつなげる以上、あれと私が感覚のやりとりをする必要がある。

今あれが行っているやりとりは、さっきも言ったように幸福感情の付与だ。

つまり、目的を果たすには私が幸福感情の付与に晒されるしか無いという。

「ワタシがその影響を軽減する。死ぬことはない」

能力の扱いに長けているというその影が私を守る。

その間に私があれの対処をしろということだ。

「つながったとして、どうすればいいの?」

能力について説明されたとはいえ、そのほとんどはなぜに対するものだ。

どうすれば能力を使いこなせるかも、どういう能力を使えばいいかも私はまだ分かっていない。

「それについてはあとで説明する。今じゃ何をすればいいかは分からないからだ」

行けば分かる、と不安な答えが返ってくる。

「じゃあ任せる」

その言葉とともに私の意識は再び闇に包まれた。

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