婚約破棄された侯爵令嬢は庭師と旅立つ

白鷺雨月

第1話婚約破棄された侯爵令嬢は庭師と旅立つ

「レイシア侯爵令嬢!!君との婚約は破棄する!!」

舞踏会の場で声だかにアベル王子は言う。

その場は騒然となる。

婚約破棄を言い渡されたレイシアはただ呆然としている。

その場にいる貴族たちは銀色の髪をもつレイシアの美しい顔に注目していた。

つーとレイシアの白い頬に涙が流れる。


「泣いても無駄だ。この裏切り者め。すでに貴様の父親であるファルム侯爵は反逆の罪で拘束している。貴様にもそれ相応の報いを受けてもらおう。よくも今まで騙してくれたな!!」

さらに強い口調で王子は言う。

背の高いアベル王子の背後で財務大臣のマゼランがにやりと笑っていた。



幼なじみであり、将来の伴侶となると思っていたアベル王子に婚約破棄を言い渡されたレイシアは自宅での謹慎を命じられた。

数日後になんと父親であるファルム侯爵は断頭台ギロチンにかけられ、処刑されてしまった。

侯爵家につかえていた使用人やメイドたちは我先にこの屋敷をにげていった。

この屋敷に残ったのは数年前に行き倒れになって倒れていたところを助けた庭師のバルザだけだった。


一人自室にいたレイシアのもとに王子からの使者が訪れる。

「反逆者の娘レイシア。貴様には国外追放を命じる。二度とこの王国の土を踏んではいけない」

冷徹な使者はそう命じた。


「わかりました……」

あきらめた声でレイシアは言う。

庭師のバルザは黙って馬を用意してくれた。

あれだけいた使用人たちも今はこの大男だけだった。

バルザは筋骨たくましい大男だった。その腕の筋肉はレイシアの腰よりも太い。



バルザとともに国境に向けて旅だったレイシアだったが、彼女らを完全武装の一団が取り囲んだ。

騎兵たちが装備している鎧の刻印を見て、レイシアは理解した。その刻印はマゼラン伯爵家のものであったからだ。


ざっと見渡しただけでも騎士たちは三十人近くいる。

ちらりとバルザは茶色の瞳をレイシアに向ける。

「あなただけでお逃げなさい。私のことを見捨ててもけっしてうらみませんから」

あきらめた表情でレイシアは言う。


「お嬢様、あきらめたらいけません。このバルザックにおまかせください」

庭師のバルザは言い、太い筋肉質の腕を見せる。

あれっ、たしか名前はバルザックではなくバルザだったはずとレイシアがきょとんとしている間に事態は急変した。


バルザがみるみる間に素手で完全武装の騎士たちを倒していくのだ。それはもう面白いほどにバルザは簡単に鉄鎧の騎士たちをうちたおしていく。

ものの数分で三十人はいた騎士たちは地面に寝転がされていた。

「おまえは……まさか……万騎将のバルザック……」

騎士の一人がそう言い、意識を失った。


レイシアは驚き、バルザックの精悍な顔を見る。

「もしかしてあなたは帝国の無敵のバルザック将軍」

と彼女は言った。


「よしてくださいよ、お嬢様。今はただの庭師ですよ」

はにかみながらバルザックは言った。



十年後、帝国に亡命したレイシアはバルザックとともに祖国にたいして復讐の戦いを挑む。無敵のバルザック将軍の指揮によりレイシア軍は連戦連勝し、ついには王子アベルを戦死させる。財務大臣マゼランは断頭台にかけられ、レイシアは女王として即位した。

王国との戦いに勝利したあと、バルザックは約束は果たしたとどこへともなく消えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄された侯爵令嬢は庭師と旅立つ 白鷺雨月 @sirasagiugethu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ