読むのがキツイ

エリー.ファー

読むのがキツイ

 あなたの名前、なんていうの。

 え、田中、あ、違う。吉見、でもない。じゃあ、なんなの。苗字、それ、名前、どっちなの。え、どっちでしょうか、じゃないから。質問、してるんだって、答えてよ。え、時間はあるよ、まだあるけどさ、ども面倒なんだって、こっちとしてはどうすればいいか分からないから、無駄なの。分かるでしょ、今、ここで行われてるのって無駄な時間なんだって、節約して他の所に使いたいの。どれだけの仕事があると思ってんの、仕事だけじゃなくて休憩の時間だって必要なわけよ。ね、分かるでしょ。分ったら教えて。ねぇ、聞いてる。ねぇ、聞いてるよね。返事して。今、話しかけられてるって分かってるよね。じゃあ、なんで返事しないの。みんな、困ってるからね。分ったら、返事をして。ねぇ、もう変な空気になってるって分かってるよね。どうして、こういう状況になったのか考えてみたら。あなたのせいだよ、あなたが変な意地を張ってるからこうなっちゃったんだよ。もう、いいじゃん。名前を言ってよ。正直に言って、聞こえる声で、とりあえず言ってみてよ。ねぇ、なんで黙るの。さっきまで、何かは言ってたじゃん。そりゃ、本名なのか偽名なのかは、こっちじゃ判断つかないから、何か言われたところで、それを信じるしかないんだよ。じゃあ、あなた側からしたら、言ったもの勝ちでしょ。それは、分かってるよね。じゃあ、いいじゃん。言いなよ。本当に、言うだけでいいんだから。ねぇ、言いなって。ほら。名前だよ。苗字から。ほら、別にお金を払えとか、殴らせろって言ってるわけじゃないんだからさ。名前。分かるでしょ。名前。じゃあ、免許証でいいよ。え、ないの。じゃあ、保険証は、それもないの。えぇと、じゃあ、なんか名前が載ってるやつならなんでもいいから。ない、ないんだ。お財布の中を確認して欲しいんだけど。え、お財布がない。あのさぁ、じゃあ、ここまでどうやって来たわけ。ここって、電車とタクシーで来るようなところだよ。歩いて来たの、ねぇ、あぁ、走って来たんだ。なるほどね、いいよ、そういう冗談はいらないから、あの、分かってると思うけど、ウザいよ。かなり、ウザい。こっちを怒らせたいんだったら、そういうのは正解だけど、でも、長い目で見たら愚策だと思うよ。うん、マジで。これはね、優しさだから。もう二度と、言わないからね。で、名前を教えてくれるかな。もう、遊びじゃないから。ここから先は修羅の自己紹介。地獄の香りが漂う、薄暗い路地裏。本物の魂だけが生き残れる天界の闘技場。で、名前を教えてもらえるかな。そして、できれば、職業、年齢、身長、体重、誕生日、家族構成、出身地、好きな食べ物、好きなスポーツ、好きな色、その他諸々。なんでもいいから、全部、教えてもらっていいかな。もう、こっちもさ、名前だけ聞いて帰るわけにはいかないからさ。私も、自分の両手とあなたの顔を血みどろにしたくはないんだよね。ね、これで最後にしようよ。私とあなたで作り上げた夢幻の彼方に浮ぶ仮初のラグナロクを、さ。

「菱火先夕滝谷谷谷谷千鯨筈見仙一京三郎」

 え、なんて。

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