第14話 (閑話)アーノン・ススミ(1)

 南のあの悲劇の王様の国で暗躍する男の話。

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 私はアーノン・ススミ、エルフの指導者の一人マルティーナと夫エルンストを始まりとする聖樹島に住むエルフ系の人族だ。


 何故マルティーナと夫の子孫を名乗るのかと言うとマルティーナが生んだ息子が血筋の始まりだからだ。彼と会った時、皮肉な事に始祖たるアルデビドは聖樹島に置いてきた人族との息子の事を失念していた。


 我がススミ家はヒーナニマひろがりしものと同じ意味合いを持つ人族の言葉を家名にした。


 聖樹島では古い家系になるだろう、一族中には寿命が500才を超える者も少なく無い。


 ルクデス・サルワ・キク・カクタンの名はご存じだろうか、西方への拡張政策を推し進め、呪いの森ダンジョンに行くてを遮られ、大規模な船団を用意して西の大陸へ侵略してきた王を。


 パトの港を塒とする、海賊集団パトス共に骨の髄までしゃぶられ、海の藻屑と消えた悲劇を超える喜劇を見ている様なビンコッタの海戦の一方の当事者である。


 私はキク・カクタン国へ来ている。


 勿論マルティーナの依頼で魅力の大きな物を探す依頼をするためである。


 キク・カクタン国は宗教組織が国を牛耳る国。


 歴史をたどれば宗教指導者集団による教団が国として発展した経緯をへて国教となった、水と太陽を2大神と崇める宗教国だ。


 女尊男卑のエルフから見れば真逆の在りように、男としてそれで良いのかと聞きたくなる。


 男は宗教的位階が高く無ければ、女性を持つ・・事はできない。


 この国には結婚制度は無い、男が女を持つ・・のだ、当然あぶれる男が大勢でる。


 その男共は兵士となり、他国を侵略する。


 侵略する中で略奪で女を得る事に人生を賭けるのだ。


 この国の王と名乗る男は全てを持つ者と言う尊称を持つが、他国の者には王と紹介される。


 王と名乗れど、西大陸の王とは性質が全然違う、彼一人でこの国すべてを持っているのだ。


 私のように彼の前に跪いて祈りを捧げる様に強要されればいやでもこの国の在りようが分かるだろう。


 「それで、何故王の前に礼拝しようと来たのだ、西の果てから来た男よ、分けを申せ。」


 御簾の向こうに座る王へ直接話しかける事は不敬だが、御簾の手前に控える男へは話しかける事ができる。


 「はい、恐れ多い事ではありますが、答えさせていただきます。」


 「エルフ族の指導者から魅力の大きな物を探す様に言われ、長き旅路を経て訪れし者であります。」


 「聞いた事も無い、エルフ族とは何をしている者ぞ。」


 「はい、西大陸の果てから海を北に進んだ先に在る島に住む齢万を超す一族です。」


 「嘘を申すで無い!、人は50年生きれば天寿を全うする者だ。」


 「聖樹セージュと言う名に聞き覚えは在りませんか?」


 「聖なる御位セ・ー・ジュの事か?」


 「西の果ての海を、北へ行く事幾年、魔法の町に在ると言う水の王が住む聖なる木の事か?」


 「太陽の王たるカクタンの御位みくらに対応される、水の御位みくらが在ると聞く。」


 御簾の前に立つ男は考え込んだ、そして呼ばれたのか、御簾の中へと入って行った。


 やがて出てくると、アーノン・ススミを睨みつけて言った。


 「我らの教義において太陽の暑さの対極は水の冷たさである。」


 「水の冷たさを極めると冷たさの極みキクとなる。」


 「その方に、キクとは何かを問う、我らに分かる様に言え。」


 アーノン・ススミは言葉での説明は意味の無い事が分かった。


 彼らは氷を生涯見る事も触る事も無いのだ。


 彼らの国には雪の積もる高い山一つ無いのだから。


 ならば目で見て、手で触って貰う事で知ってもらう。


 「水瓶みずがめを中に水を入れて持って来ていただけますか?」


 「ふむ、面白い、冷たさの極みキクの意味を知っての要求のようだ、許可しよう。」


 「かめに水を入れて持ってくるように。」


 男の指示で浅く広い洗面用と思われるかめに水を8分目入れた物が用意された。


 「ではご説明します。『我が招く冷たき闇の妖精よ!』、『冷たさを知る闇の妖精よ、この水を冷たさで動かなくしてくれ』。」


 迷宮毛長白色狼、8級の闇妖精を召喚して、かめの水を凍らせる。


 浅く広い水瓶みずがめはあっという間に氷り始め、直ぐに硬く氷った、かめも氷るとヒビ割れてしまった。


 この様を見ていた、周囲の人はただ唖然とした顔をしたまま黙り込んだ。


 「冷たさの極みキクとは、この様に水のきわまりし究極の姿でございます。」


 「熱いの逆、冷たいを知りたいなら、其の氷を触られると良いでしょう。」


 「ただし、素手で触ると手を手失う事に成ります、布越しに触ると良いでしょう。」


 周りの男達が恐々近づいて、布越しに触って行く。


 触った者全てが驚愕きょうがくと手の痛みやしびれ、そして冷たいを知った。


 やがて御簾の中へも持ち込まれ、しばらくして先ほどの男から言葉が在った。


 「その方を水の御位みくらからの使者と認めよう。」


 「して、その方の探し物、魅力の大きな物を探す対価は何を差し出す?」


 「そもそも、魅力とは何ぞや。」


 「はい、差し出しますは一人の女の居場所、その女に子を授ければ、万の歳を生きる子供を得る、エルフ族の女の居場所を。」


 「そして、魅力とは魔力の元である魅量みりょうの大きさを表した物になります。」


 「この世には魔石や魔金属などの魔力を含み魅力に富んだ物質が多くあります、その中でも計り知れない大きさを持った魅力を持つ物を探しております。」


 「たかが女一人の居場所じゃと、話にならんの。」


 「いえいえ、我らは魅力の大きな物を探しているだけにございます。」


 「探して見つかればそれだけで良いのでございます。」


 「決して自分の物にする事は在りません、見つけたいだけなのです。」


 「おかしなことを言う、見つけるだけで良いとな?」


 「で、対価が女の居場所とな。」


 「あい分かった、しばし待たれよ、いとかしこき方にもう申す故、一度下がるが良い。」


 アーノン・ススミのカクタン王への申し出は成功に終わった。


 カクタン国は、エルフの女イスラーファをどうする積りか知らないが、魅力の大きな物を探す事を約束した。


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 此の件が海賊団と繋がっているのかはこの先のお話になります。

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