第6話 ウルーシュの生活(5)

 ラーファは役人から許可を得る為にあちらこちらへとほんろうされます。

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 受付の女性に案内されながら廊下を奥へと進んでいきます。


 何度か曲がったので、だいぶ奥まで来た頃に大きなドアの部屋へと案内されました。


 中は豪華な応接室に成って居て、あまり広くはありませんが装飾をこれでもかと施したテーブルと椅子、隣の部屋は飲み物を用意する部屋の様です。


 昼間なので天井の明かり用魔道具は使われていませんが、天井を飾る装飾された天井画や壁紙に描かれた花鳥風月の彩色画は少し誇張された描かれようです。


 窓は表に面しているのか細長いスリット状の木枠に透明ガラスをはめ込んだ物が6列に並んで配置されていてそれが2つ在り、部屋の明かりとしては十分な明るさです。


 カーテンなどは架かって無いので、細いガラス越しに見えるのは入って来た大きな広場です。


 ここは入り口の反対側に在る応接間で、町役場の1階にある南向きの部屋なのでしょう。


 ラーファをビビらせるには十分豪華なはったりでは無いかと思います。

 王様と会った部屋よりキラキラしています。


 豪華な部屋で待つこと1コル(15分)ほど、案内してくれた女性が入れてくれたクコの実茶を飲みながら待ちます。


 やがてやって来た人物は先ほど受付で見た人と、老人の男性が一人部屋へノックと共に入って来ました。


 ラーファも座っていた長椅子からゆっくりと立ち上がりながら、頭を軽く下げて礼をします。


 「初めてお目にかかりますな、私が町役場の長をしているナガッシュ・クロエと申す。」


 老人の方が町長でした。


 「先ほど受付でお会いしましたデニム・アークロイと申します、町役場の書記をしています。」


 受付に居た方はデニム書記様と言われるようです。


 「改めて、初めましてイガジャ領から来ました魔女です、魔女として開業する前に広場で公開の治療を行いたいので町役場へ許可を貰いに来ました、どうぞよろしくお願い申し上げます」


 お二人を見るとあまり歓迎しているような顔をしていませんね。


 「お座りなさい、魔女殿。」


 と町長が座るように促します、丁寧な対応からガランディス伯爵様の紹介と言う威光が効果を発揮しているようです。


 「ありがとうございます」


 受け答えして、彼らが座るのを待って、少しゆっくり気味に座ります。


 オウミ国では上座下座を方角では無く部屋の奥か扉に近いかで決めて居ます。


 町長が窓際の一人掛けの椅子へ座り、デニム氏がラーファの向かいの3人掛けの長椅子に座りました。


 「魔女殿、ガランデァス伯爵様の紹介状には、イガジャ男爵様の依頼が在って紹介すると書いて在ります。」


 「私はカカリ村の魔女です、王都で魔女の治療と薬を広く知らしめるために派遣された者です」


 簡単に開業の経緯を話すと、二人の緊張がほぐれたようです、安心したのでしょう。


 恐らくガランデァス伯爵からの通達で何か無理筋の要件だと思っていた所が、ただの魔女の開業だったので安心したのでしょう。


 町役場で公開治療の許可申請をする事に成りました。


 先ず住所ですが東堀筋北町のイガジャ侯爵家下屋敷内ですから家賃は発生しません。

 人頭税はイガジャ侯爵家が払うのでラーファは払う必要は無いそうです。


 どちらも発生したとしても東堀筋北町の町役場で下屋敷の使用人頭の方が手続きしてくれています。


 次に広場での公開治療の許可ですが、町役人の許可の前に薬師ギルドの登録が必要だそうです。

 薬師ギルドは聖堂の在る東堀筋南町に在るそうですので、其処でギルドに入る様に言われた。

 薬師ギルドに入らないと公開治療の許可は出せないそうです。


 仕方なく一度町役場を出て薬師ギルドが在る東堀筋南町へ移動します。


 今度は中堀筋を通ろうと思います。


 途中通った演習場は十字形に演習場を分断する道路を歩きましたが、ほんとに何もない場所でした。

 兵舎や士官の宿舎は堀に沿ってぐるりと一周するように建てられていて、外壁も石作の様です。


 ここを横断中に、演習場で分列行進する兵の声や楽隊のリズムを取る太鼓や鐘の音が聞こえてきます。


 中堀筋南町へ渡って、薬師ギルドの在る東堀筋南町の中央広場まで3コル(45分)掛かりました。


 薬師ギルドは魔女と薬師の王都での利害を調整する組織だと町役場のデニム書記から聞きました。

 此処で魔女として生活する以上、彼らに上納金を払って居場所を作るしか無い様です。


 薬師ギルドは中央の広場に面して建っているこじんまりとした5階建ての四角い建物です。

 5階建てでこじんまりとしたと言いましたが、王都の建物は5階建てが基準でそれ以上は高制限が在って建てられません。

 ですからこじんまりとした感じなのは高さでは無くて横幅に成ります。


 この広場は東堀筋南町の中央にある大聖堂の建物に面した大きな広場にひっそりと在ります。


 中は長いカウンターが一つあり、数人がカウンターの奥に居ます。

 机に手続と書かれたカウンターへと行くと、奥で机に向かって仕事をしている係の人だと思う人に声を掛けた。


 「魔女の登録に来ました」


 すると中に居た中年ぐらいの男性が立ち上がってカウンターまでやって来ると聞いてきました。


 「お前が新たに登録したいと言う魔女本人か?」


 「はい、私がカカリ村から来ました魔女本人です」


 と自己紹介的に話します。


 「登録出来るかどうかは審査が在るが、紹介状でも持っているのかな。」


 と何か簡単には登録出来なさそうな事を言いだします。


 「はい、ガランデァス伯爵様から紹介状を頂いています」


 とガランデァス伯爵様の事を伝え、紹介状を見せます。


 すると、問いただしてきた男性の横に控えていた、女性が何やら慌てた様子で、バタバタと書類を持って駆け寄りました。


 「オイゲン様、町役場経由で通達書がきています、ガランデァス伯爵様からカカリ村の魔女へ便宜を図る様にとの事です」


 その後声を小さくして何やら伝えています。


 「・・・ 王都で、 ・・・ 重要な ・・・ 護衛が ・・・ 厳重に ・・・ 処す 」


 オイゲン様と言われた男性はしばらく考えて、おもむろに私へ話し出した。


 「ガランデァス伯爵様の紹介状によるとその方はカカリ村の魔女だと言う事だが、魔女として仕事をするのか?」


 「はい、師匠から王都にて魔女の治癒と魔女の薬を広く知らしめるように言い遣っています」


 「師匠とはカカリ村の大魔女様の事か?」


 「はい、大魔女のおばば様です」


 しばらくして、封書に入れた書類と一枚の紙を持ってカウンターまでやって来た。


 「この紙を渡しておくから魔女の診療所を決めて仕事を始める前に登録料を持って来なさい。」

 「その時に、薬師ギルドの登録証明が入っている書類を渡す。」

 「魔女として開業するなら町役場へは一度行って話を聞いて置くことを勧める。」


 オイゲン様から一枚の紙を貰った、どうやらお金は開業する前にこの紙に書いてある金額を持ってくれば良いようだ。


 「場所は町の広場で公開で行う積りです」

 「ですので、この場で登録料金をお支払いします」


 登録料金貨5枚をその場で支払う。


 オイゲン様は登録料を受け取ると、疲れた顔をしながら書類を用意した。


 「そうか、しばらく待て、今書類を作るから・・・ 薬師ギルドの議員達に話を通して置かないと。」

 「揉めるだろうなぁ・・・ ホントいきなりこんな事ねじ込んでくるなんて。」


 なにやら急に中間管理職の悲哀を出し始めた男性が嘆きながら、書類を書き始める。


 やがて書き終えると、魔女のメダルに記された番号で登録された登録証を渡してきた。

 ガランデァス伯爵様の紹介状も返してもらった。


 薬師ギルドを出て、町役場へ戻る前に昼食にする事にした。


 昼7時(午後0時)ぐらいに成っているので、神域へ行って食べるかこの町で食べる所を探すか迷った。


 結局作り置きが在るので、神域に入る事にした。

 大聖堂の裏側の人目に付かない路地から神域へと入り、家へとのんびり歩いて行った。


 お昼に作り置きのナンとキャベツにひき肉を入れたロールキャベツを食べた。

 食べ終わり、食後の麦茶を飲みながら明日からの公開治療に必要な物を考えた。


 在ると便利な物を思いついたけど、材料を手に入れる方法が分からない。

 神域を出て一度下屋敷に帰って使用人頭のウルリッヒさんに相談する事にしました。


 「お店の前に看板を立てて目立つようにしたいのですが、材料か作ってくれる所を知りませんか?」


 「その位の材料の板やインクと刷毛なら此の屋敷にございますので、必要な物を言ってくだされば持ってまいります。」


 早速必要な立て看板の大きさを言って必要な板と紙を用意して貰い、インクと刷毛は看板が出来てから持って来て貰う事にしました。


 立て看板が出来れば、いよいよ広場での公開治療の開始です。


 あ、その前に町役場で公開治療の許可を貰わなければ。


――――――――――――――――――――――――

 広場での公開治療を始めます。

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