第18章 ブートキャンプ戦抜⑶

第75話 やばそうな称号

 今回、第3回戦は10人1組のブロックによる総当たり戦だ。つまり9試合ほど戦う事になる。つまり1ブロックあたり合計45試合。


 試合場は1ブロックあたり1カ所だ。だから5試合前後、実際は4~6試合ごとくらいで自分の番が回ってくる。


 試合時間は最大5分。試合場整備やその他運営に必要な時間を1試合あたり3分と仮定。この条件なら概ね40分毎に試合をする計算となる。

 実際はお昼の休憩があるのでもう少しゆっくり進行するけれど。


 さて、第1ブロック第1試合、いきなりサダハルの出番だ。相手はヤスシ・ムンツァーというイストミア聖学園の生徒トレーニー


 これでイストミア聖学園がどんな指導をしているかわかるかもしれない。そう思いつつ、出場が第4試合でまだ時間がある俺は観戦態勢に入る。


 バトルロイヤルの時と比べると試合場は狭い。試合場場内の広さは10m四方で最初の双方の距離は5m。

 勝敗は片方が、

  ① 足以外を床についた状態から5秒以上立ち上がれない

  ② 場外に出た後、10秒以内に場内に戻れない

  ③ 明示的にギブアップをした

  ④ 明らかに試合続行不可能と審判に判断された

場合に決するとされている。


 サダハルと相手が試合場に出た。5m離れて向き合う。

 ここでちょっとステータスチェックをさせて貰おう。


『サダハル・ジェイ・カトラー 筋力88 最大119 筋配けはい82 持久75 柔軟75 回復95 速度75 燃費33

 特殊能力:回復5+ 持久5+ ステータス閲覧 前世記憶

 称号:勇者(公認前)』


『ヤスシ・ムンツァー 筋力85 最大110 筋配けはい82 持久55 柔軟63 回復49 速度75 燃費49

 特殊能力:一時強化2+ 疑似回復1+

 称号:勇者(実験体) 破壊者疑惑』


 持久力と回復力が弱め、しかし他あとはサダハルに匹敵する高ステータスだ。特殊能力もよくわからない能力だけれど2つ持っている。

 しかし一番の問題は称号だ。この勇者(実験体)というのはいかにもやばそうな臭いがする。


 あと破壊者疑惑というのも気になる。俺の称号の破壊者とどう違うのだろうか。何故疑惑がつくのだろうか。


 いずれにせよイストミア聖学園、やばそうな匂いがする。勿論サダハルもその事はわかっている筈だ。奴もステータス閲覧能力を持っているから。


「試合開始!」


 主審がそう宣言。同時にサダハルがゆっくり相手に向けて歩き出す。これは授業の模擬試合と同じパターンだ。


 サダハルは基本的に急襲や隙を狙うというような戦法を使わない。隙を作らないよう近づいて組み合い、筋力で圧倒するという戦い方を好んでいる。


 相手ヤスシは動かない。このままサダハルを待ち受けて組み合う事を選ぶのか、それともどこかで動くか。


 間合いが3mを切ったその瞬間だった。相手ヤスシが腰を落とし半身で構える、そして右腕を大きく素早く動かした。

 遠隔攻撃、エアシェルとほぼ同じ技だ。空気と筋愛きあいの弾丸がサダハルに迫る。


 バチン! そんな大きな音が響いた。サダハルが筋愛きあいで遠隔攻撃を弾いたのだ。ポージング無しでもこれだけの筋愛きあいを放てるあたり、流石勇者だけある。


 相手ヤスシは連続して二発目の遠隔攻撃を放つ。サダハルは歩きつつ筋愛きあい操作で同様に弾く。


 距離はもう2m無い。お互い手を伸ばせば届きそうな距離で、相手ヤスシは3発目を放った。今度は放った後すぐに踏み込み、筋愛きあいを込めた正拳突きでサダハルを狙う。


 サダハルは立ち止まり、両腕を上げて頭の後ろに持って行って組んだ。


「アブドミナル・アンド・サイ!」


 腹筋、脚、脇腹、広背筋等からえげつない濃度の筋愛きあいが放たれた。弾かれたのは遠隔攻撃だけでない。正拳を放つ途中の相手ヤスシの身体も筋愛きあいで左へと動きを曲げられた。

 ヤスシは横転に近い姿勢で飛ばされ、倒れる。


 勿論ヤスシもすぐに起き上がり攻撃に移ろうとした。しかし起き上がりかけたところで、次のポーズを取ったサダハルの筋愛きあいが襲いかかる。


「モスト・マスキュラー!」


 サダハルの三角筋、僧帽筋、腕からの筋愛きあいがヤスシを直撃。起き上がりかけの不安定な姿勢ではひとたまりもない。

 筋愛きあいのままに後方へと飛ばされ二回転。


 サダハルは更に遠隔攻撃で追撃をかける。ヤスシは起き上がれない。やはりサダハル、凶悪に強い。


 それでも一瞬でも二本足だけで身体を支えている瞬間がある。だからカウントは進まない。


 サダハルはどうやって勝負を決めるつもりだろう。

 このまま相手を転がして場外へ追いやり、遠隔攻撃で戻るのを阻止するか。それとも何度もこれを繰り返して相手の体力を奪うか。


 ヤスシは回復力が弱い。だから体力を奪うのは有効な戦法だろう。しかし試合時間は5分しかない。そんな消極的な戦い方で引き分けで無く勝ちに持ち込めるのか疑問を感じる。


 それにそういったテクニカルな方法はサダハルらしくない。

 サダハルの好みは正面から組み合って筋力で相手をねじ伏せる事。この辺いかにも筋肉神テストステロンの勇者らしい。


 勿論シュウヘのように相手の筋力が上の相手は別だ。サダハルもそれなりに他の方法を考える。

 しかし相手が同じ初等部6年相当の生徒トレーニーならまず間違いなく組み合って筋力勝負に持ち込もうとする筈。


 そういう意味では今のサダハル、いつもとは違う戦い方だと感じる。何かを用心していると感じるのだ。


 だとしたらおそらくヤスシの特殊能力を警戒しているのだろう。一時強化2+と疑似回復1+。この今ひとつわからない特殊能力を。

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