ままままま
ぽんぽこ@書籍発売中!!
魔の者
「おお、勇者さま! よくぞおいでになられました!」
ん? ここはなんだ?
俺こと水野タカシは急に明るくなった周囲を見渡しながら、話しかけてきた老人の姿をみやる。
「おぉ、なんと素晴らしいオーラ。これならばあの憎き魔王を倒すこともできるでしょう」
「よくやったぞ賢者よ。これで我が王国もようやく安泰だ」
老人はそう言って俺の肩に手を置いた。そして俺は気づく。この爺さん、頭に角が生えてるし、肌の色が緑色で、なんか耳がとがってるぞ!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ここはどこなんだ?」
「おぉ、これは失礼しました。私はこの国の賢者を務める者でして……」
「いや、名前とかはいいんで、それより、ここは何なんですか? 見たところ、どこかのお城の中みたいですけど」
俺がそう尋ねると、賢者と名乗る男は少し驚いたような顔をしてから、納得したように頷いた。
「そうですな。まずはこの状況から説明いたしましょうか」
そうして、賢者を名乗る男が語った内容はこうだった。
まず、この世界の名前は【エルドガルド】といい、今いる場所は【オルタナシア王国】という国の王城らしい。そして、どうやらこの世界には魔物や魔族といった存在がいて、それらを束ねているのが魔王と呼ばれる存在だそうだ。
その魔王が、つい先日ついに復活を果たし、世界各地の村々を襲い始めた。このままではいずれ世界が滅びてしまうと考えた国王は、伝説に伝わる異世界召喚の儀式を行い、その結果俺が呼び出されたというわけだ。
「なるほど、状況はなんとなく分かりました」
「それは良かったです。では早速ですが、勇者様の力を拝見したいのですが……」
「いや、ちょっと待ってください。俺にはそんな勇者みたいな力はないですよ!?」
慌てて俺は否定する。すると賢者は不思議そうに首をかしげた。
「しかし、伝説の通りなら、あなたはこの世界を救うために召喚されたはずなのですが……」
「そう言われても……そもそもなんで俺が呼ばれたんですか?」
「それはもちろん、あなたが世界最強の魔力の持ち主だからです」
「世界最強の魔力の持ち主だって!?そんな馬鹿な!!」
思わず叫んでしまった。だが、賢者は俺の言うことなど全く気にした様子もなく続ける。
「間違いないはずです。何しろこの儀式には1000人の魔術師たちが参加していましたから。全員の魔法力を合計してもあなたの足元にも及ばないでしょう」
気付けば俺が今いるこのフロアには、息も絶え絶えの魔術師らしき人々が床に転がっている。幸いにも命には別条は無さそうだが、誰も彼も干からびたミミズのようにやせ細ってしまっている。
だが、それでも俺には無理だ。俺はただの日本人で――。
「貴方様のマッスル力さえあれば、マッスルの王やマッスル族。マッスル物など、いとも簡単に蹴散らすことができるはずです!!」
「え? いま、なんて?」
俺の聞き間違えでなければ、今この人マッスルって言ったよな? 確かに俺は筋肉ムキムキだし、頭以外は割とマッチョな感じだけどさ。
「ですから、貴方の鍛え抜かれたマッスルがあれば、あの憎き筋肉自慢のマッスル王たちを倒すことも夢ではないのです!!」
そう言って再び俺の手を取ると、ブンブンと上下に振る賢者さん。
「あの、一つ聞きたいのですが」
「はい! なんなりと!」
「魔王とか魔物の魔って、もしかして“魔”じゃなくて、マッスルの"マ”なの?」
「はい!!」
キラキラとした期待に満ちた目で俺の顔を見る人々。
「……………………あの、元の世界に帰らせてもらっても良いですか? 筋トレしたいんで」
ままままま ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます